「じゃ、とりあえず海いこっか。」
「うん。」
太陽がジリジリで照る下で無言で砂浜を歩くのはつらい。けど、だからといって話す内容もないので少々気まずい。
すると、
「宮治君って、お金持ちなの?」
もうサイアク。なんでそんなこと聞くんだよ。
「そうだけど、何?」
ひどく無愛想になってしまった。
「大変だね。」
「え、.?」
そんなこと、言われたことない。
「親子関係がうまくいかなかったりするんじゃない?」
「なんで…」
「学校で、宮治君を見てたらさ、何となく
そんな感じするんだよね」
「俺ってそんなに
愛想ない?」
「いや、愛想っていうか、寂しそうみたいなかんじ?」
俺ってさみしそうなんだ。
「そっか」
「海ついたね。」
「うん」
そのあとはとりあえず
海を描くことにした。
「ねえ、宮治君て、何で美術科専攻にしたの?」
「絵を描きたかったから。」
「どんな絵?」
「え、、、?」
本日二度目の「え」が出た。
「私はね。海が描きたくて。この高校の美術科に入ったの。この海が私に大切な出会いをくれたから。
私が人生を生きたいと思う理由をくれた人がいるから。
だから、海を描きたい。」
なんだかとても大事な話をしてくれた気がする。
ペアがたまたま同じになっただけの俺なんかにしていい話だったのか?
ふと隣にいる彼女をみると、目の前に広がる青く澄みきった墨北海でない、どこか遠いところを見つめているようだった。
その先にいったい何があるのか、なぜか彼女のことをもっと知りたいと思った。
彼女の手元の絵をみると、そこには確かに墨北海が広がっていた。
だが、ただの墨北海ではなかった。
夕焼けに染められたオレンジ、グラデーションがかったうす緑、澄んだ青...。鮮やかに彩られた墨北海がそこには広がっていた。そして、手前の砂浜には純白の大きな鳥と、砂にうずくまる2人の小さな子供の姿があった。
…あれ?この光景、知ってる気がする…。
「あの、これって、、、」
「宮治君は何を描きたいの?」
俺の話を遮るように彼女は質問した。
「え?」
「さっきの質問。答えてないでしょ。」「あ,あぁ。
俺は、別に描きたいものとかは特になくて。でも、阿古屋さんの話を聞いて、いつか描きたいものを見つけようと思った。」
そう言うと、阿古屋さんはクスリと笑って
「当たり前のことすぎるけど、目標が見つかってよかったね。
あと、もしさ、描きたいものが見つかったら、私に教えてほしい。」
「え?」
「できたら、できたらでいいから!ね!」
「う、ん…」
勢いにおされ、そういうと、
「じゃ。今日は解散ってことで!
またね!」
「またね..?」
一体なんだったんだ?
穏やかな阿古屋さんじゃなかった。
ちょっと情緒不安定なのかな?
そのあと、少し海のつづきを描いてから帰ることにした。