「旅立ちの日に」は、この中学校で過ごした日々を思い出させる。3年間、色々なことがあった。別れの寂しさに泣いている人たちもちらほらいる。
 3時間後。プリント類が配られ終えた後、級長が先生に花束と寄せ書きを渡す。
「ありがとう。本当にありがとう。君たちと過ごした3年間は、とくに担任だった一年間は本当に素晴らしいものでした」
 先生の話を遮るように、校内放送が入る。
「それでは、3年5組の皆さん、昇降口に向かってください」
 おれ達は教室を出て、窓から光が差し込む、今まで何度も見てきたけれど、そんな日々の中でも一番幻想的な廊下を、今日で最後の廊下を、歩く。
 隣を歩く隆斗は、おれに告げた。
「なあ、俊太、おれ……」
 その目からは一筋の涙が流れ……。
 喜びの笑顔に、溢れていた。
「内申、オール5、取れたよ!」
 ……マジか!
「……お前、すげえな! ほんとにすげえよ!」
 ……無理だと思ってたことも、やってみたら、ワクワクする。
 本当に、そうなのかもしれない。
 俺は、俺の中で、ずっと否定してきた。春高に、行けないって。
 でも。
 俺、本当は。
 夢、叶えてえよー……。
 無理なのかなぁ。
 3年のブランクがあったら、無理……。
「なあ、俊太」
「……なに?」
「やってみればいいじゃん、お前も」
「やって、みれば……」
「あの青空の下の時は、俺も何も言えなかったよ。でも、今なら言える。無理だと思えることだって、やってみればいーじゃん! そうだろ!?」
 やばい。
 この後、後輩の花道があるのに。
 涙が。
 涙が、出てきて止まらない。
 俺は。
 俺は。
 本当は。
 どうしようもなく。
 夢を。
 追いかけたかったんだ……!
 それり、隆斗が。
 思い出させて、くれたんだ……!
 本当は、そうだったんだよ……!
「……ああ、そうかもしれないな」
「は? 泣いてんの、お前」
「泣いてねえし」
「泣いてんじゃん!」
「泣いてねえし!」