・【16 事件8.無表情な生徒・事件編】


 今回、昼休みに俺と佐藤さんは井原先生に空き教室へ呼び出された。
「志布志ってヤツいるだろ、アイツ、入学当初から無表情で、しかもあんま話も聞いている感じでもなくてな、堪忍袋の緒が切れそうなんだわ。字が綺麗というプラスの面でなんとか心の中で補おうとしていたけども、もう無理だわ」
 俺はそんなことを言う井原先生に対して、
「生徒に使う言葉じゃないですよね、堪忍袋の緒が切れそうとか、もう無理とか」
「でもなぁ」
「でもなぁ、じゃなくて、です。はい」
 俺が相槌を打つと佐藤さんが、
「志布志は確かにいっつも心ここにあらずみたいな感じだし。スケベおもろいこと言っても無反応というかさぁ」
 すると井原先生がデカい声で、
「高校生がスケベおもろいで笑わないかね! 私だって全然笑うのに!」
 と叫んだので、俺は咳払いをしてから、
「そういうの苦手な子もいるでしょう、志布志さんは女子ですし。佐藤さんの笑いのレベルも分かりませんし」
 佐藤さんはムッとしながら、
「あーしはちゃんと面白いほうだしっ」
 と言ったんだけども、それはまあ時々によるだろと思った。
 井原先生は深い溜息をついてから、
「とにかく志布志の秘密を探って、最終的にはデッカイ解決をしてほしい」
「デッカイ解決ってなんですか、解決ってサイズじゃないですよね」
「ケツみたいな解決してくれ」
「教師が言う言い方じゃないですよ」
 佐藤さんは何か嬉しそうに自分のお尻をパツンと叩いてから、
「やったるし!」
 と言うと、井原先生は爆笑した。
 えっ、今のがスケベおもろいというヤツなのか? だとしたらレベルは低い。
 俺と佐藤さんは教室に戻る前に、空き教室前の廊下で作戦会議をすることにした。
 でも俺は口下手のコミュ障だし、ということで佐藤さんが率先して、エモい話を引き出すみたいなことを言っていた。
 そんなことできるのかなと思いつつ、教室に戻ったところで志布志さんが教室にいなかったので、作戦はもう潰れた。
 俺は普通に自主勉をしようとしたところで、佐藤さんが友達と何故かダンスバトルを始めて、BGMを掛けたあたりでうるさいな、と思って、勉強道具を持って図書室へ行くことにした。
 すると図書室に志布志さんがいて、普通に図鑑を読んでいた。
 表情をチラリと見ると、何だか楽しそうな感じで、いや無表情じゃないじゃんと思った。
 でも確かに教室では結構無表情だったような気がする。誰もいないというか、誰の反応も気にしていない時は表情が豊かになるということ?
 つまり内弁慶みたいな話なのかな、まあ俺も今は勉強したいし、さっさと自主勉開始しよう。
 予鈴も鳴り、自分の教室に戻ろうとすると、当然志布志さんも同じ方向で。
 志布志さんと二人で歩いているみたいな距離になると、志布志さんはスンと無表情になった。
 それは俺が近くにいることを認識したから? というか俺のことが単純に苦手なんじゃないか、これって。
 何かモヤモヤするなぁ、と思いつつ、自分の席に着いた。
 志布志さんの席は俺よりも後ろなので、これ以上表情の確認はできない。
 今はどんな感じなんだろうか。
 その後は授業&授業で放課後になったところで、佐藤さんの声が聞こえた。志布志さんに話し掛けているみたいだ。
「今日、逆にマックでライム談義しないっ?」
 何でライム談義なんだよ、ラッパーじゃないだろと思いながら、それとなくそっちを見て聞いているわけだけども、志布志さんは無表情ながらも困っている感じがする。
「じゃあ演技論にする?」
 若手俳優でもないだろ、と思っているだけじゃ、話が進まないような気がするので、意を決して、俺も佐藤さんのほうへ行くことにした。
 すると一瞬、志布志さんの表情が無表情というよりも、ちょっと我慢するような顔になって、やっぱり俺が嫌いってこと? と思いながらも、
「佐藤さん、ボケてるだけだから。普通に無視して大丈夫だよ」
「何でボケてるヤツは無視していいんだ! グイグイきてきてぇ!」
「急に来られても困るだけだろ」
 と俺が佐藤さんへ軽くツッコんだところで、さらに志布志さんの我慢感というか、一瞬強めに目を瞑って、あぁ、これあれだ、俺が嫌いなだけだわ、この前のディープフェイクとかの件で不信感が募っているだけだわ、と分かり、
「佐藤さん、今日一緒に帰らない?」
 と俺は佐藤さんと二人で話したくて、そういうことを言うと、佐藤さんは急に「わっ!」と言ってから、
「別にいいけども! じゃあ志布志! また明日!」
 と言って、何か手早く準備をして、一緒に教室の外に出た。そんな早く動かなくてもいいのに。
 俺は志布志さんと離れた廊下のあたりから、
「志布志さん、どうやら俺が嫌いっぽい。俺が何か言う度に我慢というか、不快そうな眉毛になって。多分ディープフェイクの件でまだ思うところがあるみたいだ」
「えー、あーしはそういうことじゃないと思うけどなぁ」
「でも実際志布志さんは・・・」
 と言いかけたところで佐藤さんがカットインしてきて、
「益岡が嫌いな人なんていないし!」
 と舌をベッと出してきた。
 いや、
「それ嫌いな人への反応じゃん」
「そんなことないし!」
 結局その後は佐藤さんと面白動画の話をして、分かれ道でバイバイして、家路に着いた。
 志布志さんは俺のことが嫌いで、俺と同じ空間にいるだけで不快ということか、何かイライラしてきたな。
 軽くシコって、気分転換するかと思って、オナニーすることにした。
 適当に池橋栄子の動画を選んで、適当にスクロールバーを動かしていると、おっ、このシーン、明るくていいなぁ、と思って見ることにした。
 池橋栄子が女性からくすぐられているシーン。
 この頃はバックにBGMが流れるような正統派の流れから、無音に池橋栄子の声が乗っかる感じになっていったんだよなぁ。
「くすぐったいよぉ」
 と言いながら笑う池橋栄子にチンコがギンギンに硬くなる。
 ちゃんと女性がくすぐっているということが分かるように、女性らしい手だし、ネイルもしているし(とはいえ、尖っていて池橋栄子を傷つけるわけではない)。
 昔のグラビアアイドルビデオって、一番男性らしい手をした女性がやるって話だったけども、今はそういうところも厳しくなっているのか、ちゃんと女性の手なので安心できる。
 シコる手は徐々にスピードが上がっていく。脇をくすぐられているわけだけども、その綺麗な脇が見えることも嬉しいし。こぼれ落ちそうな胸もたまらない。
 こういう幸せな感じもたまらないな、と思いながら、どんどん込み上げてくるモノを感じて、最後は一気に射精した。
 池橋栄子、最高だ、と余韻と共に、佐藤さんにオナニー日記を送ることにした。
『池橋栄子が女性からくすぐられているシーンで射精しました』
 即座に佐藤さんからLINEが送られてきて、
『くすぐられているとかでも抜けるんだぁ』
『まあ可愛いからな。基本的に池橋栄子が映っていれば何でも抜けるわけだし』
『まあ好きならそうだろうねぇ ホント好きなんだねぇ』
『そう。俺は池橋栄子が大好きだよ』
 と打ったのち、既読はついたけども、それ以上の返信は無くて、逆に寂しかった。
 これで終わりかと思ったその時、俺の謎解き脳が動き出した。