・
・【02 公園】
・
とりあえず場所を移動することにした。
高校の近くには海が見える、というか併設されているように近い大きな海浜公園があり、そこへ行くことにした。
勿論高校のホームルームが終わってから。同じクラスなので、簡単に確保された。まあ逃げ出す気も無いけど。
木の切り株風にデザインされた石のイスに座って、テーブル挟んで対面で佐藤さんと俺。
大きな木だけで十分日除けできているけども、ちゃんと木でできた日除けも設置されている場所。
普通はこういうところで仲良くランチを食べるんだろうけども、今の俺は緊張そのもの。
潮風が通り抜けているが、何かもう自分の汗がチンコ臭くて全然自然を楽しめない。
今年は梅雨が早めに終わった六月上旬、爽やかな気温とは反比例するほどに背中はもうびっちょりだ。
正直ここまで無言で佐藤さんについてきていた。
佐藤さんはニヤニヤ俺のほうを見るだけで、特に会話というものもナシ。
果たして何を言われるのか、というかそのなんだ、ボランティアの探偵みたいなことをするんだろ? それだけなんだろ?
それなら今日から早速”使われなくなった保健室の七不思議”を解決するべきなのに。
まあその前に作戦会議というヤツかもしれない。まだ高校とは目と鼻の先。すぐに戻れる距離だから。
「益岡ってさぁ、いっつもあんなことしてんのぉ?」
突然そう聞いてきた佐藤さん。
いや、
「高校でしたのは、初めてだ。最近のテスト勉強で我慢していて、解放されたらしたくなったんだ。本当に魔が差しただけなんだ」
と言い訳込みでつらつらと答えた。
この言い訳はマストで聞いてほしかったから。
すると佐藤さんは、
「じゃあいっつもしてんだ」
「してないってっ」
とつい語気を強めてしまうと、
「そうじゃなくて、オナニー自体ねっ」
「……そりゃまあオナニーはよくしているけども」
「学年一の優等生がオナニー好きなんてまあ結構面白いゴシップじゃね?」
「そんな、高校一年生だったら誰でもオナニーするだろ」
「男子ならそう思うだろうけども、女子はどうかなぁ?」
「別に。俺はコミュ障だから、仲の良い女子とかいないぞ。幻滅するような相手はいない」
「じゃあこの写真バラまかれても平気ってこと?」
「そんなわけないだろ!」
と声を荒らげてしまった俺。
一息ついてから、俺は続ける。
「これはさすがに男子にだってヒかれるし、先生に知られたらマジで謹慎だろ……」
「だろうねぇ、だからこっからあーしの奴隷になるわけだけどもぉ?」
「とはいえ、ボランティアの探偵をするだけだろ? それなら別にやるって了承したわけだし」
すると佐藤さんは蔑むような笑みを浮かべながら、
「それだけじゃつまんなくね?」
と言ってきて、背筋が凍った。
一体それ以上に何をやらすんだ、と心臓がバクバクいい始めた。
これ以上、何も変なこと求めないでくれと思っていると、佐藤さんがこう言った。
「毎日のさぁ、オナニー日記書いてあーしにLINEしなよ」
「……オナニー日記?」
俺は小首を傾げつつも、もしかしたらこういうことなのではと思って、気が遠くなった。そのままブラックアウトしそうだ。
佐藤さんはニヤっと笑ってから、
「男子が何(なに)でオナニーしてるのかぁ、気になるからさぁ、オナニーに使ったオカズをあーしに教えてよー」
「な、なんでそんなことを」
「理由今言ったじゃん、勿論拒否するなら即バラまくけどねぇ?」
「そんな辱め……」
「いいじゃん、奴隷なんだから、惨めになって惨めになって生きていきなよ。それかオナニーしないか。でも我慢できないんだもんね、高校でしちゃうくらいにぃー」
何で俺をそんな惨めな気持ちにさせたいのか、いやたいした理由なんてないのかもしれない。ただ堕ちていく人間を見たいだけなのかもしれない。
その気持ち、分からないほどではない。高校一年生、というか陽キャの加虐性舐めんなよって話だ。
デスゲームとか、主人公が不幸になる系の物語は全て一般人の加虐心を満たすための創作物だ。
そんなモノが流行っているわけだから、当然そんな気持ちは誰にでもあるもので。
俺は喉奥を震わせながら、
「分かった……LINEで送る……」
と答えるしかなかった。
佐藤さんは矢継ぎ早に、
「嘘とかつくなし、それがバレたら、ってもう分かってるかぁ」
密室で行なう行為なわけだから、本当は送らなくてもバレないだろうけども……否、高校でも我慢できなくてやっちゃうヤツだ、毎日やっていないと不自然だ。
もうこれは一生ライフワークとしてやっていかなければ……ちょっと待て。
「これは一生なのか? 内申点がとれたと思ったら終わりとかじゃないのか?」
「まあ探偵のほうはそんな感じで、オナニー日記のほうは飽きたらって感じでよろしくぅー」
佐藤さんが飽きるまでか……まあさすがに大学受験が始まったら飽きるだろう、少なくても一生ではないはず。耐えろ、耐えるんだ、俺。
俺と佐藤さんはLINEを交換したところで、佐藤さんからやっと本題(だと思われること)を言い出した。
「でさー、元・保健室の七不思議の件だけど。これ解決したら注目度上がらね?」
「それは本当にそう思うけども。解決したという実績ができれば相談も増えるだろうし」
「だからまずこれを解決しようと思うんだよねぇー」
「でも規制線というか、先生方が入っちゃいけないみたいに線張ってるじゃん」
「跨げばよくね?」
「それはそうなんだけども……って、その時点で内申点マイナスじゃん」
「解決したらプラスだし」
本当にそうなるのか少々の疑問は残るけども、まあ解決したほうがきっと良いもんなぁ。
そこから俺と佐藤さんの七不思議への擦り合わせ。
俺はノートで議事録をまとめ、結果がこう。
・使われなくなった保健室には七不思議があり、夜な夜な、誰もいないはずなのに声がしていた
・ある日、なんとなく保健室へ行った人間が壁に血で文字が書かれていることを発見する
・その文字は『近寄るな』という警告だった
・先生がよくよく観察するとそれは血ではなくて赤い絵の具だった
・つまり人間のイタズラだと分かり、怪談が怒り狂うと誰かが言い始めて今、恐怖が巻き起こっている
佐藤さんが俺のメモを改めて読んでから、
「とりま人間の仕業ってことだよね、絵の具なんだから」
「まあ仮に血だとしても人間だろうけども、絵の具ならなおさら人間だろうな」
「というわけで現場検証行っちゃう?」
「まあ行くしかないだろうなぁ」
俺と佐藤さんはそれとなく立ち上がって、また高校へ戻った。
何でこんなことに、とは正直あんまり思わなかった。
こういうことするヤツをとっちめたいみたいな気持ちが無いわけでもないから。
それよりもオナニー日記のほうが……いや、そのことは今考えないようにしよう。
・【02 公園】
・
とりあえず場所を移動することにした。
高校の近くには海が見える、というか併設されているように近い大きな海浜公園があり、そこへ行くことにした。
勿論高校のホームルームが終わってから。同じクラスなので、簡単に確保された。まあ逃げ出す気も無いけど。
木の切り株風にデザインされた石のイスに座って、テーブル挟んで対面で佐藤さんと俺。
大きな木だけで十分日除けできているけども、ちゃんと木でできた日除けも設置されている場所。
普通はこういうところで仲良くランチを食べるんだろうけども、今の俺は緊張そのもの。
潮風が通り抜けているが、何かもう自分の汗がチンコ臭くて全然自然を楽しめない。
今年は梅雨が早めに終わった六月上旬、爽やかな気温とは反比例するほどに背中はもうびっちょりだ。
正直ここまで無言で佐藤さんについてきていた。
佐藤さんはニヤニヤ俺のほうを見るだけで、特に会話というものもナシ。
果たして何を言われるのか、というかそのなんだ、ボランティアの探偵みたいなことをするんだろ? それだけなんだろ?
それなら今日から早速”使われなくなった保健室の七不思議”を解決するべきなのに。
まあその前に作戦会議というヤツかもしれない。まだ高校とは目と鼻の先。すぐに戻れる距離だから。
「益岡ってさぁ、いっつもあんなことしてんのぉ?」
突然そう聞いてきた佐藤さん。
いや、
「高校でしたのは、初めてだ。最近のテスト勉強で我慢していて、解放されたらしたくなったんだ。本当に魔が差しただけなんだ」
と言い訳込みでつらつらと答えた。
この言い訳はマストで聞いてほしかったから。
すると佐藤さんは、
「じゃあいっつもしてんだ」
「してないってっ」
とつい語気を強めてしまうと、
「そうじゃなくて、オナニー自体ねっ」
「……そりゃまあオナニーはよくしているけども」
「学年一の優等生がオナニー好きなんてまあ結構面白いゴシップじゃね?」
「そんな、高校一年生だったら誰でもオナニーするだろ」
「男子ならそう思うだろうけども、女子はどうかなぁ?」
「別に。俺はコミュ障だから、仲の良い女子とかいないぞ。幻滅するような相手はいない」
「じゃあこの写真バラまかれても平気ってこと?」
「そんなわけないだろ!」
と声を荒らげてしまった俺。
一息ついてから、俺は続ける。
「これはさすがに男子にだってヒかれるし、先生に知られたらマジで謹慎だろ……」
「だろうねぇ、だからこっからあーしの奴隷になるわけだけどもぉ?」
「とはいえ、ボランティアの探偵をするだけだろ? それなら別にやるって了承したわけだし」
すると佐藤さんは蔑むような笑みを浮かべながら、
「それだけじゃつまんなくね?」
と言ってきて、背筋が凍った。
一体それ以上に何をやらすんだ、と心臓がバクバクいい始めた。
これ以上、何も変なこと求めないでくれと思っていると、佐藤さんがこう言った。
「毎日のさぁ、オナニー日記書いてあーしにLINEしなよ」
「……オナニー日記?」
俺は小首を傾げつつも、もしかしたらこういうことなのではと思って、気が遠くなった。そのままブラックアウトしそうだ。
佐藤さんはニヤっと笑ってから、
「男子が何(なに)でオナニーしてるのかぁ、気になるからさぁ、オナニーに使ったオカズをあーしに教えてよー」
「な、なんでそんなことを」
「理由今言ったじゃん、勿論拒否するなら即バラまくけどねぇ?」
「そんな辱め……」
「いいじゃん、奴隷なんだから、惨めになって惨めになって生きていきなよ。それかオナニーしないか。でも我慢できないんだもんね、高校でしちゃうくらいにぃー」
何で俺をそんな惨めな気持ちにさせたいのか、いやたいした理由なんてないのかもしれない。ただ堕ちていく人間を見たいだけなのかもしれない。
その気持ち、分からないほどではない。高校一年生、というか陽キャの加虐性舐めんなよって話だ。
デスゲームとか、主人公が不幸になる系の物語は全て一般人の加虐心を満たすための創作物だ。
そんなモノが流行っているわけだから、当然そんな気持ちは誰にでもあるもので。
俺は喉奥を震わせながら、
「分かった……LINEで送る……」
と答えるしかなかった。
佐藤さんは矢継ぎ早に、
「嘘とかつくなし、それがバレたら、ってもう分かってるかぁ」
密室で行なう行為なわけだから、本当は送らなくてもバレないだろうけども……否、高校でも我慢できなくてやっちゃうヤツだ、毎日やっていないと不自然だ。
もうこれは一生ライフワークとしてやっていかなければ……ちょっと待て。
「これは一生なのか? 内申点がとれたと思ったら終わりとかじゃないのか?」
「まあ探偵のほうはそんな感じで、オナニー日記のほうは飽きたらって感じでよろしくぅー」
佐藤さんが飽きるまでか……まあさすがに大学受験が始まったら飽きるだろう、少なくても一生ではないはず。耐えろ、耐えるんだ、俺。
俺と佐藤さんはLINEを交換したところで、佐藤さんからやっと本題(だと思われること)を言い出した。
「でさー、元・保健室の七不思議の件だけど。これ解決したら注目度上がらね?」
「それは本当にそう思うけども。解決したという実績ができれば相談も増えるだろうし」
「だからまずこれを解決しようと思うんだよねぇー」
「でも規制線というか、先生方が入っちゃいけないみたいに線張ってるじゃん」
「跨げばよくね?」
「それはそうなんだけども……って、その時点で内申点マイナスじゃん」
「解決したらプラスだし」
本当にそうなるのか少々の疑問は残るけども、まあ解決したほうがきっと良いもんなぁ。
そこから俺と佐藤さんの七不思議への擦り合わせ。
俺はノートで議事録をまとめ、結果がこう。
・使われなくなった保健室には七不思議があり、夜な夜な、誰もいないはずなのに声がしていた
・ある日、なんとなく保健室へ行った人間が壁に血で文字が書かれていることを発見する
・その文字は『近寄るな』という警告だった
・先生がよくよく観察するとそれは血ではなくて赤い絵の具だった
・つまり人間のイタズラだと分かり、怪談が怒り狂うと誰かが言い始めて今、恐怖が巻き起こっている
佐藤さんが俺のメモを改めて読んでから、
「とりま人間の仕業ってことだよね、絵の具なんだから」
「まあ仮に血だとしても人間だろうけども、絵の具ならなおさら人間だろうな」
「というわけで現場検証行っちゃう?」
「まあ行くしかないだろうなぁ」
俺と佐藤さんはそれとなく立ち上がって、また高校へ戻った。
何でこんなことに、とは正直あんまり思わなかった。
こういうことするヤツをとっちめたいみたいな気持ちが無いわけでもないから。
それよりもオナニー日記のほうが……いや、そのことは今考えないようにしよう。