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・【07 事件3.海老の銅像に墨汁・事件編】
・
ある日の登校時、校門のあたりで人がざわついているので、何だろうと思いながら俺も喧騒のほうに目をやると、妙にカッコイイ海老の像が墨汁で汚されていた。
こういうイタズラするヤツって何かいるよなぁ、と思いながら、その前を通り過ぎて、教室に着き、いつも通り自主勉をし始めた。
朝のホームルーム直前に佐藤さんが登校してくるなり、俺に向かってこう言った。
「益岡! 事件だし!」
……あぁ、多分あの妙にカッコイイ海老の像の墨汁について言っているわけだな。
確かに佐藤さんの名を上げるには、ちょうどいい事件ではあるなぁ、とか考えていると、佐藤さんが、
「早く現場検証行くし!」
と言ったところで朝のチャイムが鳴った。
「まあ昼休みでいいんじゃないか?」
と俺が言ったところで、井原先生が入ってきて、
「益岡、佐藤、やったな! 事件だな!」
と佐藤さんと、佐藤さん越しの俺にガッツポーズしてきて、本来事件はあっちゃダメなんだけどもな、とは思った。
朝のホームルームはそこそこに、井原先生が、
「益岡、佐藤、お行きなさい!」
と言ってくれて、一限目前のちょっと長めの休憩時間で俺と佐藤さんは妙にカッコイイ海老の銅像のほうへ走ることになった。
しかし現場に到着して愕然としてしまった。
何故なら生徒会の朝日会長と村上副会長がせっせと掃除をしていたからだ。
朝日会長は爽やかなルックスと持ち前の弁論の強さによって、ちょっとした先生(教頭先生など)よりも人気があり、女子の間ではまるで当然という顔でファンクラブがあり、村上副会長は清廉で潔白なイメージを地でいくような言動と長めのスカートで、この二人の人気は火を見るよりも明らかで、巷ではこの二人がダブル主人公の薄い本も出回っているという噂もある。
朝日会長は俺と佐藤さんを見るなり、
「おっ、犯人か?」
と軽口を叩くように言ってきて、俺は首をブンブン横に振りながら、
「違います!」
佐藤さんはチッチッチと人差し指を揺らしながら、
「銅像墨汁事件の現場検証に来た探偵っす」
すると村上副会長が、
「まあ犯人は現場に戻ると言いますけどもね」
と鼻で笑って、少し嫌な感じだなぁ、と思った。
佐藤さんは妙にカッコイイ海老の銅像をまじまじと見てから、
「というかこんなに素早く洗ってる二人のほうが怪しいっすけどねぇ、自己顕示欲はもう満たせたっすかぁ?」
佐藤さんの毒っ気にすぐ気付いた(当たり前か)朝日会長が、
「僕たちが犯人だと言うのかい? 僕たちは椎名先生から言われて掃除しているだけだが」
「早過ぎるってことっすよぉ? 何か負い目でもあるんじゃないんっすかぁ?」
「君、一年だろ。ちょっと目上の人間に失礼なんじゃないか?」
「最初に犯人扱いしてきたのはそっちだしぃ、やっと対等ってヤツじゃないっすかぁ?」
と佐藤さんがニヤニヤしながら言ったところで、村上副会長が割って入ってきて、
「まあ探偵遊びなんかしているバカ一年は無視して洗い終えましょう」
「遊びじゃないっすけどねぇ? 旧校舎の保健室の事件を解決したのあーしたちだしぃ」
すると朝日会長が眉をピクンとさせてから、
「あぁ、あの、規制線張っていたのに無理して入って強引に解決したヤツか。あれもオマエらが犯人だったんじゃないか?」
「あーしは処女じゃねぇし」
と即答した佐藤さんに、頬を赤らめて俯いた村上副会長。
朝日会長は村上副会長をかばうような言い方で、
「そういうはしたない言葉は使うな!」
佐藤さんは鼻の近くをほじるように掻きながら、
「だってあの事件はそういう話じゃん」
「でもだなぁ!」
佐藤さんは面倒クサそうに舌打ちしてから、
「まあもう現場荒らしちゃったら現場検証の意味無いんで、帰るし、益岡っ」
「まあそうだなぁ……」
何かこっちのこと怪しんできて嫌な二人組だなと思いながら、二人で廊下を歩いていると、佐藤さんが、
「ぜってぇ犯人見つけ出して、あの二人をコテンパンにしてやろうな! 益岡! んでもってあーしはあの二人が犯人だと思うし!」
「まあ確かに洗うのが早過ぎて怪しいというところはあるけども、それなら早く洗うことを命じたであろう、椎名先生も怪しいかもな」
「さすがに先生が墨汁で銅像を汚すとかありえなくね?」
「まあ確かにそうだけども、それを言うと生徒会長の朝日会長と村上副会長がやるというのもなんというか」
と俺が普通に答えたところで、佐藤さんは目を皿のようにしながら、
「生徒会長だったんっ?」
「いやそうだけども。まあ別に一高校の生徒会長ごときにビビる筋合いも無いけどな」
「……益岡って結構大物な考え方だな……まあ確かに高校でお・・・」
「それ以上は言うな、廊下だぞ」
「まあそうだなぁ」
と窓の外のほうをぼんやり向いた佐藤さん。
佐藤さんって生徒会長とかに威厳を感じるほうだったんだ。なんとなく意外。どうでもいいけども。
まあ現場検証ができなかったことは事実なので、もうこれ以上やりようがないような気もするけども、う~ん。
俺としては椎名先生が怪しいと思うんだよな、こんな早く命じるって何か裏があるような。
でも動機が分からない。確か椎名先生ってこの妙にカッコイイ海老の銅像を好いていたような気がする。
うん、何か一瞬そんな現場に立ち会ったというか、そんなこと呟いているところをすれ違ったような。
あの時、椎名先生ってなんて言っていたっけなぁ。
その後、授業&授業で昼休み、改めて妙にカッコイイ海老の銅像の前へ二人で行くと、朝日会長が一人でいて、俺と佐藤さんを見るなり、こう言った。
「やっぱり犯人って戻ってくるんだな」
でもそんなイヤミったらしい感じじゃなくて、爽やかに、冗談っぽく言ってきたので、俺も冷静に、
「だとしたら戻ってき過ぎですよね」
と答えたんだけども、佐藤さんはもう頭に血が上っている感じで、
「さすがに酷いっす!」
と声を荒らげた。
朝日会長はハハッと笑いながら、
「今から一応乾拭き、もう証拠が無くて探偵はお手上げでしょ? 一緒に銅像磨いて終わりにしようよ」
そう言って白いタオルを俺と佐藤さんに渡してきた。
俺がすぐ受け取ると、佐藤さんも俺の顔を確認しながら受け取った。
「朝日会長は誰が犯人だと思っているんですか?」
即座に”オマエたち”と言われたら、軽くタオルで叩こうと思っていたのだが、
「まあ選択肢が多すぎるからね、墨汁というのも書道の選択授業とかで使うし」
「とはいえ量がすごかったですよね、この妙にカッコイイ海老の銅像全体が黒くなっていましたよね」
するとキョトンとした顔をした朝日会長。
ちょっとした間の後に、
「妙にカッコイイだなんて椎名先生と同じ感性だね、椎名先生もそんなようなこと言っていたよ」
「いやカッコイイじゃないですか」
と俺が淡々と言ったところで佐藤さんが吹き出して、
「いやカッコイイて! というか何で海老って面白くなぁいっ?」
朝日会長は優しく微笑みながら、
「ねっ、僕もそう思った。海が近い高校とはいえ、海老の銅像ってね」
佐藤さんと朝日会長で笑い合っているけども、いや、
「その前に。この妙にカッコイイ海老の銅像の墨汁の量、まるで用意していたようにすごかったですよね。計画性があるというか」
朝日会長はうんとアゴを沈ませてから、
「確かに。書道の選択授業をしていた子らが複数人で?」
佐藤さんはう~んと唸ってから、
「でもさ、書道選択するヤツって何か真面目な感じじゃね? 図工とかのほうが荒ぶる感じするっすけどねぇ」
朝日会長は即座に、
「またでもで申し訳ないけども、計画的に墨汁を持ち込むの面倒じゃないかな。運ぶには車が必要というか。そう考えると外部の犯行だって考えられるよね」
「じゃあ選択肢無限大じゃぁーん!」
と佐藤さんが叫んだところで、朝日会長はニコッと笑ってから、
「だからさ、犯人なんて考えずに銅像を綺麗にすれば内申点も上がっていいよ。僕から言っておくよ、一年生の子も手伝ってくれたって。二人の名前は?」
ちょっと佐藤さんは驚きおののきしながら、
「内申点とかっ、朝日会長も考えるんっすか?」
「そりゃ勿論。そのための生徒会長じゃないか。もしかすると君たちの探偵というのもそういうことだよね?」
「まっ、まあそうっすけども……」
「そういう面白いこと、僕は好きだよ。結局僕は正攻法で生徒会長になったけどね。犯人、見つけだせたら面白いだろうねぇ」
そう感慨深そうに頷いた朝日会長、すぐに「あっ」といった感じに、
「まあそれよりも確実性のあるお手伝いの話ね、名前を教えてよ、他の先生方に伝えておくよ。銅像を綺麗にした生徒ってことでね」
「俺は益岡邦弘です」
「あーしは佐藤絵梨花っすー」
「じゃあこっからはしっかり乾拭きして終えようか」
俺と佐藤さんと朝日会長は雑談をしながら、妙にカッコイイ海老の銅像を綺麗にした。
朝日会長は朝の時の印象とは違い、何だか優しい、何なら頼りになる先輩って感じだった。
どうやらこっちが本当の朝日会長って感じがした。朝は早めに掃除を命じられてちょっとイライラしていたっぽい?
放課後。
いつも通り、佐藤さんと校門をくぐったところで、佐藤さんが小声で、
「逆に朝日会長、怪しくなかった?」
「それで言えば、何故かいなかった村上副会長のほうが怪しいけども」
そう、俺の見立てでは朝日会長は全然怪しくない。
とはいえ、村上副会長が怪しいという感じも実はしていない。流れ上、そう答えたけども、う~ん、まあどっちにしろ、しっくりはこない。
「う~ん、どっちだろうねぇ」
と佐藤さんは唸り声を上げ、
「どっちかと決まったわけではないだろ、というか墨汁を持ち運ぶ方法も微妙だし、普通に外部かもしんないし」
「いや何か怪しいと思うんだけどもねぇ、朝日会長のこと。ほら、内申点の自作自演とかさ!」
「バレた時、内申点ゴン下げでしょ」
そんな会話をしながら、またそれぞれの家路に着いて、俺は自室でオナニーをすることにした。
俺は特にこのシーンで、という気持ちではなかったので、適当に池橋栄子の動画から一つを選んで見始めた。
適当にスクロールバーを移動させると、池橋栄子がお風呂場で身体を洗っているシーンになった。
池橋栄子はいわゆる巨乳で、ただ身体を洗うというよりも、意味無く……否、意味アリで身体を揺らしながら、体中を泡だらけにしていく。
泡も白色というのがいい。何がどういいとかはあえて脳内で描写して興奮するほうなので、精子感があって良い。
果てた時、前の精液をちゃんとティッシュで取らず、そのまま二回目に移行してシコると、精子も泡立つからなぁ。
胸が揺れて、胸元の泡がふわっと飛んで幻想的だ。勿論セクシーなんだけども可愛さもある表情でその泡をやんわり眺めている。
いっぱい泡だらけになったところでシャワーで洗い流す。
水を弾く綺麗な肌で……まあ、ちょっとだけ手前に戻して、この胸も泡も揺れているシーンで果てることにするか。
一気にチンコをしごく速度を上げて、射精した。脳の奥から快感物質が漏れ出るような感覚。脳汁とチン汁。俺はこれを信じる……なんてバカみたいな押韻をしてしまうくらいには良い気持ちのあとに絶望が押し寄せる。
決して賢者タイムが到来しているわけじゃない、またオナニー日記を書かないといけないことにだ。
あれから毎日オナニー日記を送っているが、全然慣れないし、多分慣れたらおしまいだと思っているので慣れなくていい。
今日も手を震わせながら、LINEの文章を打って送った。
『池橋栄子が泡だらけになって身体を揺らすシーンで射精しました』
また即座に既読がつき、せめて返信が無ければ、と願っているが、そんなことはなく、
『カラダが身体にあえてしてるところがキモイし』
こんな文章なのに、自分でこだわって変換していたことに気付き、恥ずかしくて仕方ない。
矢継ぎ早に佐藤さんから次のLINEがきて、
『ホントに池橋栄子が好きだし 一途過ぎだし』
『それは別にいいだろ。俺は池橋栄子が好きなんだから』
『AVじゃなくてホントにいいの?』
『AVは怖いんだよ』
と打って送った時にハッとした。ここは絶対イジられると。
でもそれ以上の返信は無く、拍子抜けはしたものの、こなくて良かったと胸をなで下ろした。
”AVは怖い”
改めて文章にして自分で「うっ」となってしまった。
俺は怖いんだ。
そもそも男性が怖いんだ。
朝日会長と普通に会話できたのも、佐藤さんが近くにいるからで、本当は男性がたまらなく怖いんだ。
俺は、俺は、何にもできなかったから……って、せっかくオナニーして気持ち良いのに、こんな鬱になっていたら仕方ない。
こんな脳内が真っ暗闇になって、真っ暗闇……待てよ。
・【07 事件3.海老の銅像に墨汁・事件編】
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ある日の登校時、校門のあたりで人がざわついているので、何だろうと思いながら俺も喧騒のほうに目をやると、妙にカッコイイ海老の像が墨汁で汚されていた。
こういうイタズラするヤツって何かいるよなぁ、と思いながら、その前を通り過ぎて、教室に着き、いつも通り自主勉をし始めた。
朝のホームルーム直前に佐藤さんが登校してくるなり、俺に向かってこう言った。
「益岡! 事件だし!」
……あぁ、多分あの妙にカッコイイ海老の像の墨汁について言っているわけだな。
確かに佐藤さんの名を上げるには、ちょうどいい事件ではあるなぁ、とか考えていると、佐藤さんが、
「早く現場検証行くし!」
と言ったところで朝のチャイムが鳴った。
「まあ昼休みでいいんじゃないか?」
と俺が言ったところで、井原先生が入ってきて、
「益岡、佐藤、やったな! 事件だな!」
と佐藤さんと、佐藤さん越しの俺にガッツポーズしてきて、本来事件はあっちゃダメなんだけどもな、とは思った。
朝のホームルームはそこそこに、井原先生が、
「益岡、佐藤、お行きなさい!」
と言ってくれて、一限目前のちょっと長めの休憩時間で俺と佐藤さんは妙にカッコイイ海老の銅像のほうへ走ることになった。
しかし現場に到着して愕然としてしまった。
何故なら生徒会の朝日会長と村上副会長がせっせと掃除をしていたからだ。
朝日会長は爽やかなルックスと持ち前の弁論の強さによって、ちょっとした先生(教頭先生など)よりも人気があり、女子の間ではまるで当然という顔でファンクラブがあり、村上副会長は清廉で潔白なイメージを地でいくような言動と長めのスカートで、この二人の人気は火を見るよりも明らかで、巷ではこの二人がダブル主人公の薄い本も出回っているという噂もある。
朝日会長は俺と佐藤さんを見るなり、
「おっ、犯人か?」
と軽口を叩くように言ってきて、俺は首をブンブン横に振りながら、
「違います!」
佐藤さんはチッチッチと人差し指を揺らしながら、
「銅像墨汁事件の現場検証に来た探偵っす」
すると村上副会長が、
「まあ犯人は現場に戻ると言いますけどもね」
と鼻で笑って、少し嫌な感じだなぁ、と思った。
佐藤さんは妙にカッコイイ海老の銅像をまじまじと見てから、
「というかこんなに素早く洗ってる二人のほうが怪しいっすけどねぇ、自己顕示欲はもう満たせたっすかぁ?」
佐藤さんの毒っ気にすぐ気付いた(当たり前か)朝日会長が、
「僕たちが犯人だと言うのかい? 僕たちは椎名先生から言われて掃除しているだけだが」
「早過ぎるってことっすよぉ? 何か負い目でもあるんじゃないんっすかぁ?」
「君、一年だろ。ちょっと目上の人間に失礼なんじゃないか?」
「最初に犯人扱いしてきたのはそっちだしぃ、やっと対等ってヤツじゃないっすかぁ?」
と佐藤さんがニヤニヤしながら言ったところで、村上副会長が割って入ってきて、
「まあ探偵遊びなんかしているバカ一年は無視して洗い終えましょう」
「遊びじゃないっすけどねぇ? 旧校舎の保健室の事件を解決したのあーしたちだしぃ」
すると朝日会長が眉をピクンとさせてから、
「あぁ、あの、規制線張っていたのに無理して入って強引に解決したヤツか。あれもオマエらが犯人だったんじゃないか?」
「あーしは処女じゃねぇし」
と即答した佐藤さんに、頬を赤らめて俯いた村上副会長。
朝日会長は村上副会長をかばうような言い方で、
「そういうはしたない言葉は使うな!」
佐藤さんは鼻の近くをほじるように掻きながら、
「だってあの事件はそういう話じゃん」
「でもだなぁ!」
佐藤さんは面倒クサそうに舌打ちしてから、
「まあもう現場荒らしちゃったら現場検証の意味無いんで、帰るし、益岡っ」
「まあそうだなぁ……」
何かこっちのこと怪しんできて嫌な二人組だなと思いながら、二人で廊下を歩いていると、佐藤さんが、
「ぜってぇ犯人見つけ出して、あの二人をコテンパンにしてやろうな! 益岡! んでもってあーしはあの二人が犯人だと思うし!」
「まあ確かに洗うのが早過ぎて怪しいというところはあるけども、それなら早く洗うことを命じたであろう、椎名先生も怪しいかもな」
「さすがに先生が墨汁で銅像を汚すとかありえなくね?」
「まあ確かにそうだけども、それを言うと生徒会長の朝日会長と村上副会長がやるというのもなんというか」
と俺が普通に答えたところで、佐藤さんは目を皿のようにしながら、
「生徒会長だったんっ?」
「いやそうだけども。まあ別に一高校の生徒会長ごときにビビる筋合いも無いけどな」
「……益岡って結構大物な考え方だな……まあ確かに高校でお・・・」
「それ以上は言うな、廊下だぞ」
「まあそうだなぁ」
と窓の外のほうをぼんやり向いた佐藤さん。
佐藤さんって生徒会長とかに威厳を感じるほうだったんだ。なんとなく意外。どうでもいいけども。
まあ現場検証ができなかったことは事実なので、もうこれ以上やりようがないような気もするけども、う~ん。
俺としては椎名先生が怪しいと思うんだよな、こんな早く命じるって何か裏があるような。
でも動機が分からない。確か椎名先生ってこの妙にカッコイイ海老の銅像を好いていたような気がする。
うん、何か一瞬そんな現場に立ち会ったというか、そんなこと呟いているところをすれ違ったような。
あの時、椎名先生ってなんて言っていたっけなぁ。
その後、授業&授業で昼休み、改めて妙にカッコイイ海老の銅像の前へ二人で行くと、朝日会長が一人でいて、俺と佐藤さんを見るなり、こう言った。
「やっぱり犯人って戻ってくるんだな」
でもそんなイヤミったらしい感じじゃなくて、爽やかに、冗談っぽく言ってきたので、俺も冷静に、
「だとしたら戻ってき過ぎですよね」
と答えたんだけども、佐藤さんはもう頭に血が上っている感じで、
「さすがに酷いっす!」
と声を荒らげた。
朝日会長はハハッと笑いながら、
「今から一応乾拭き、もう証拠が無くて探偵はお手上げでしょ? 一緒に銅像磨いて終わりにしようよ」
そう言って白いタオルを俺と佐藤さんに渡してきた。
俺がすぐ受け取ると、佐藤さんも俺の顔を確認しながら受け取った。
「朝日会長は誰が犯人だと思っているんですか?」
即座に”オマエたち”と言われたら、軽くタオルで叩こうと思っていたのだが、
「まあ選択肢が多すぎるからね、墨汁というのも書道の選択授業とかで使うし」
「とはいえ量がすごかったですよね、この妙にカッコイイ海老の銅像全体が黒くなっていましたよね」
するとキョトンとした顔をした朝日会長。
ちょっとした間の後に、
「妙にカッコイイだなんて椎名先生と同じ感性だね、椎名先生もそんなようなこと言っていたよ」
「いやカッコイイじゃないですか」
と俺が淡々と言ったところで佐藤さんが吹き出して、
「いやカッコイイて! というか何で海老って面白くなぁいっ?」
朝日会長は優しく微笑みながら、
「ねっ、僕もそう思った。海が近い高校とはいえ、海老の銅像ってね」
佐藤さんと朝日会長で笑い合っているけども、いや、
「その前に。この妙にカッコイイ海老の銅像の墨汁の量、まるで用意していたようにすごかったですよね。計画性があるというか」
朝日会長はうんとアゴを沈ませてから、
「確かに。書道の選択授業をしていた子らが複数人で?」
佐藤さんはう~んと唸ってから、
「でもさ、書道選択するヤツって何か真面目な感じじゃね? 図工とかのほうが荒ぶる感じするっすけどねぇ」
朝日会長は即座に、
「またでもで申し訳ないけども、計画的に墨汁を持ち込むの面倒じゃないかな。運ぶには車が必要というか。そう考えると外部の犯行だって考えられるよね」
「じゃあ選択肢無限大じゃぁーん!」
と佐藤さんが叫んだところで、朝日会長はニコッと笑ってから、
「だからさ、犯人なんて考えずに銅像を綺麗にすれば内申点も上がっていいよ。僕から言っておくよ、一年生の子も手伝ってくれたって。二人の名前は?」
ちょっと佐藤さんは驚きおののきしながら、
「内申点とかっ、朝日会長も考えるんっすか?」
「そりゃ勿論。そのための生徒会長じゃないか。もしかすると君たちの探偵というのもそういうことだよね?」
「まっ、まあそうっすけども……」
「そういう面白いこと、僕は好きだよ。結局僕は正攻法で生徒会長になったけどね。犯人、見つけだせたら面白いだろうねぇ」
そう感慨深そうに頷いた朝日会長、すぐに「あっ」といった感じに、
「まあそれよりも確実性のあるお手伝いの話ね、名前を教えてよ、他の先生方に伝えておくよ。銅像を綺麗にした生徒ってことでね」
「俺は益岡邦弘です」
「あーしは佐藤絵梨花っすー」
「じゃあこっからはしっかり乾拭きして終えようか」
俺と佐藤さんと朝日会長は雑談をしながら、妙にカッコイイ海老の銅像を綺麗にした。
朝日会長は朝の時の印象とは違い、何だか優しい、何なら頼りになる先輩って感じだった。
どうやらこっちが本当の朝日会長って感じがした。朝は早めに掃除を命じられてちょっとイライラしていたっぽい?
放課後。
いつも通り、佐藤さんと校門をくぐったところで、佐藤さんが小声で、
「逆に朝日会長、怪しくなかった?」
「それで言えば、何故かいなかった村上副会長のほうが怪しいけども」
そう、俺の見立てでは朝日会長は全然怪しくない。
とはいえ、村上副会長が怪しいという感じも実はしていない。流れ上、そう答えたけども、う~ん、まあどっちにしろ、しっくりはこない。
「う~ん、どっちだろうねぇ」
と佐藤さんは唸り声を上げ、
「どっちかと決まったわけではないだろ、というか墨汁を持ち運ぶ方法も微妙だし、普通に外部かもしんないし」
「いや何か怪しいと思うんだけどもねぇ、朝日会長のこと。ほら、内申点の自作自演とかさ!」
「バレた時、内申点ゴン下げでしょ」
そんな会話をしながら、またそれぞれの家路に着いて、俺は自室でオナニーをすることにした。
俺は特にこのシーンで、という気持ちではなかったので、適当に池橋栄子の動画から一つを選んで見始めた。
適当にスクロールバーを移動させると、池橋栄子がお風呂場で身体を洗っているシーンになった。
池橋栄子はいわゆる巨乳で、ただ身体を洗うというよりも、意味無く……否、意味アリで身体を揺らしながら、体中を泡だらけにしていく。
泡も白色というのがいい。何がどういいとかはあえて脳内で描写して興奮するほうなので、精子感があって良い。
果てた時、前の精液をちゃんとティッシュで取らず、そのまま二回目に移行してシコると、精子も泡立つからなぁ。
胸が揺れて、胸元の泡がふわっと飛んで幻想的だ。勿論セクシーなんだけども可愛さもある表情でその泡をやんわり眺めている。
いっぱい泡だらけになったところでシャワーで洗い流す。
水を弾く綺麗な肌で……まあ、ちょっとだけ手前に戻して、この胸も泡も揺れているシーンで果てることにするか。
一気にチンコをしごく速度を上げて、射精した。脳の奥から快感物質が漏れ出るような感覚。脳汁とチン汁。俺はこれを信じる……なんてバカみたいな押韻をしてしまうくらいには良い気持ちのあとに絶望が押し寄せる。
決して賢者タイムが到来しているわけじゃない、またオナニー日記を書かないといけないことにだ。
あれから毎日オナニー日記を送っているが、全然慣れないし、多分慣れたらおしまいだと思っているので慣れなくていい。
今日も手を震わせながら、LINEの文章を打って送った。
『池橋栄子が泡だらけになって身体を揺らすシーンで射精しました』
また即座に既読がつき、せめて返信が無ければ、と願っているが、そんなことはなく、
『カラダが身体にあえてしてるところがキモイし』
こんな文章なのに、自分でこだわって変換していたことに気付き、恥ずかしくて仕方ない。
矢継ぎ早に佐藤さんから次のLINEがきて、
『ホントに池橋栄子が好きだし 一途過ぎだし』
『それは別にいいだろ。俺は池橋栄子が好きなんだから』
『AVじゃなくてホントにいいの?』
『AVは怖いんだよ』
と打って送った時にハッとした。ここは絶対イジられると。
でもそれ以上の返信は無く、拍子抜けはしたものの、こなくて良かったと胸をなで下ろした。
”AVは怖い”
改めて文章にして自分で「うっ」となってしまった。
俺は怖いんだ。
そもそも男性が怖いんだ。
朝日会長と普通に会話できたのも、佐藤さんが近くにいるからで、本当は男性がたまらなく怖いんだ。
俺は、俺は、何にもできなかったから……って、せっかくオナニーして気持ち良いのに、こんな鬱になっていたら仕方ない。
こんな脳内が真っ暗闇になって、真っ暗闇……待てよ。