・【15 事件7.犬の散歩・解決編】


 そうか、伊織さんの絶対に踏んでいないとは言わない、煮え切らない感じもそういうことか。
 俺はオナニー日記を送る前に、すぐさま今回の事件についての考えをLINEした。
 すると佐藤さんからも返信が届き、同意してくれた。
 じゃあ後は証拠の映像を撮れれば、と、俺は佐藤さんにこういうことをしてほしい、という、おとりの指示を出すと、佐藤さんは『それやるし』と言ってくれた。
 大体話が煮詰まったところで、佐藤さんからこんなLINEがきた。
『というかオナニーしてないの?』
『そうだ、しました。でもまず事件のほう優先してしまって』
『じゃあどんなシーンでシコったか書くし』
『池橋栄子の初期作品で、健康的なシーンでじっくり抜きました』
『健康的て よくそういう言い方するけども 水着の時点でエロだし』
 そう書かれた時に確かになぁ、とは思った。
 健康美とか、スレンダーな人に言ったりもするけども、水着の時点で勃起するもんなぁ。
『まあ射精したわけだし、そういうことだよな』
 と俺がLINEすると、
『つーか女子に普通に射精とかLINEすんなし』
『オナニー日記送れって言ってるんだから仕方無いだろ!』
 すると、またLINEがきて、
『あーしの水着の写真とか送ったらシコる?』
 ときて、俺は内心ビクンとしてしまった。
 いやいや、と思って、指が固まって動かなくなってしまうと、そのLINEは削除されて、
『今のナシで!!!!』
 ときて、
『ゴメン、見てなかった』
 と既読のタイミング的に見え透いた嘘をついたけども、そこにはツッコまれず、そのまま会話は終了した。
 なんなんだ今の……俺は別に、佐藤さんのことは好みじゃないけども、シコるって、興奮するって、見た目だけの話じゃないよな、って、何か考えてしまった。
 身近な人の水着というところで一個乗っかるし、そもそも『水着の写真とか送ったら』みたいに、お伺いを立てているところにも既に興奮するし。
 いやいや、すぐに送ってほしい、と返信していたら、返信していたら、変態っぽいなぁ、送らなくて良かったわ。
 そう考えることにして、俺は、俺は、もう一回シコることにした。
 シコるとまたオナニー日記を送らないといけなくなるので、また会話することになるけども、まあリセットされたし、と思って、今のぐちゃぐちゃの胸の内をオナニーで正すことにした。
『池橋栄子のマッサージシーンで射精しました』
 即座に、
『すごっ 益岡の性欲をもう応援してるわっ』
 と返ってきただけで会話は終わった。応援してくれているなら嬉しいなぁ、とはならないけども、まあいいか。
 次の日の昼休み、伊織さんを呼び出して、まず何で”絶対に踏んでいないとは言わないか”を問うことにした。佐藤さん一人で。
 俺は若干暇なので、教室で自主勉をしていると、佐藤さんと伊織さんが戻ってきて、伊織さんはそのまま自分の席に着いて、佐藤さんは俺のほうへ来て、
「まっ、益岡の言う通りだったし。でもそんなことに気付くなんてなんつーかエロくね?」
「あんまエロいとか言うな、伊織さんに聞こえるだろ」
 そんな会話を軽くして、その後は佐藤さんは別の友達と遊んで、俺は自主勉の続きをしていると、伊織さんが俺の目の前にやって来たので、俺は伊織さんが何か喋り出すよりも早く、
「そういうこと反芻するのもキツイでしょ、俺には何も言わなくていいよ」
「でも、多分益岡くんが分かってくれたんだよね」
「そうだとしたらちょっと俺気持ち悪いだろ、普通に佐藤さんだよ」
「違うのに、私、益岡くんのこと、気持ち悪いとか思っていないし、何なら朝日会長じゃないけども尊敬もしているよ。今日の放課後、私のために闘ってくれるんでしょ?」
「闘うというか、邪魔なおじいさんを撃退するだけだよ」
「いつも有難う。たいした感謝はできていないけども、絶対いつかどこかで埋め合わせするから」
「そういう義務感とかいらないよ、自分が生きたいように生きてくれればそれでいいよ。俺も佐藤さんも内申点のためにやっているからさ。だから解決したら学校側に俺たちのこと話してよ。それでいい」
 伊織さんは何故か頬を赤らめながら、
「そ、それはするよっ、えっと、じゃあね」
 と言って席に戻っていった。
 何か俺失礼なこと言ったかなと思った。全然会話とか慣れていないから俺また何か変なこと言っちゃったのかもしれないな、というか全体的に偉そうだったかも。俺って最悪。
 まあそんな時は自主勉しまくって、とにかく知識を頭の中へ詰め込もう。
 昼休みも終わり、授業&授業で放課後になった。
 俺は佐藤さんと風船を膨らませて、その風船を佐藤さんに渡した。
 佐藤さんは上着のボタンを外して、風船をグイグイと胸に入れていき、簡易的に佐藤さんは巨乳になった。
「どう? 足元見える?」
 と俺が聞くと、
「うわっ、全然見えないかも。伊織とか大変だし」
 そう、伊織さんが煮え切らなかった理由、それは足元が見えていなかったからだ。
 犬を踏んだか踏んでいないか、明確には分からなかったから、あんな返答になっていたんだ。
 そしてあのおじいさんはそれを狙ってやっている。
 派手めな女性が好みなんじゃなくて、胸が大きい女性の足元を狙って犬を走らせていて、つまりは犬を使った当たり屋だったのだ。
 だから自転車は普通にひく可能性が高いので、自転車に対してもリードを長くしていたのだ。
 今回、佐藤さんを巨乳にして、その胸の下に録画状態のスマホを貼り付けて、足元を撮影しておく作戦だ。
 勿論佐藤さんが本当に犬を踏まないように、俺は少し離れているけども、佐藤さんの足元が見える範囲を歩いて手助けする。
 あとはあのおじいさんの散歩ルートだが、あのおじいさんの家は特定できたので、そこから逆算して、散歩しそうなルートを特定する。
 ただ俺と佐藤さんは今回ペアなので、二手に分かれて探すことはできない。さすがにこれだと効率が悪いので、
「頼ってくれて嬉しいよ。あぁ、受験勉強は大丈夫だよ、僕はほぼ推薦が内定しているからね」
 朝日会長がそのおじいさんを一緒に探してくれることになった。
 当日の連絡だったけども、すぐに対応してくれて有難い。
 さて、それぞれ外回りし始めて、俺が事前に予想していた網に引っ掛かってくれれば、と思ったその時だった。
 スマホが鳴り、通話状態にすると、
「益岡くん、こっちのほうだった。今、商店街のアーチ側へ向かって歩いているから、神社通り側から入っていくと真正面でかち合うと思うよ」
「有難うございます! 朝日会長!」
「ご武運を祈る」
 朝日会長との通話を終了させて、俺と佐藤さんはアドバイス通りに足を運ぶと、その通りにあのおじいさんが前から歩いてきた。
 そして佐藤さんと近付いた刹那、リードを長くして、犬が佐藤さんのほうへやって来た。
 ここはギリギリを狙わないとと思って、佐藤さんを止めるための合図はまだ出さず、まだ出さず……ここだ、
「あっ!」
 ちょっとだけ大きな声で俺がそう言うと佐藤さんは立ち止まり、ちょうどそのタイミングでおじいさんがリードを短くしてから、佐藤さんに近付いてきて、
「今、俺の犬の足を踏んだぞ、姉ちゃん、慰謝料請求するからな」
 そこからはまず録画している映像を見せて、犬を踏んでいないことを分からせたところで、おじいさんも”何でそんな分かっていたように録画なんて”と察したみたいで、平謝りだったが、近くにいた通行人の方々が俺たちの会話を聞いていて、大きな人だかりになり、最終的には警察官が来た。
 そこで俺は、
「俺の友達も二週間以内にお金を用意しろって言われていて」
 など発言してみると、そのおじいさんは警察官に連れて行かれた。
 まあなんとか一件落着かなと思っていると、俺と佐藤さんも他の警察官から名前と学校名を控えられて、また教頭先生にやり玉に上げられたら嫌だなとは思った。
 でもそんなことは杞憂に終わり、全校集会の時に校長先生から表彰状を受け取った。
 伊織さんも大丈夫になったみたいで、本当に良かった。