「……なあーりゅーとー……」
軽やかなフットワークで俺の方に来て、計測ノートを左手で渡してくる。俊太は、腰パンに短髪、最近の校則改変で解禁になったツーブロックで調子に乗った髪型をしているが、それが切れ長のつり目にムカつくぐらい似合っている。今からたくさん走るのに、いつも通りの余裕そうな顔をしている。
俺が計測ノートを受け取ると、俊太は手首足首をブラブラとさせ、首をかくっかくっと動かす。主人公と戦う前のめっちゃ強い悪役みたいに見えてくる。
「なんだよ」
「……りゅーとって、受験どこ受けるのー?」
「あ、ああ……受験は……まだ、はっきりとは決めてない……。それより、俊太、お前、全中直前トーナメント、どうだった?」
「……うーん、どうだったかなー……。ベスト8? には入ってだけどー……」
「は!? ベスト8! ……やっぱ俊太、すごいなー!」
「……そうかな」
そう言うと俊太は、運動場へと向かった。
スタートしてから30秒。俊太はもう、1位を陣取っていた。
「やっぱ俊太、はええな」
「ああ」
昌磨と石段に座って、走る姿を見ていた。
「昌磨は誰のを計測してるの?」
「大雅」
「あー。大雅もなかなか早いよな」
「うん。マジで早い」
大雅は、5位の位置についている。
「なあ、昌磨。そういえば、おれ、太雅に前誘われて、冬月さんのライブに行くんだよね」
「冬月さん?」
「最近ハマってる歌い手さん」
「そうなんだ」
「そうそう」
「へぇー、ライブに行くんだ」
「昌磨は、ライブに行ったりとかはしないの?」
昌磨は、ラップタイムをササッとメモして、質問に答えた。
「前、BLUE PERMISSIONのライブに行ってきたよ」
「え!? ブルパミのライブ行ってきたの?」
「うん」
BLUE PERMISSION。最近流行している、ロックバンド。アニメのタイアップをたくさんしていて、めっちゃかっこいいバンド。俺も何曲かは知っている。
「へー、ブルパミ好きなんだ」
「ブルパミってさ、なんか、かっこいいんだけど、歌詞はどことなく繊細というか。でもメロディーはアップテンポだから、落ち込んでるときとかにも、頑張ろうって思えるんだよね」
「そうなんだ」
「でも、あのMCはマジで熱かった! テンション上がったし、マジで楽しかった!」
「へー! いいなあ。行ってみてーなあ」
「俺さ、前の試合でやらかしたんだよね」
「そうなの?」
「うん。俺のエラーで、サヨナラ負け。次、ないんだろうな、って思って。でもさ」
「うん」
俊太が、ラスト1周に入った。
「ブルパミの、『LIMIT BREAKOUT』って曲が好きで」
「あー! リミブレ! おれも知ってる!」
「まじ? かっこいいよね、めっちゃ!」
「うん、かっこいい」
昌磨がフフッと笑い、話を続ける。
「その曲聞くと、まだ、終わってないし、分からないし、最後まで全力を尽くそうって思えてきて」
俊太が、抜かされそうになっている。最後のタイム、ちゃんと記録しなきゃ。
「そう思って部活に打ち込んでる今、めっちゃ、辛いけど、なんか」
昌磨は少し、言葉に詰まり、告げた。
「楽しいんだよね」
「……そっか」
「うん。ごめんね、分かんないよね」
「昌磨」
「なに?」
「俺ね、1つ、最近、思ってることがあるんだよね」
「思ってること……?」
俊太が、前のめりのクロールを泳ぐかのような姿勢で、一気に振り切り、独走状態にもっていった。
「音楽には、多分、人を動かす力がある。」
俊太は、1位でゴールした。
「……ってね。これこそ分かんないよね。」
「音楽には、人を動かす力がある……。俺は、リミリベって曲に、動かされたのかな」
「……そうかもしれない。そうじゃなきゃ、もう、諦めてるでしょ?」
「確かに」
「俺も、前の試合出れなかったの。今でもめっちゃ悔しいよ。でも、俺も、ゆきとPの、冬月さんの歌を聞いて、まだ頑張ろうって思えて。俺達、そのおかげで、まだ、諦めてない」
「……うん」
「なあ、昌磨」
「なに?」
「そんな、人の心を、気持ちを動かせるような音楽を、作って、歌って、届けたい……あれ、俺何言ってんだ!?」
昌磨が、俺の方をぼーっと見る。
「お前……すげえじゃん!」
「え……?」
「すげえ夢じゃん!」
「夢……」
「マジカッケーよ!お前、絶対俺に聴かせてくれよ!」
「夢……か。全然考えたことなかった……」
「おーい、お前ら、なに話してるんだよ」
走り終えた俊太が石段まで来て、話しかけてきた。後ろに息を切らした太雅がいる。
「お、おい俊太、一緒にゴールするって言ったじゃねーかよ……」
「……? そんなこと言ったっけ……」
「お前、ふざけんなよ……昌磨、おれ何位だった?」
「5位」
「5位か~」
隣の会話を見ていた俊太が俺に目を向けた。
「……隆斗ォ、疲れた~」
「お前、すげーよ!」
俺は、俊太の計測ファイルを渡した。
「……ああ、今日も一位だよー……」
計測ファイルを俊太に渡した。俊太はそれを手に取った。
「……あざ。次は、りゅーとの番だから、頑張ってきてねー……」
俺にファイルを渡した隆斗は、少し、下を向いた。
「なあ、俊太。俺……」
「んー……?」
「前の試合、出れなかった。悔しいから、絶対出れるように、全中予選は絶対出れるように、この持久走も、絶対ものにして、それで……」
「……りゅーとなら大丈夫だよ」
顔を上げ、グラウンドに目を向けた。そこには、広大な景色が広がっていた。
俺達は、まだ、終わっていない。
「……ああ」
スタートラインへと向かった。
軽やかなフットワークで俺の方に来て、計測ノートを左手で渡してくる。俊太は、腰パンに短髪、最近の校則改変で解禁になったツーブロックで調子に乗った髪型をしているが、それが切れ長のつり目にムカつくぐらい似合っている。今からたくさん走るのに、いつも通りの余裕そうな顔をしている。
俺が計測ノートを受け取ると、俊太は手首足首をブラブラとさせ、首をかくっかくっと動かす。主人公と戦う前のめっちゃ強い悪役みたいに見えてくる。
「なんだよ」
「……りゅーとって、受験どこ受けるのー?」
「あ、ああ……受験は……まだ、はっきりとは決めてない……。それより、俊太、お前、全中直前トーナメント、どうだった?」
「……うーん、どうだったかなー……。ベスト8? には入ってだけどー……」
「は!? ベスト8! ……やっぱ俊太、すごいなー!」
「……そうかな」
そう言うと俊太は、運動場へと向かった。
スタートしてから30秒。俊太はもう、1位を陣取っていた。
「やっぱ俊太、はええな」
「ああ」
昌磨と石段に座って、走る姿を見ていた。
「昌磨は誰のを計測してるの?」
「大雅」
「あー。大雅もなかなか早いよな」
「うん。マジで早い」
大雅は、5位の位置についている。
「なあ、昌磨。そういえば、おれ、太雅に前誘われて、冬月さんのライブに行くんだよね」
「冬月さん?」
「最近ハマってる歌い手さん」
「そうなんだ」
「そうそう」
「へぇー、ライブに行くんだ」
「昌磨は、ライブに行ったりとかはしないの?」
昌磨は、ラップタイムをササッとメモして、質問に答えた。
「前、BLUE PERMISSIONのライブに行ってきたよ」
「え!? ブルパミのライブ行ってきたの?」
「うん」
BLUE PERMISSION。最近流行している、ロックバンド。アニメのタイアップをたくさんしていて、めっちゃかっこいいバンド。俺も何曲かは知っている。
「へー、ブルパミ好きなんだ」
「ブルパミってさ、なんか、かっこいいんだけど、歌詞はどことなく繊細というか。でもメロディーはアップテンポだから、落ち込んでるときとかにも、頑張ろうって思えるんだよね」
「そうなんだ」
「でも、あのMCはマジで熱かった! テンション上がったし、マジで楽しかった!」
「へー! いいなあ。行ってみてーなあ」
「俺さ、前の試合でやらかしたんだよね」
「そうなの?」
「うん。俺のエラーで、サヨナラ負け。次、ないんだろうな、って思って。でもさ」
「うん」
俊太が、ラスト1周に入った。
「ブルパミの、『LIMIT BREAKOUT』って曲が好きで」
「あー! リミブレ! おれも知ってる!」
「まじ? かっこいいよね、めっちゃ!」
「うん、かっこいい」
昌磨がフフッと笑い、話を続ける。
「その曲聞くと、まだ、終わってないし、分からないし、最後まで全力を尽くそうって思えてきて」
俊太が、抜かされそうになっている。最後のタイム、ちゃんと記録しなきゃ。
「そう思って部活に打ち込んでる今、めっちゃ、辛いけど、なんか」
昌磨は少し、言葉に詰まり、告げた。
「楽しいんだよね」
「……そっか」
「うん。ごめんね、分かんないよね」
「昌磨」
「なに?」
「俺ね、1つ、最近、思ってることがあるんだよね」
「思ってること……?」
俊太が、前のめりのクロールを泳ぐかのような姿勢で、一気に振り切り、独走状態にもっていった。
「音楽には、多分、人を動かす力がある。」
俊太は、1位でゴールした。
「……ってね。これこそ分かんないよね。」
「音楽には、人を動かす力がある……。俺は、リミリベって曲に、動かされたのかな」
「……そうかもしれない。そうじゃなきゃ、もう、諦めてるでしょ?」
「確かに」
「俺も、前の試合出れなかったの。今でもめっちゃ悔しいよ。でも、俺も、ゆきとPの、冬月さんの歌を聞いて、まだ頑張ろうって思えて。俺達、そのおかげで、まだ、諦めてない」
「……うん」
「なあ、昌磨」
「なに?」
「そんな、人の心を、気持ちを動かせるような音楽を、作って、歌って、届けたい……あれ、俺何言ってんだ!?」
昌磨が、俺の方をぼーっと見る。
「お前……すげえじゃん!」
「え……?」
「すげえ夢じゃん!」
「夢……」
「マジカッケーよ!お前、絶対俺に聴かせてくれよ!」
「夢……か。全然考えたことなかった……」
「おーい、お前ら、なに話してるんだよ」
走り終えた俊太が石段まで来て、話しかけてきた。後ろに息を切らした太雅がいる。
「お、おい俊太、一緒にゴールするって言ったじゃねーかよ……」
「……? そんなこと言ったっけ……」
「お前、ふざけんなよ……昌磨、おれ何位だった?」
「5位」
「5位か~」
隣の会話を見ていた俊太が俺に目を向けた。
「……隆斗ォ、疲れた~」
「お前、すげーよ!」
俺は、俊太の計測ファイルを渡した。
「……ああ、今日も一位だよー……」
計測ファイルを俊太に渡した。俊太はそれを手に取った。
「……あざ。次は、りゅーとの番だから、頑張ってきてねー……」
俺にファイルを渡した隆斗は、少し、下を向いた。
「なあ、俊太。俺……」
「んー……?」
「前の試合、出れなかった。悔しいから、絶対出れるように、全中予選は絶対出れるように、この持久走も、絶対ものにして、それで……」
「……りゅーとなら大丈夫だよ」
顔を上げ、グラウンドに目を向けた。そこには、広大な景色が広がっていた。
俺達は、まだ、終わっていない。
「……ああ」
スタートラインへと向かった。