・【05 事件2.毒舌女子・事件編】


 いつも通り、伊織さんが男子に悪態をついている。
「そういう キモイ話、教室で しないでよ。だから 男子って キモイん だよなぁ」
 伊織さんはいつも無表情というか、冷たい顔でそう言い放つ。
 ドMにはたまらないだろうが、大体の人はそうではないので、男子は当然少し嫌悪感のある面持ちになるが、そこで友達の桃井さんが止めるように言うわけだ。
「ちょっとぉ、そういう言い方キツイから辞めたほうがいいってぇ。全く伊織ったらぁ」
 何だかちょっとニヤついているような言い方が鼻につくが、そうやって伊織さんの暴言というか厳しい口調をたしなめるのがいつもの流れだ。
 でも伊織さんはちょっとやそっとじゃ止まらない。
「いやいや、性的な 話って 男子だけの 場で やりなよ。ホントに キモイから 辞めてほしい んだけども」
「そんな言い方しないほうがいいってばぁ。ねっ、ねっ、ねっ」
 そう言って言われている男子に目配せしている桃井さん。
 また桃井さんは伊織さんの背中を優しく押しながら、その場を後にした。
 なんとなくその流れを見ていると、佐藤さんがこう言った。
「もしかするとぉ、伊織のことタイプぅ? 毒舌な上に巨乳だしぃ」
「いや全然違うけども」
「だってぇ、益岡って外でしちゃうくらいドMじゃぁん」
 ”外”と濁したり、直接的な単語を言わないでくれて有難いけども、
「ちょ……マジで、そういうの、やめてくれよ。教室内ではさっ」
 と俺は生唾を飲みんでから言うと、佐藤さんはニヤニヤしながら、
「えぇー、どうしようかなぁー」
 と惑わすような唇で笑った。
 マジでずっとこうなのか、少なくても高校生活はずっとこうなのか、自尊心がめりめり剥がれていくというか、もう、まだ擦り切れるか、俺の精神。
 そんなこんなで朝のホームルームになり、次の一限目は移動教室なので、教科書や筆記用具を持って立ち上がって散歩くらい歩いた時に、左斜め二個後ろの席の伊織さんにぶつかってしまって、ヤバイ、めっちゃいいろいろ言われると思っていると、
「あっ、ゴメン、ちょっと周り見てなかったから」
 と俺に対して言うだけで、
「いやいや俺も何か上の空だったわ、スマンな」
 と謝っておくと、
「何か二人で謝って面白いねっ」
 と柔和な顔で微笑んで、そのまま教室を後にして、何か、確かに伊織さんってこういう時あるんだよな、とは思った。
 伊織さんはいつもいつも毒舌なわけじゃなくて。
 さらに言うと、いつもいつも無表情なだけでもなくて。
 もしかするとキャラを作ってるのかな? いやだからって毒舌キャラを作る必要性があるってどういうこと? 普通、無理して柔和を作るんじゃないか?
 それとも毒舌キャラがカッコイイと思ってる中二病的なこと? よく分からん。
 よく分からんが、酷いこと言われなくてホッとした。
 俺はそれ以上のことは考えず、科学室に移動して、普通に授業を受けた。
 席も近いので、伊織さんと同じ班になったんだけども、全然大人しいというか、優しい面持ちで、全然あの毒舌感は無かった。
 授業も進んでいき、授業&授業で、昼休みになると、また伊織さんが男子に突っかかっていた。
「パンを ボロボロ こぼすなよ、そういうの 掃除する人の 気持ちにも なれよ、汚い んだよ」
 すると即座に桃井さんが、
「まあまあいいじゃん、伊織が全部掃除するわけじゃないんだから。あんま厳しく言うとモテないよぉ?」
 最後のモテないよぉ? の語尾の上げ方が何かキモくて、桃井、オマエのほうがキモイだろと思ってしまった。
 そんなことを考えながら、俺は自分で作ってきた弁当をモグモグ食べていると、佐藤さんが俺の隣の席に座って、弁当を取り出した。
 いや、
「一緒に食べるのかよ、他に友達いないの?」
「こっちの台詞だし」
「いやこっちの台詞でもあるだろ」
「あーしは広く浅くだからどうでもいいし」
 まあ実際、佐藤さんは科学室の時も遠くでバカ笑いあげながら、実験していたし、誰とでも仲良くなれるんだろうけどさ。
 佐藤さんは俺の弁当を見ながら、
「両親ホント忙しいんだねぇ、冷食ばっかじゃん」
「というか自分で作ってきてる。入れるだけだけど」
「えっ、そうなの? 何か大変だねぇ」
「今、佐藤さんに付きまとわれていることを考えれば、全然大変じゃない」
 と普通に言ったつもりだったんだけども、急に佐藤さんは顔を真っ赤にして、
「別に! 付きまとってないし!」
 と声を荒らげて、何かちょっと目を丸くなってしまった。
 何でそんな激高というか、そんな感じになったのか理解できず、
「えっと、何かスマン」
 と会釈しておくと、佐藤さんは少し早口で、
「べべべべ別に、どうでもいいしっ」
 と言ってから、ご飯をかき込みだした。野球少年かよ。
 そこからは朝の時間と同じく、面白動画の話ばかり。
 何か、普通に友達っぽいことをやってくるので、正直調子が狂う。
 もっとニタニタ攻めてくるだけなら、俺可哀想モードに入れるんだけども、佐藤さんは何か普通に”会話”してくるので一体何が目的なんだと思ってしまう。
 でも実際問題、ちゃんと会話できているかどうかは不明だ。
 何故なら俺は小中と友達なんて全然できたことが無かったから、これが友達同士の会話になっているのか全然分からないのだ。
 そんな時だった。
「マジ キモイ、そういう 悪口しか 浮かばないの 変態 過ぎるし、ちゃんと 警察に 捕まった ほうが い いん じゃ ないの?」
 また無表情でそう言っている伊織さん。
 何を男子は言ったんだよ、まあ小声で文句言ったんだろうなぁ。
 矢継ぎ早に桃井さんが、
「あんまり強い言葉ばっかり使うの良くないよぉ?」
 と何か妙に突っかかるというか、イヤミったらしい笑顔でそう伊織さんの肩を叩いている桃井さん。
 何だろうこの違和感。まあいいか、俺には関係無いことだ、と思いたい自分と、一限目の柔和な伊織さんがまるで二重人格で、気になってしょうがない。
 別に伊織さんのこと好きとかじゃないけども、でも何か、ぶっちゃけ可愛いし、変な中二病なら辞めるべきだよなぁ、辞めさせたいなぁ、とは思う。
 すると佐藤さんが、
「伊織ってちょっとキツイ時あるよね、優しい時もあるし、多重人格かも」
 あぁ、この違和感を持っているのって俺だけじゃないんだと、ちょっと安心した。
 そんな感じで今日の高校も終わりかと思ったところで、ホームルーム前に俺と佐藤さんは担任の井原先生に呼び出された。
 呼び出されたと言っても教壇のほうに「こっち、こっち」と呼ばれただけだけども。
 井原先生は何だか得意げにこう言った。
「あれか? もしや佐藤と益岡はこれから探偵になりたいんじゃないか? デコボコバディモノ児童書か?」
 相変わらず変な言語センスだし、俺の学校オナニーから起因する探偵モノが児童書のはずがない。
 でも佐藤さんは、
「まあそんな感じっすねぇ」
 と答えると、井原先生は感慨深そうに頷きながら、
「そういうの先生良いと思う。というわけでホームルームの時にそのことを言っていいか? 探偵バディモノ誕生ってさぁ!」
 そう手を広げながら言った井原先生。何かかなり楽しそうだ。
 まあ俺と佐藤さんが事前に話していたことでもあるけども、探偵として認められれば、より事件が集まってきて、内申点を上げやすくなるということなので、
「「お願いします!」」
 とユニゾンしてから、それぞれの席に着いて、ホームルームが始まった。
 井原先生は妙に堂々とこう言った。
「なんと旧校舎の保健室の件は益岡と佐藤が解決したんだ! だから今日からコイツらは探偵だ! 悩みや事件があったら頼るように!」
 言い切ったところで自分で拍手した井原先生……否、クラスメイトも拍手してきて、何か正直、照れた。
 同時に学校オナニーから起因していることは死守しなければと思った。
 でもまあすごい拍手なので、つい教室中を見渡してしまうと、伊織さんが何かを訴えかけるような目でこちらをじっと見ていた。
 ”じとっ”というか、何か湿っているというか、どこか寂し気な瞳というか、なんて形容すればいいか分からないけども、ハッキリ言って、どこか異常だった。
 伊織さん、もしかすると毒舌キャラの件には触れるな、という警告なのかもしれない。
 何か最後、釘を刺されたみたいな気持ちになって、高揚し過ぎなくて逆に良かったかもしれない。
 なんせ学校オナニーが起因しているので。
 放課後になり、即座に佐藤さんが近寄ってきて、
「じゃあ事件探すし」
「自分から嗅ぎ回らなくていいんじゃないか?」
「というかSNSもやるし、あっ、そういう交流系は全部あーしがやるから。益岡は謎解きだけでいいから」
「まあ元々コミュ障だから、やろうと思っても無理だからな」
「良かった良かった」
 と変な相槌が返ってきて、変な相槌だなとは思った。
 まあいいか。
 結局その日は一緒に校門をくぐったものの、そのままそれぞれの帰路に着いた。
 さて、家に戻ってきて、やることと言えば、オナニーだよなぁ。
 でもオナニーするとオナニー日記書かないといけなくて……否、学校でもやるヤツが毎日しないはずないだろ、ここで怪しまれてバラまかれたら終わりだ。むしろ毎日オナニーする人間としてそれを推していかなければ。
 もういいんだ、というかもういいんだ、俺に人権なんてもうないんだ、オナニーしよう、全てを忘れるくらいの熱いオナニーをしよう……恋愛であれ、本当は、でもコミュ障だから。
 今日は池橋栄子がマッサージされているシーンでオナニーしようかな。
 うんうん、何かいい、何かいい、ちゃんと普通に興奮してきた、ズボンもパンツも脱ごう。
 脇から攻められて、くすくす笑っている池橋栄子がまず可愛い。
「ちょっと、やめてよっ」
 と言う声がマジっぽいので興奮する。いやマジだろうけども。実際くすぐったいだろうし。
 そこから胸へ移行して、何かもう普通に胸を揉んでいる態勢になる。
 今まで池橋栄子は普通に喋っていたのに、ここから”感じている”ような吐息をもらし、台詞を発しなくなる。
 ここがマジで艶っぽいというか、マジなんだと思う、本当に。
 チンコをしごく速度もどんどん上がっていったところで、あぁ、これ忘れていた、せっかく没頭していたのに。
「痛いけども、気持ち良いかも」
 この棒読みの台詞。一気に現実に戻されたような感覚。
 こういう明らかに言わされている台詞、興醒め過ぎる。
 勿論池橋栄子に演技力があればいいんだけども、大体グラビアアイドルなんて演技力ないんだから、言わせようとするなよ。
 感情のこもっていない台詞を言わされてさ、これを聞いてこっちも興奮するとかないから。
 でも逆に、でも逆に、演技力が無い子ほど”感じてる”声はマジという説もあるので、まあ逆に良いかもしれないけどもさ。
 ただ存在する一つの言説に、演技力がゼロでも喘いでいるような声は別に誰でも出せるという言説もあるからなぁ。
 いやいや、こういうのは自分に有利な説だけを本当の説としよう。こんなん嘘でもなんでもいいんだ。俺が興奮できればそれでいいんだ。
 マッサージは下半身へいき、結構際どい、鼠径部に親指を入れて、ごしごしするようなマッサージに。
 また喘ぐような声がたまらない。
 もうほとんど女性器に指が入っているんじゃないの? ってくらいに、親指を水着の中に入れながら、グイグイとマッサージをしている。
 ヤバイ、もう妄想がはかどる。つまり、射精するということだ。
「「うぅっ!」」
 池橋栄子の耐える声とユニゾンするように俺は果てた。
「「ハァ、ハァ」」
 何だか同じ行為をしている気分になって勃起が止まらない。このまま二回戦へ行くか、とまたチンコをしごきだして、二発目を出したところでオナニー日記が俺にはあるんだということを思い出した。
 ……さすがに二回発射したことは書かなくていいよな……でも二回目は一回目よりも当然長くて、昨日オナニー日記をLINEした時間よりも遅くなっている……。
 ”本当に一回だった?”とか責められて、結果バレる形になったら……こんなことでバラされたくねぇ……仕方ない、正直に書こう。
『池橋栄子のマッサージシーンで二回連続で射精しました』
 恥ずかしいというか情けない、俺は一体何をしているんだ、と思ったところで動画の池橋栄子がこう言った。
「恥ずかしがったけども、すごく、気持ち良かったです。また一緒にやろうね」
 ……棒読み過ぎる……俺は芯から恥ずかしいのに、何かもう、今すぐ自殺したいくらいに恥ずかしいのに、こんな棒読みの女性で射精しまくって、何なんだこの人生は。
 すると佐藤さんからLINEがすぐに返ってきた。
『ウケる また池橋栄子って人だし というか池橋栄子ってグラビアの子じゃん AVじゃないんだ』
『まだ十八歳以下なんだからAVのはずないだろ』
『いやそんなとこ真面目にしているヤツいねぇし DMMっしょ?』
『DMMだけども』
『DMMってFANZAのほうがサンプル見やすいのウケるよね グラビア系はログインしないと見れないとか逆じゃね?』
 何で佐藤さんは女子なのにそんなこと知っているんだ……というのも性差別かもしれない。女子だって見る人いるだろうし。
 まあここをイジるのはキモ過ぎるので、
『いいだろ、俺は池橋栄子が好きなんだから』
 と送っておくと、
『現実も見なよ』
『ガチ恋勢じゃないし、俺の現実、オナニー日記送っていてヤバ過ぎるだろ』
『確かにww』
 何でオナニー日記すると、会話になってしまうんだよ。心の中のプライドがドロドロに溶けていく感覚がする。やめてくれ。もうやめてくれ。
 でも佐藤さんのLINEで止まったから、これで終わりなのかなと思っていると、
『オナニー日記も弱みだよねぇ』
 と送られてきてゾッとした。
 確かにそうだ、ただ送らないといけないということだけ考えていたけども、この文字列も蓄積していって……いやもう思考することは止めよう。
 俺は奴隷だ、佐藤さんの奴隷なんだ、それ以上考えちゃダメだ、それ以上考えたら、これ以上考えたら……って、そう言えば……。