4.

 紬が倒れた。
 退院してからわずか二日後の、それも、ようやく念願叶って学校に再登校したその初日に、だ。
「あら千隼くん。せっかく来てくれたのに申し訳ないんだけれど、紬ちゃんは今、ご家族の方以外面会できない状態なのよ。ごめんなさいね」
 四月十七日。紬と出会って七十四日目。
 すっかり顔馴染みとなった看護師の山田さんが、ナースステーションの窓口から顔を出し、申し訳なさそうな顔でそう告げる。
「そう、ですか……」
 紬が倒れてはや一週間。あれから彼女との連絡は一切取れておらず、日に日に不安を膨らませては病院を訪れ、彼女を見舞おうとするものの……突きつけられる現実はこれだった。
〝家族〟ではない僕は、受付で断られてしまうともはやどうすることもできない。
 せめて彼女の両親に会うことができれば、現在の状況を窺い知ることができるかもしれないと思い、待合ロビーで手持ち無沙汰に時間を潰すものの、僕が紬の両親に接触できる機会はなかなか訪れなかった。
(紬……)
 心配で、不安で、息が詰まりそうで。
 待合ロビーにいても、自宅に帰っても、学校に居ても。どこに居てもなにをしていても、なにも手につかない日々が続く。
 僕はスマホのカレンダーを開いて、紬と出会った日から今日までの日数をカウントした。何度も何度も繰り返し指で数えたけれど、今日で七十四日目。三ヶ月が近づいている。
(違う。少し疲れが出ただけだ)
(今に元気になっていつも通り面会できる日がくる)
(紬が死ぬはずなんかない)
 なんの根拠もない理想だけをただひたすらに積み重ねて、手の中のスマホを強く握りしめる。
〝死〟という現実が目前まで迫っていることに今さらながら慄いて、僕は、ただ漠然とその事実に打ちひしがれていた。