「一緒に眺めてたよな。懐かしい」
「うん……」
自己紹介カードを眺めていた何人かの中に、俺と八木沢くんがいた。
俺たちは横一列に並んで、クラスのみんなが書いた個性豊かな文字を眺めていた。
「柊が、真っ先に俺のカード見つけてくれて」
「うん……」
「うれしかった」
明るくなっていく八木沢くんの表情に、嘘が何ひとつ紛れ込んでいないってことが伝わってくる。
さっきから胸の中に温かな感情が広がってばかりで、この感情の処理の仕方が分からなくて焦る。
「八木沢くんと誕生日が一緒だって……一人で勝手に喜んでた」
「一人じゃなかったよ。俺が、隣にいたって」
「……うん、だね」
5月生まれの子どもたちのところを指差す俺。
隣に並んでいる八木沢くんが言葉を返してくれることはなかったから、独りよがりの呟きだと思い込んでいた。
でも、八木沢くんは俺が溢した一言を、あのときからずっと気にかけてくれていたのかもしれない。
「え、あ……俺の誕生日、八木沢くんが知っていたとは思わなくて……」
一方的に、俺が八木沢くんに憧れているだけだと思っていた。
八木沢くんが俺に関心を持っていたなんて考えもしなかった自分に、大きな大きな贈り物が届けられる。
「今年は人生で初めて、八木沢くんのお祝いができるんだ……」
「俺」
来月やって来る誕生日に想いを馳せようとしたところに、新たな贈り物が届けられる。
「今年の誕生日は、柊と二人で過ごしたい」
八木沢くんが拳にぎゅっと握り締めたところが目に入って、自分がからかわれているわけでもなんでもないってことが分かる。
「…………八木沢くん……仕事……」
「わかってる。仕事をないがしろにしようとか、そういうことじゃない」
人気急上昇中の俳優に、誕生日休暇というものは存在しない。
それなのに、俺と二人で過ごしたいって言ってくれた八木沢くんの気持ちが嬉しすぎて言葉がすらすらと出てこなくなる。
「俺の誕生日に、柊がいてくれたらうれしいって話」
八木沢くんの言葉が意外すぎて、呆然としてしまう。
何も言葉が出なくなってしまって、自分はかなり落ち着きをなくしてしまってるかもしれない。
「柊の誕生日は、俺が祝いたい。俺に祝わせてほしい。柊の誕生日も、二人で……」
ほとんど瞬きをすることなく、俺の目をじっと見つめてくれる八木沢くん。
嘘でもからかいでもなく、言葉が本物に変わっていく瞬間に立ち合うことができて胸が熱くなる。
「なんでかな……」
「柊?」
自分の声は、震えてしまってるかもしれない。
俺たちは同い年のはずなのに、八木沢くんは大人びていて、自分が子どもっぽすぎて嫌になる。
「なんで、八木沢くん……俺のこと、こんなに喜ばせるの……?」
一緒に暮らしているおかげで、今年初めて誕生日を祝い合えるということに気づく。
稚拙な言葉だろうとなんだろうと、自分が嬉しいって気持ちを抱えていること。
幸せだって思っていること。
溢れる気持ちすべてを伝えるために、口を動かしていく。
「八木沢くんと誕生月が一緒ってだけでも嬉しいのに、お祝いまで一緒にできるなんて……」
感極まって、泣きそうになる。
泣くわけがないけど、心が温かな感情に包まれて、俺は幸せって感情を覚えていく。
「芸能人だから、そう簡単に外出できないけど……」
肩をすくめる八木沢くんだけど、そんな申し訳なさそうな表情をさせるために俺はいるんじゃない。
「でも、柊に喜んでもらえるような誕生日を考えるから」
柔らかな笑みを浮かべて、俺に安心感を与えようとしてくれる八木沢くんの気持ちがよく伝わってくる。
「俺も考える! 八木沢くんに喜んでもらえるような、最高の誕生日を」
だから、彼の気持ちに応えたい。
彼の気持ちに、最高の笑顔を向けられるようになりたい。
「うん、ありがとう。柊」
「こちらこそ、ありがとう」
いただきますの言葉が重なるときは恥ずかしくもないのに、ありがとうの言葉が重なったときは恥ずかしいと思ってしまった。
「あ、ご飯、温め直すね」
「あ、ありがと」
互いに照れてしまった俺たちの会話は、ここで終わった。
でも、すぐに新しい話題が始まって、俺たちは一緒に暮らしながら言葉を交わし合う幸せを噛み締めていく。
「八木沢くん、召し上がれ」
そして俺は今日も、一緒に暮らすことの幸福感を心と記憶に焼きつけていく。
「うん……」
自己紹介カードを眺めていた何人かの中に、俺と八木沢くんがいた。
俺たちは横一列に並んで、クラスのみんなが書いた個性豊かな文字を眺めていた。
「柊が、真っ先に俺のカード見つけてくれて」
「うん……」
「うれしかった」
明るくなっていく八木沢くんの表情に、嘘が何ひとつ紛れ込んでいないってことが伝わってくる。
さっきから胸の中に温かな感情が広がってばかりで、この感情の処理の仕方が分からなくて焦る。
「八木沢くんと誕生日が一緒だって……一人で勝手に喜んでた」
「一人じゃなかったよ。俺が、隣にいたって」
「……うん、だね」
5月生まれの子どもたちのところを指差す俺。
隣に並んでいる八木沢くんが言葉を返してくれることはなかったから、独りよがりの呟きだと思い込んでいた。
でも、八木沢くんは俺が溢した一言を、あのときからずっと気にかけてくれていたのかもしれない。
「え、あ……俺の誕生日、八木沢くんが知っていたとは思わなくて……」
一方的に、俺が八木沢くんに憧れているだけだと思っていた。
八木沢くんが俺に関心を持っていたなんて考えもしなかった自分に、大きな大きな贈り物が届けられる。
「今年は人生で初めて、八木沢くんのお祝いができるんだ……」
「俺」
来月やって来る誕生日に想いを馳せようとしたところに、新たな贈り物が届けられる。
「今年の誕生日は、柊と二人で過ごしたい」
八木沢くんが拳にぎゅっと握り締めたところが目に入って、自分がからかわれているわけでもなんでもないってことが分かる。
「…………八木沢くん……仕事……」
「わかってる。仕事をないがしろにしようとか、そういうことじゃない」
人気急上昇中の俳優に、誕生日休暇というものは存在しない。
それなのに、俺と二人で過ごしたいって言ってくれた八木沢くんの気持ちが嬉しすぎて言葉がすらすらと出てこなくなる。
「俺の誕生日に、柊がいてくれたらうれしいって話」
八木沢くんの言葉が意外すぎて、呆然としてしまう。
何も言葉が出なくなってしまって、自分はかなり落ち着きをなくしてしまってるかもしれない。
「柊の誕生日は、俺が祝いたい。俺に祝わせてほしい。柊の誕生日も、二人で……」
ほとんど瞬きをすることなく、俺の目をじっと見つめてくれる八木沢くん。
嘘でもからかいでもなく、言葉が本物に変わっていく瞬間に立ち合うことができて胸が熱くなる。
「なんでかな……」
「柊?」
自分の声は、震えてしまってるかもしれない。
俺たちは同い年のはずなのに、八木沢くんは大人びていて、自分が子どもっぽすぎて嫌になる。
「なんで、八木沢くん……俺のこと、こんなに喜ばせるの……?」
一緒に暮らしているおかげで、今年初めて誕生日を祝い合えるということに気づく。
稚拙な言葉だろうとなんだろうと、自分が嬉しいって気持ちを抱えていること。
幸せだって思っていること。
溢れる気持ちすべてを伝えるために、口を動かしていく。
「八木沢くんと誕生月が一緒ってだけでも嬉しいのに、お祝いまで一緒にできるなんて……」
感極まって、泣きそうになる。
泣くわけがないけど、心が温かな感情に包まれて、俺は幸せって感情を覚えていく。
「芸能人だから、そう簡単に外出できないけど……」
肩をすくめる八木沢くんだけど、そんな申し訳なさそうな表情をさせるために俺はいるんじゃない。
「でも、柊に喜んでもらえるような誕生日を考えるから」
柔らかな笑みを浮かべて、俺に安心感を与えようとしてくれる八木沢くんの気持ちがよく伝わってくる。
「俺も考える! 八木沢くんに喜んでもらえるような、最高の誕生日を」
だから、彼の気持ちに応えたい。
彼の気持ちに、最高の笑顔を向けられるようになりたい。
「うん、ありがとう。柊」
「こちらこそ、ありがとう」
いただきますの言葉が重なるときは恥ずかしくもないのに、ありがとうの言葉が重なったときは恥ずかしいと思ってしまった。
「あ、ご飯、温め直すね」
「あ、ありがと」
互いに照れてしまった俺たちの会話は、ここで終わった。
でも、すぐに新しい話題が始まって、俺たちは一緒に暮らしながら言葉を交わし合う幸せを噛み締めていく。
「八木沢くん、召し上がれ」
そして俺は今日も、一緒に暮らすことの幸福感を心と記憶に焼きつけていく。