・【23 事件11.彼氏はいない・解決編】


 この写真、このベッドの写真、このベッドの上で目いっぱい大の字になって寝そべっている池橋栄子の写真、一人暮らしの割にはベッドがデカ過ぎないか?
 明らかに誰かと寝るようのベッドサイズじゃん、ベッドで目いっぱい大の字になれるはずないじゃん、一人暮らしの女子が。
 彼氏がいない証明というか、これ、彼氏がいる証明になっちゃったな……待てよ、ダックスフントの瞳に、男性映ってないか?
 これは、池橋栄子に知らせないと、
『このサイズのベッドって一人用じゃないよね? あとダックスフントの瞳に男性が映っているけども、それはスタッフ?』
 この返信は結構早めにきた。
『ダックスフントの瞳まで見てなかったなー 自分の瞳ばっか気にしてたよー』
 そうラフな感じで返ってきたその時に、いや普通に彼氏いること言うんだと思った。
 すぐさま次の返信がきて、
『ベッドもそっか まだ言われたことなかったけども ここも今後気を付けないとなー』
 俺は意を決して、
『彼氏、本当はいるんだね』
 と送ると、池橋栄子からは即座に、
『彼氏というかまあ枕営業だけどね』
 と返ってきて、俺は絶句してしまった。
 池橋栄子からは同じペースで、
『勿論秘密だよ 益岡くんだから言ってるんだよ 益岡くんには知っていてもらいたくて』
 最後の”益岡くんには知っていてもらいたくて”が文字だけなのに、何だか悲しさを帯びていて。
 まるでどうしても叫びたくて、もうどうしようもなくて、みたいに感じで、胸がギューっとしてきた。
 ここで、そんなことやめなよ、と書くのは簡単だけども……否、簡単じゃない、俺のことをある意味信じて、そんな吐露をしてきたんだ。
 俺は受け止めてあげる、そうすることにした。
『あんまり無理はしないでね。ずっと応援しているから』
『有難う! 益岡くんならそう言ってくれると思ってた! また言いたいことがあったらLINEするね!』
『あっ、つまり彼氏がいない証明だけども、そういうところを気を付けて。ベッドは映さないように、ダックスフントの瞳も気を付けて。あと同じグラスは良いけども、色違いとかは気にする人がいるかも』
『確かに! 色違いって何かみんな敏感かも! 助言いっぱい有難う!』
 なんとなく、俺の初恋が終わったような気がした。
 もう池橋栄子はその名の通り、芸名で、遠い存在になったんだって。
 俺は一応、今のやり取りを、枕営業しているところだけ削って佐藤さんにLINEで教えた。
 枕営業のところは彼氏がちょっと前までいて、みたいなニュアンスに変えて。
 同時に俺の初恋も完全に終わったという、どうでもいいことも書いた。
 池橋栄子が吐き出したかったように、俺もどうしても吐き出したくて、そんなことを吐露した、けども、佐藤さんからの既読は相変わらずつかないし、もう終わった関係なのかもしれないと思った瞬間に、そもそも、と俺の脳内が動き出した。