試合時間残り2分。0対0。
 相手のフォワード、サッカー部の岳人がゴール前まで攻めてきた。
 そこを。
 長身バスケ部のディフェンダー、太雅が止める。
 そのまま、ボールは一番後ろの大雅から、真ん中の隆斗へと送られた。
 フォワードの俺は、それを見る。
 周りを見る。オフサイドは取られなさそうだ。
 そして。
 隆斗から、縦パスが送られる。
 ボールが、俺の右足に……。
 少しズレた。
 大丈夫。
 俺は、足を思いっきり伸ばした。
 そして、ボールは、おれの右足に……。
 


 小学校最後の大会。
 3セット目。
 このセットを取ったら、勝ち。
 接戦のなか、セットポイント。
 キュッキュッと、シューズの擦れる音が響く。
 体育館内の時間が、スローモーションになっているみたいだった。
 ネットから、ボールが、智樹に向かって勢いよく飛んでくる。
 智樹は、すぐさまレシーブをする。少し後ろによろける。
 そのボールは、ふんわりと、セッターの勇真へとつながった。
 そして、トスが上がる。
 俺は、後ろにある手を下から前に振り出しながら、右足で思いっきり踏み込み、飛んだ。
 前衛の裕太が、フェイントで、空振りをする。
 そして、俺に、俺の右手に、トスが、ボールが、当たる……。



 ……まるで、俺のために、みんなが支えてくれたような気がした。
 こうして、最後の力を振り絞って、俺に、パイプを、つないでくれた。
 今も、そうだ。
 太雅も、隆斗も。
 俺に、ボールをつないでくれた。

 俺の右足に、なんとか、サッカーボールが当たる。
 瞬間。
 サッカー部の天野が、無理やりボールを奪いに来る。
 足が、引っかかる。
 俺は、そのままバランスを崩し、倒れこんだ。

「ピィーッ! P K!」
 先生は、ペナルティマークを指さしている。
 そのまま天野に注意をした後、ボールをマークの上に置いた。
 隆斗が俺に告げた。
「俺はお前に、最高のパスを出したんだ」
「……当たり前。決めるよ」

 俺は、位置に着いた。
「ピィーッ!」
 助走をつけ、足を振りかぶった。
 


『うおおお!』
 相手のブロックの向こう、リベロの少し右。スペースを見つけた。そこをめがけて、最後の力を振り絞って。おれの、最強の体力を持つ、最高のスパイクで。
『うらあああああああああ!』
 そのまま、弾丸のようにボールはスペースに向かっていく。
 そして、地面を叩きつけた……!
『よっしゃあああああああ!』


 ……そんな夢、叶わないのに。
 なんで、今。
 俺は。
 こんなに、熱くなっているんだろう。
「うおおおおおおおお!」
 隆斗の、最高のパスを。
 血液のように繋がれた、その最高のパスを。
 俺の、最高のシュートで。
 
 ボールは、枠内の左上へと、弾丸のように飛んだ。
 そして。

 ゴールに、入った。

「やったあああああああ!」
 おれは後ろを向き、みんなのところに走っていった。
 隆斗が来てくれた。
「おれたちの最高の連係プレーだぜ!」
「……ああ! 最高! ……ねえ、隆斗」
「なんだよー!」
「俺、今、久々に……めっちゃ、ドキドキしてる」
「それ、最高の感情だよ! 俊太!」
「……ああ!」
 俺たちは、ハイタッチをした。
 
 みんなから血液のようにして送られてきたボールを、最後に自分が、決める。

 なんかわかんないけど。

 マジで、快感。
 でも。

 マジで辛い。
 
「でもさー、りゅーと、なんでだろー、なんか、こんな感情を思い出すたびに、すごく、ものすごく……辛く、悲しくなる……」
「俊太……?」
「……いや、なんでもねー。ごめん。いいパスありがとな」
「……ああ」