陸斗には一時間程の時間をかけて、この数日の間に起きた出来事を先生が伝えた。全てを聴き終えたあと頭を抱え、「終わったな」とぽつりと呟いた。夜の十時のことだった。

 身体を休める為にも一先ず渋谷のハチ公前にあるビジネスホテルに宿泊することになり、翔太は五分ほど前から先生に促され透過の能力を使い周辺を調べにいっている。先生はぼんやりとサイドテーブルに腰を掛け、由奈はシャワーを浴びている。陸斗は先程先生から聞かされたアカウントをベッドで横になりながら調べているようだった。私は隣のベッドで腰を下ろしていた為に、陸斗の携帯の画面がよくみえた。

「1130回」

 ふいに陸斗が呟いた。

「えっ?」
「あのポスト1130回もリポストされてる。インプレッション数は840万だとさ」 

 今さら驚きはしなかった。あれがどれだけ拡散されようとも、既にequilitus (エクリタス)に私達の存在を気付かれてしまった以上はもうどうでもいい。状況が悪くなることはあっても良くなる事はないのだから、これ以上Xに意識を削がれる事は気が引けた。

「シャワー空いたよ。誰か使いなよ」

 濡れた髪の毛をバスタオルで拭きながら、由奈が部屋に戻ってきた為、先に使わせて貰おうと腰をあげたその時だった。

「ふざけんなよこいつ」

 陸斗が吐き捨てるようにそう言って、画面を開いたまま携帯をみせてくる。元凶となったポストをリポストした、あの佐藤秋穂という名のインフルエンサーのアカウントの画面だった。

〈前回私がリポストした十五年前の事件の真相を告発したアカウントから、私の方が拡散力があるから代わりにポストして欲しいってDMきたから貼り付けとくね!

皆さん、こんにちは。前回ポストした内容についてですが、想像以上の反響があったことに驚いています。拡散して頂いた皆様、本当にありがとうございます!

さて、彼らが何故生きていることを隠しているのかその理由は追々話します、と前回のポストでそう書かせて頂いたので、これはその続きとなります。

 東堂沙結|《とうどうさゆ》。
 高橋由奈|《たかはしゆな》。
 林陸斗|《はやしりくと》。
 青木翔太|《あおきしょうた》。
 登坂満|《とさかみつる》。

 以上五名。こいつらは十五年前に事故と自殺、それら二つを組み合わせることにより死を偽装しました。当時の彼らは高校三年生です。夢も希望もあり、輝かしい未来が待っていたはずです。では、何故彼らはわざわざその未来を捨ててまで死を偽装したのか。いや、しなければならなかったのか。

 答えは彼らが天使だからです。

 ここまで読んで損したと思われた方、私の頭がおかしいと思った方、ちょっと待って下さい。

 まず、天使は決して空想上の生き物ではありません。正確な数を把握することは出来ませんが、この現実に存在します。ですが、皆さんが思い描いているものとは全く違います。天使は背に羽根が生え、頭に輪っかを乗せていると思われがちですが、外側は人と同じで中身だけが違います。だから、今この文章を読んでいるあなたの隣にいる人が天使の可能性だってあるんです。外見は、ふつうの人間と見分けがつきませんから。

 ですが、一つだけ見分ける方法があります。
 彼らは不老不死の能力をもっています。よって年を取ることがありません。あなたの周りにもいませんか? 十年、二十年経っても見た目が全く変わらない人。もしかしたらその人は、天使なのかもしれません。

 次回はいよいよ彼らが実際に生きているという証拠を出します。お楽しみに〉

 読み終えて、思わず携帯を投げ捨てそうになった。前回呟いたポストよりも少し砕けたような、面白おかしく書き立てたような文章が、憎くて仕方がなかった。それに、と思う。今回呟かれた内容はより具体性を帯びており、天使の特徴を的確に捉えていた。間違いない。この佐藤秋穂という人物は天使の存在を知っている。