あと一周だー……。誰もいないなー……。
 めちゃくちゃ広いグラウンドで、沢山の人がいるのに、不思議と、それが自分だけのもののように思えてくる。
 独走……。いっつもこれだから、なんか、持久走って、つまんないなー。
 周回遅れの奴を抜かし、ラストのコーナーへと進んだ。
――
 キュッキュッと、シューズの擦れる音が響く。
 体育館内の時間が、スローモーションになっているみたいだった。
 ネットから、ボールが、智樹に向かって勢いよく飛んでくる。
 智樹は、すぐさまレシーブをする。少し後ろによろける。
 そのボールは、ふんわりと、セッターの勇真へとつながった。
 そして、トスが上がる。
 俺は、後ろにある手を下から前に振り出しながら、右足で思いっきり踏み込み、飛んだ。
 前衛の裕太が、フェイントで、空振りをする。
 そして、俺の右手に、トスが、ボールが、当たる!
「うおおお!」
 相手のブロックの向こう、リベロの少し右。スペースを見つけた。そこをめがけて、最後の力を振り絞って。おれの、最強の体力を持つ、最高のスパイクで。
――
 少し、思い出に浸っていた。もう、最後の一周だ。
 ……まあ、小学校の頃みたいには行かないよなー。
 ……バレーなんて、どーでもいい。
 俺の居場所は、他にあるから……。
 まあ、俺も顔を出していないし、俺のことを知っている人も匿名だから、寂しいって言ったら寂しいけど。
 でも、別に。
 そんな感じで、いんじゃねー、って感じで。
 バレーなんて、ガチでやったもん負けだよ。
 ガチで、やったもん負け……。
 前髪が重めの隆斗が、運動場に繋がる小さな石の階段に座って、俺の走りを見ている。
 その目は大きく見開き、輝いている。
 前を見ると、もう、ゴールは目前だった。
 少しペースを速めた。
 そのまま大きく足を振り、手を振り、そして、ゴールした。
「お前、すげーよ!!」
 ラップタイムが書かれた俺の計測ファイルを、隆斗が俺に渡した。
「……ああ、今日も一位だよー……。」
 隆斗から、隆斗の分の計測ファイルも渡された。
「……あざ。次は、りゅーとの番だから、頑張ってきてねー……。」
 俺にファイルを渡した隆斗は、少し、下を向いた。
「なあ、俊太。俺……」
「んー……?」
「前の試合、出れなかった。悔しいから、絶対出れるように、全中予選は絶対出れるように、この持久走も、絶対ものにして、それで……」
「……りゅーとなら大丈夫だよ」
 隆斗は広いグラウンドに目を向けた。
「……ああ」