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・【06 事件2.毒舌女子・解決編】
・
池橋栄子が棒読みの台詞で喋っているところ、既視感を抱いたなと思ったら、これ、伊織さんの喋り方だ。
そうだ、伊織さんって本当に、何か無表情というか、冷たいとか思っていたけども、何よりも棒台詞かもしれない。
まるで言わされているような、と思った時、あることが浮かんだ。
それは、もしかすると伊織さんは誰かに毒舌を言わされている……否、桃井さんから毒舌を言わされている……?
伊織さんの毒舌を桃井さんが止めることにより、桃井さんは株を上げている的な。
そう仮定すると、桃井さんの何か嫌なニヤニヤ感も分かるような気がする。
伊織さんをかばうことにより、自分の株を上げている自分にニヤついてしまうみたいな。
ということは伊織さんは桃井さんに弱みを握られているということかっ?
それって、可哀想というか、まんま俺みたいな、いやまだ俺の妄想だけども。
でもあの時の、俺と佐藤さんが探偵をするということになったホームルームの、あの訴えかけるような瞳に、柔和な時との二重人格感……は、そうか、近くに桃井さんがいないからだ。
桃井さんがいないところでは本当の自分、柔和な自分のまま居られるということか。
どうにかして伊織さんにコンタクトをとりたい。
そうだ、
『佐藤さん、伊織さんのLINE知らない?』
すると即座に既読がついたけども、返信は全然来ない。
でも既読がついたらすぐ返信するよなと思いつつ、モヤモヤしながら待っていると、五分後返信がきた。
『急にどしたん?伊織のこと好きなの?』
『そうじゃなくて。伊織さんの毒舌ってもしかしたら言わされているのかなって思って』
そこから俺がLINEで今思っていることを説明すると、佐藤さんが、
『あーしはクラスメイト全員と交換してるし、じゃあ益岡もグループに入れるから入ってきて』
とグループというヤツに招待された。これで合ってるのかなと思いつつ、クリックしていくと、もう伊織さんと佐藤さんの間ではやり取りが行なわれていたらしく、
『よく気付いてくれましたね 益岡くん ありがとう』
というLINEが送られてきた。
やっぱりそうなんだ。
何か違和感を抱くような喋り方だったんだよなぁ。
今思えば誰かに気付いてほしいがために、あんな棒台詞で喋っていたんだ。
そんなことを考えていると、すぐに伊織さんからまたLINEがきて、
『でも私は弱みを握られていて この関係を続けるしかないんです』
やっぱり弱みか、でも、
『俺に作戦がある。伊織さんの事情を全く知らないような状態で・・・』
と俺が作戦を書くと、伊織さんは矢継ぎ早に、
『でもそんなことすると益岡くんは桃井さん界隈から嫌われてしまいます』
『いいよ、俺元々クラスに馴染んでないし』
そんな感じで会話は終わった。
佐藤さんも俺の案に乗っかる形で二対一になったので、実行することが伊織さんからも許可が出た。
というか弱みを握るってかなり腹立つな。どんな弱みかは知らないけども、卑怯過ぎる。
まあ俺も弱みというかキンタマを握られている状態だけども。
だから同情してしまうのかもしれないし、同時に俺は学校オナニーだから最低ランクなんだろうなという自負もありつつ。
次の日、その作戦を実行することにした。
いつも通り、伊織さんは男子に悪態をつき始めたわけだけども、今回は俺がそれとなく近くに立っている。
「何か 男子って クサい、キモい んだから せめて ちゃんと 匂いの ケアとか しなよ」
相変わらず棒台詞だなぁ、と思っていると、早速桃井さんが男子をかばい始めた。
「ちょっとぉ、伊織ったらまた辛辣なぁ、そういう匂いのこと言うの良くないよぉ、アタシは全然男子のことクサいって思わないしぃ」
ここだ、俺はズイッと前に出ながら言うことにした。
「つーか桃井さんの、その私は分かってますみたいに男子をかばう感じが逆に気持ち悪いよ、株でも上げようとしてんの?」
すると顔を真っ赤にした桃井さんが、
「な! なにを! 急に!」
「いやだっていっつも伊織さんが毒舌言う度に何か言われたほうかばってさ、それもニヤニヤ、ニヤニヤ、本当はバカにしてんじゃないの?」
そう、伊織さんを、ね。
言わせている伊織さんのことをバカにしているから、あんなニヤニヤしているんだろう。
桃井さんは地団駄を踏んでから、
「うるさい! そんなんじゃないし! 行こ! 何か益岡がキモイ!」
と自分の取り巻きを連れて教室から出て行った。
まあこんなもんかなと思っていると、男子の一人が、
「どしたん? 益岡」
と聞いてきたので、
「別に。何かあういう群れになってるの無理なんだわ」
と言って自分の席に戻ることにした。
自然かな、不自然かな、でももう終わったことだしと思いつつも、心臓がバクバクいっている。
伊織さんとはその後、絶対に会話をしない約束なので(グルだとバレないように)、俺は伊織さんのほうは見ず、自主勉をし始めた。
その後、昼休みの時に伊織さんと桃井さんが二人っきりでどこかへ行ったけども、すぐに戻ってきて、まあ何か伊織さんが締められた感じではなかったので良かった。
そんな俺は佐藤さんとまた面白動画の話をして、本当に何か友達みたいに触れ合ってきて、どういうことだとそっちのことばかり考えていた。
授業も授業&授業で終わって放課後になって、佐藤さんと二人で校門をくぐる時に、うちの高校にある妙にカッコイイ海老の銅像をじっと見ている椎名先生が、
「今日も美しいのだが……」
と意味ありげに唸っていることは無視して、佐藤さんとはそのまま途中まで一緒に帰って、自分の家へ戻ってきて、軽くオナニーして、オナニー日記を送ったところで伊織さんからLINEがきた。
『ありがとうございます! 桃井が益岡くんのソレに懲りて もう毒舌を言わなくて済むそうです!』
『良かったね』
『本当どうお礼していいか!』
とハイテンションなLINEが送られてきて、何か内心、心が踊っていると、急に佐藤さんがこんなLINEをして、えっ、と生返事というか生声が出てしまった。
『でもまあ益岡は毎日のオナニーの感想を書いて日記にしているヤバイヤツなので あんま気持ちが近くならないほうがいいし』
ななななななななんてことを書くんだぁぁぁああああああああああああああああああああああああああ! ちょっと待て! マジかよ! 急にこんなこと書くか! 普通! うわぁぁぁあああああああ! 何か思考が止まらない! シコシコも止まらない! じゃなくて! ダメだ! 頭がおかしくなってる! 脳内がチンコになってきた! どういうことっ? マジでどういうことっ? 俺っ! じゃなくて佐藤さん! 何で急にそんなことを書いたんだよ! ちょ! 否定! するか! 否定するしかないか! いやいや! まともに思考できない! どうしよう! うわぁぁあああああ! マジでどうしよう! そんな! だって! こんな! タイミング無いだろ! うわぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああ! って! もう声に出てるし! デカい声出てるし!
『そそそうなんだ 益岡くんって そしてそんなこと話している仲って佐藤さんと益岡くんって仲いいねっ』
何かぁぁあああああああああああ! 最大限に優しい文章になってるぅぅううううううううううううううううう! 仲良くていいねって話になってるぅぅぅうううううううううううううううう! いやいや俺も弱みを握られていて! って! 言ったらダメだろうなぁぁああああああああ! うわぁぁあああああああああああああああああ! 何これぇぇぇええええええええええええええええええ! どう返信すればいいんだよぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!
『そう あーしと益岡 めっちゃ仲良いし』
『何かすごい関係だねっ でも益岡くんに感謝していることは事実だからね 引き続き佐藤さんと仲良くね 益岡くん』
”でも”ぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!
でもって! 言ってるぅぅううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううう!
結局否定はできなかった。
だってもう、終わりだったから。
せっかく何か、良い感じになったのに、簡単にキラーされてしまった。
これが佐藤さんの奴隷というヤツなのか。
俺は一生佐藤さんから離れることができないのかもしれない。端的に言うと絶望した。
今はもう理路整然になっている。
完全に終わりだということが分かったから。
・【06 事件2.毒舌女子・解決編】
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池橋栄子が棒読みの台詞で喋っているところ、既視感を抱いたなと思ったら、これ、伊織さんの喋り方だ。
そうだ、伊織さんって本当に、何か無表情というか、冷たいとか思っていたけども、何よりも棒台詞かもしれない。
まるで言わされているような、と思った時、あることが浮かんだ。
それは、もしかすると伊織さんは誰かに毒舌を言わされている……否、桃井さんから毒舌を言わされている……?
伊織さんの毒舌を桃井さんが止めることにより、桃井さんは株を上げている的な。
そう仮定すると、桃井さんの何か嫌なニヤニヤ感も分かるような気がする。
伊織さんをかばうことにより、自分の株を上げている自分にニヤついてしまうみたいな。
ということは伊織さんは桃井さんに弱みを握られているということかっ?
それって、可哀想というか、まんま俺みたいな、いやまだ俺の妄想だけども。
でもあの時の、俺と佐藤さんが探偵をするということになったホームルームの、あの訴えかけるような瞳に、柔和な時との二重人格感……は、そうか、近くに桃井さんがいないからだ。
桃井さんがいないところでは本当の自分、柔和な自分のまま居られるということか。
どうにかして伊織さんにコンタクトをとりたい。
そうだ、
『佐藤さん、伊織さんのLINE知らない?』
すると即座に既読がついたけども、返信は全然来ない。
でも既読がついたらすぐ返信するよなと思いつつ、モヤモヤしながら待っていると、五分後返信がきた。
『急にどしたん?伊織のこと好きなの?』
『そうじゃなくて。伊織さんの毒舌ってもしかしたら言わされているのかなって思って』
そこから俺がLINEで今思っていることを説明すると、佐藤さんが、
『あーしはクラスメイト全員と交換してるし、じゃあ益岡もグループに入れるから入ってきて』
とグループというヤツに招待された。これで合ってるのかなと思いつつ、クリックしていくと、もう伊織さんと佐藤さんの間ではやり取りが行なわれていたらしく、
『よく気付いてくれましたね 益岡くん ありがとう』
というLINEが送られてきた。
やっぱりそうなんだ。
何か違和感を抱くような喋り方だったんだよなぁ。
今思えば誰かに気付いてほしいがために、あんな棒台詞で喋っていたんだ。
そんなことを考えていると、すぐに伊織さんからまたLINEがきて、
『でも私は弱みを握られていて この関係を続けるしかないんです』
やっぱり弱みか、でも、
『俺に作戦がある。伊織さんの事情を全く知らないような状態で・・・』
と俺が作戦を書くと、伊織さんは矢継ぎ早に、
『でもそんなことすると益岡くんは桃井さん界隈から嫌われてしまいます』
『いいよ、俺元々クラスに馴染んでないし』
そんな感じで会話は終わった。
佐藤さんも俺の案に乗っかる形で二対一になったので、実行することが伊織さんからも許可が出た。
というか弱みを握るってかなり腹立つな。どんな弱みかは知らないけども、卑怯過ぎる。
まあ俺も弱みというかキンタマを握られている状態だけども。
だから同情してしまうのかもしれないし、同時に俺は学校オナニーだから最低ランクなんだろうなという自負もありつつ。
次の日、その作戦を実行することにした。
いつも通り、伊織さんは男子に悪態をつき始めたわけだけども、今回は俺がそれとなく近くに立っている。
「何か 男子って クサい、キモい んだから せめて ちゃんと 匂いの ケアとか しなよ」
相変わらず棒台詞だなぁ、と思っていると、早速桃井さんが男子をかばい始めた。
「ちょっとぉ、伊織ったらまた辛辣なぁ、そういう匂いのこと言うの良くないよぉ、アタシは全然男子のことクサいって思わないしぃ」
ここだ、俺はズイッと前に出ながら言うことにした。
「つーか桃井さんの、その私は分かってますみたいに男子をかばう感じが逆に気持ち悪いよ、株でも上げようとしてんの?」
すると顔を真っ赤にした桃井さんが、
「な! なにを! 急に!」
「いやだっていっつも伊織さんが毒舌言う度に何か言われたほうかばってさ、それもニヤニヤ、ニヤニヤ、本当はバカにしてんじゃないの?」
そう、伊織さんを、ね。
言わせている伊織さんのことをバカにしているから、あんなニヤニヤしているんだろう。
桃井さんは地団駄を踏んでから、
「うるさい! そんなんじゃないし! 行こ! 何か益岡がキモイ!」
と自分の取り巻きを連れて教室から出て行った。
まあこんなもんかなと思っていると、男子の一人が、
「どしたん? 益岡」
と聞いてきたので、
「別に。何かあういう群れになってるの無理なんだわ」
と言って自分の席に戻ることにした。
自然かな、不自然かな、でももう終わったことだしと思いつつも、心臓がバクバクいっている。
伊織さんとはその後、絶対に会話をしない約束なので(グルだとバレないように)、俺は伊織さんのほうは見ず、自主勉をし始めた。
その後、昼休みの時に伊織さんと桃井さんが二人っきりでどこかへ行ったけども、すぐに戻ってきて、まあ何か伊織さんが締められた感じではなかったので良かった。
そんな俺は佐藤さんとまた面白動画の話をして、本当に何か友達みたいに触れ合ってきて、どういうことだとそっちのことばかり考えていた。
授業も授業&授業で終わって放課後になって、佐藤さんと二人で校門をくぐる時に、うちの高校にある妙にカッコイイ海老の銅像をじっと見ている椎名先生が、
「今日も美しいのだが……」
と意味ありげに唸っていることは無視して、佐藤さんとはそのまま途中まで一緒に帰って、自分の家へ戻ってきて、軽くオナニーして、オナニー日記を送ったところで伊織さんからLINEがきた。
『ありがとうございます! 桃井が益岡くんのソレに懲りて もう毒舌を言わなくて済むそうです!』
『良かったね』
『本当どうお礼していいか!』
とハイテンションなLINEが送られてきて、何か内心、心が踊っていると、急に佐藤さんがこんなLINEをして、えっ、と生返事というか生声が出てしまった。
『でもまあ益岡は毎日のオナニーの感想を書いて日記にしているヤバイヤツなので あんま気持ちが近くならないほうがいいし』
ななななななななんてことを書くんだぁぁぁああああああああああああああああああああああああああ! ちょっと待て! マジかよ! 急にこんなこと書くか! 普通! うわぁぁぁあああああああ! 何か思考が止まらない! シコシコも止まらない! じゃなくて! ダメだ! 頭がおかしくなってる! 脳内がチンコになってきた! どういうことっ? マジでどういうことっ? 俺っ! じゃなくて佐藤さん! 何で急にそんなことを書いたんだよ! ちょ! 否定! するか! 否定するしかないか! いやいや! まともに思考できない! どうしよう! うわぁぁあああああ! マジでどうしよう! そんな! だって! こんな! タイミング無いだろ! うわぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああ! って! もう声に出てるし! デカい声出てるし!
『そそそうなんだ 益岡くんって そしてそんなこと話している仲って佐藤さんと益岡くんって仲いいねっ』
何かぁぁあああああああああああ! 最大限に優しい文章になってるぅぅううううううううううううううううう! 仲良くていいねって話になってるぅぅぅうううううううううううううううう! いやいや俺も弱みを握られていて! って! 言ったらダメだろうなぁぁああああああああ! うわぁぁあああああああああああああああああ! 何これぇぇぇええええええええええええええええええ! どう返信すればいいんだよぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!
『そう あーしと益岡 めっちゃ仲良いし』
『何かすごい関係だねっ でも益岡くんに感謝していることは事実だからね 引き続き佐藤さんと仲良くね 益岡くん』
”でも”ぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!
でもって! 言ってるぅぅううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううう!
結局否定はできなかった。
だってもう、終わりだったから。
せっかく何か、良い感じになったのに、簡単にキラーされてしまった。
これが佐藤さんの奴隷というヤツなのか。
俺は一生佐藤さんから離れることができないのかもしれない。端的に言うと絶望した。
今はもう理路整然になっている。
完全に終わりだということが分かったから。