・【04 事件1.壁に赤い絵の具事件・解決編】


 次の日、早めに登校した俺と佐藤さんは早速旧校舎の使われなくなった保健室に来ていた。
「益岡、何か浮かんだらしいな」
 と向こうから喋り出したところで、俺も応えることにした。
「絵の具ってこんなに垂れるか?」
「いや絵の具って垂れるもんだし、あるあるじゃね?」
「筆で書けばね」
 俺のその言葉にピクンと体を波打たせた佐藤さんはアゴに手を当てながら、
「そうか、指だもんね、あんま水っぽいもん付けずに」
「旧校舎にも美術室あるじゃん、だから赤い絵の具は現地調達でいっぱいあるとしてさ。咄嗟に何かを誤魔化すために、わざと絵の具を垂らしたんじゃないか?」
「わざと、絵の具を……!」
「あと、そうだな。仮に指で書く時も垂れるとして、でもわざわざベッドの上に垂らすなんてことしなくないか? ベッドはなんとなく神聖なモノとして、かわして床だけを経由して歩かないか? つまり、ベッドに誤魔化したい何かがついたんじゃないかって思うんだ」
「それだし!」
 そう言って俺を指差してきた佐藤さん。
 やっぱりこの思考回路は不自然じゃないというわけだ。
 さて、最後のところだけども、正直言うのが恥ずかしい……否、何を今さら、ここまできたら言うしかない。
「もしかするとこの旧校舎の保健室って、陽キャからラブホテル代わりに使われていたんじゃないか?」
「マジか、でもありえるし」
「で、処女って初体験を済ますと血が出やすいっていうじゃん、その血を誤魔化すために赤い絵の具を垂らしたんじゃないか?」
「うわっ、それだし、でも……」
 と俯いた佐藤さんに、俺は内心慌てながら、どこかキモイところがあったかと思いつつ、おそるおそる、
「どうしたんだ……?」
 と聞くと、佐藤さんは顔を上げてこう言った。満面の笑みだった。
「高校でセックスするのはまだしも、オナニーするのはやっぱヤバイしぃっ!」
 全然俺の事実からのキモさだった。
 いや、
「それは一旦置いといて、この絵の具を洗うと血が出るってことじゃないかって話だよ」
「それは分かってるし。じゃあちょっとベッドの絵の具洗ってみる? 絵の具は水性だしぃ」
 その結果、ベッドのシーツからは血の跡のようなシミが出現した。
 ここからは俺の推測だが、シーツはボロボロで、シーツを洗ったらもうそのまま無と化しそうだし、そもそもこんなシーツをわざわざ洗いたくないとかそういう理由で赤い絵の具で誤魔化すということにしたんだろう。
 そんな話をしながら、俺と佐藤さんで職員室にいた担任の井原先生にその事件の話をすると、まず勝手に入ったことで叱られたけども、秘密裏に解決してくれて良かったと褒められた。
 その時だった。井原先生から、
「つーか益岡と佐藤が仲良いなんて意外だな、意外・ザ・ジャイアントだな」
 と言われて、よく分かんないけども「はい」と会釈しておいた。
 一体なんなんだ、あの独特な言語感覚は。
 まあ佐藤さんがなんとなく照れ笑いを浮かべて嬉しそうだったので、別にいいかと思った。
 教室に戻り、じゃあこっから俺はいつも通り自主勉かなと思っていると、なんとそのまま佐藤さんが俺にくっついてくる。
「いやもういいだろ、急に一緒にいたら怪しいし」
 と俺が小声で言うと、
「そんな誰も気にしてないしぃ」
 と言いながら俺の隣の席に座ってきた。
 ハッキリ言って面倒、否、怖いのかもしれない。
 急に目線でバラすぞと脅してくるかもしれないと思っているのかもしれない、俺は。
 こんな気苦労ばかりしているとハゲてしまうと思っているわけだが、佐藤さんは何だか普通に昨日の夜見た面白い動画の話をしてくる。
 なんとか逆鱗に触れないように、細心の注意を払って相槌を打っていると、いつも通りのクラスメイトの会話が聞こえてくる。
 毒舌キャラと認知されている伊織さんがドキツイことを言うと、それを伊織さんの友達の桃井さんが止めるという一連の流れ。
 というか伊織さんに俺のオナニー写真がバレたら何を言われてしまうのだろうか、怖い、怖過ぎる。というか多分転校まっしぐらだと思う。