5.
そもそも僕は、遊園地というものに縁がない人間だった。
物心ついた頃には母一人子一人の生活で、母さんはいつだって忙しい人間だったし、たまにの休日に疲労感をおし隠して投げられる『どこか出かける?』という問いかけには、僕は決まって『図書館』とか『ゲーム機売り場』と答え、向かった先で一人黙々と本を読んだりゲームを手にとってパッケージを眺めるだけという、究極に手のかからない子どもだった。
もちろん遊園地に興味がなかったわけじゃない。でも、普段から疲れている母さんをさらに疲れさせるのはどうにも気が引けたし、そこまでして乗りたいと思うような乗り物もなかった。
だから僕にとっては、中学校時代に遠足で訪れた以来の遊園地だった。
遠足で行った遊園地にはお化け屋敷自体がなかったので、お化け屋敷に限っていえば人生初挑戦、ということになる。
初めて足を踏み入れるそこは漫画やテレビで見た通り、ずいぶん古い様式の長方形のプレハブとなっていて、不気味に飾られた妖怪人形達の脇にこぢんまりとした入り口がある。
「はい、二名様ね。暗いので足元にお気をつけくださ〜い」
受付にはやる気がなさそうな係員のおじさんが一人、数取器――あのカチカチ押す銀色のやつだ――を片手に、僕たちを待ち構えていた。
この屋敷はどうやら自らの足で周るタイプらしい。あまり人気がないこの施設を好んで利用しようとする物好きは僕たちぐらいなもので、受付のおじさんがカチカチした手元のカウンターも、『十五』という寂しい数字を指したまま止まっていた。
すでに時刻は十八時を回っているというのに、僕らの他に十三人しかこの屋敷を利用していないのか……。
「じゃ、行こう」
「う、うん」
目の前にぶら下がる幽霊らしき人形を邪険に手でかき分ける僕とは打って変わって、ひどく怯えた表情でさりげなく僕の後ろに隠れるようについてくる紬。
「……」
「……っ!」
入り口にある暗幕を開けてすぐ、ヌウっと浮かび上がってきた生首に、彼女は瞬時に後退りながらも両手で口を押さえていた。
(怖いのか……)
挑発的に勝負を煽ってきた割に、どうやら彼女は幽霊系が苦手のようである。
心臓、止まらないだろうな……と不安に駆られつつも、彼女は健気に前に進もうとしているので、そのまま先を急ぐことにする。
係員の案内通り、屋敷の中は真っ暗だった。
足元の誘導灯を頼りに、そろりそろりと歩みを進める。
ところどころに仕掛けが施されており、突然ひんやりした風がうなじの辺りを掠めて恐怖心を煽られたかと思えば、お経らしきBGMが流れ出して右手側にあった井戸の中から髪の長い幽霊――巧妙に作られたマネキンである――がすうっと現れ、不気味な顔でニヤアと微笑まれたり。
時には仕掛け扉の開錠に挑戦させられ、その先に踏み込んだ途端、意表をつくように飛び出してきた血まみれの幼児――のマネキン――に肝を冷やされる、なんていう場面もあった。
「……」
「〜〜っ、……!」
それらの光景を死んだ魚のような目で見送る僕とは大違いに、紬はお化けが出てくるたびに涙目になりながら必死に悲鳴をこらえていた。
苦手なら無理に肝試しで勝負を挑んでこなければよかったのに、と思う反面、なんだかちょっと不憫に思えてきて、ここらで悲鳴の一つでもこぼして早めに勝負を終わらせてあげようかという同情も湧いたが、やはりその考えはすぐに打ち消した。
本人がここまで必死に頑張っているのに、そんなことをしたら逆に誠意に欠けるってものだろう。
余計なことを考えているうちに、今までほんのり灯っていた足元の誘導灯がふっと消え、一層あたりが薄暗くなった。もう見せ場は越えたように感じていたし、そろそろ出口の案内が見えてくる頃合いかもしれない。
「大丈夫?」
「う、うん。へいき」
僕の問いかけに、背後から返ってきた声はわずかに震えていた。
後ろを振り返ると、彼女は僕の洋服の裾を僅かに掴み、泣きそうな顔で目を瞑っている。
まるで平気には見えず、意地っ張りな彼女の強がりに思わず口元を緩めていると、ふいに彼女が足元の装置に躓いて転びかけた。
「……!」
あっと声をあげるより早く、反射的に彼女の腕を掴んで引き寄せる。
二人の距離がぐんと縮み、思いもよらず彼女を抱き止めたような形になっていて、心拍数が一気に跳ね上がった。
「ご、ごめん」
「いや……」
甘く、優しい香りが鼻先をふわりと掠める。
彼女の柔らかい吐息や体温を間近に感じ、全身に緊張が走った。
(ち、近い……)
自分から引き寄せておいてなんだが、近すぎるし目のやり場にも困る。
このままだと気恥ずかしさと緊張で僕の心臓が破裂しかねない状態だったので、一旦彼女から離れつつ、少し迷ったが、僕は思い切って彼女の手を取ることにした。
「気づかなくてごめん」
「……っ」
「転んだら危ないし、色、見えないと余計に危ないだろうから。いこ」
手を繋ぐとわかる。彼女の細っこい手はかなり震えていた。
気恥ずかしさは拭えないままだけれど、彼女がこんなに無理をしてまで恐怖を堪えていたのなら、もっと早くにこうしてあげればよかったとも思う。
そうして暗闇の中、僕たちは一度も声を発することなく手を繋いで前進する。
仕掛けのお化けが飛び出してくるたびに彼女は強く僕の手を握ってきたし、僕もつられるようにその手を握り返した。
緊張で汗ばむ中、左右が障子という長い廊下の先にようやく出口と思しき扉が見えてきて、僕はホッと胸を撫で下ろす。
たった十分程度の順路が、二十分にも三十分にも長く感じた。
「出口だ」
結局、紬の根性勝ちでどちらの口からも悲鳴は上がらず、勝負はつかないままだったなあなどとぼんやり考えながら僕がドアノブに触れた……その時のことだった。
「よか……ひっ」
一刻も早く外に出ようと、横から手を出してドアを押すのを手伝おうとしていた紬が、鼻から抜けるような小さな声をあげ、ものすごい勢いで僕に飛びついてきた。
「⁉︎」
僕は一瞬、何が起きたのか理解ができず固まる。
紬は僕の胸元にぎゅうっとしがみつき、華奢な肩を小刻みに震わせていた。
「え、いや、あの」
お化けや仕掛けには一切ノーリアクションだった僕だが、このハニートラップには狼狽えざるを得ない。
いったい何事だろうと思って、彼女が触れようとしていたドア部分に視線を向けると、そこにはカメムシのような少し大きめの虫が、ぺとりとこびりついていた。
「む、むし……」
「うん、虫だね」
「こっち見てる……」
「いや、暗いしどこに目があるのかわからないよ」
「襲ってくるかも」
「そこまで凶暴には見えないんだけど」
「逃げよう千隼くん」
「そっちに逃げたら入り口に逆戻りだよ」
「戦うしかないの……?」
「話し合いが通じる相手とも思えないんだけど……っていうか紬、虫、苦手なの?」
「……」
「苦手なんだね」
屈辱そうに僕の懐に顔を埋める紬。あれだけ必死に恐怖心と闘って悲鳴を我慢してきたというのに、まさかこんなところでボロを出してしまうだなんて、彼女らしいというかなんというか。
突然のハプニングに当惑しつつも、意地っ張りな彼女の隠しきれていない女子らしさに思わず吹き出してしまった。
「ただの虫だし、大丈夫だよ」
宥めるように震える彼女の背を撫でてあげると、紬は次第に落ち着きを取り戻すよう小さく頷いた。
僕はポケットから園内マップの紙を取り出し、くるくると丸めたそれで虫を追い払う。
虫が飛んでいく一瞬、紬は体を強張らせて僕にしがみつき、さりげなく僕を盾にしていた。
「……」
遠のいていく虫の羽音。音が聞こえなくなっても紬はしばらく、僕の上半身に抱きついたまま離れなかった。
かくいう僕も硬直したまま動けずにいて、高鳴る心音が聞こえてしまわないか、手にかいている冷や汗がバレてしまわないか。そんなことを考えながら、口の中がカラッカラになるほどドキドキしていた。
しばらくそのまま、無言で互いの体を抱きしめ合う僕たち。
なんだかこうしていると、何もかも――ここがお化け屋敷の中だという現実すら――忘れて、世界が二人きりになったような錯覚に陥る。
「……大丈夫?」
彼女があまりにも身動ぎしないものだから、疑問に思って彼女の顔を覗き込むと、紬はわずかに潤んだ瞳で僕を見上げた。
(え。ちょっと待て。こ、これは……)
ごくりと喉を鳴らす僕。どう見ても彼女は、何かを訴えるような眼差しで僕を見つめている。
視界に入る彼女の艶やかな唇。
いいのか? いいのだろうか? いやでも彼女の気持ちを確認したわけじゃないし……と、若干パニくりながらも思考停止して数秒。
やがて紬が、この甘い空気に身を委ねるようそっと瞳を閉ざした。
僕の全身に、煮えたぎるような熱い血が駆け巡っていく。
引き寄せられるように僕も瞳を閉じ、少しずつ、少しずつ、傾けた顔を彼女の方に近づけ……――。
『ゴ来場アリガトウゴザイマシタ。マタノオコシヲオ待チシテオリマス!!』
「う、うおあああああッッ」
――……ようとしたその瞬間、両側の障子がスパーンと勢いよく開き、中から機械的な笑い声を発するろくろ首が飛び出してきたため、不覚にも僕は、飛び退いて絶叫を上げるという人生最大級の大失態をぶちかましたのであった。
そもそも僕は、遊園地というものに縁がない人間だった。
物心ついた頃には母一人子一人の生活で、母さんはいつだって忙しい人間だったし、たまにの休日に疲労感をおし隠して投げられる『どこか出かける?』という問いかけには、僕は決まって『図書館』とか『ゲーム機売り場』と答え、向かった先で一人黙々と本を読んだりゲームを手にとってパッケージを眺めるだけという、究極に手のかからない子どもだった。
もちろん遊園地に興味がなかったわけじゃない。でも、普段から疲れている母さんをさらに疲れさせるのはどうにも気が引けたし、そこまでして乗りたいと思うような乗り物もなかった。
だから僕にとっては、中学校時代に遠足で訪れた以来の遊園地だった。
遠足で行った遊園地にはお化け屋敷自体がなかったので、お化け屋敷に限っていえば人生初挑戦、ということになる。
初めて足を踏み入れるそこは漫画やテレビで見た通り、ずいぶん古い様式の長方形のプレハブとなっていて、不気味に飾られた妖怪人形達の脇にこぢんまりとした入り口がある。
「はい、二名様ね。暗いので足元にお気をつけくださ〜い」
受付にはやる気がなさそうな係員のおじさんが一人、数取器――あのカチカチ押す銀色のやつだ――を片手に、僕たちを待ち構えていた。
この屋敷はどうやら自らの足で周るタイプらしい。あまり人気がないこの施設を好んで利用しようとする物好きは僕たちぐらいなもので、受付のおじさんがカチカチした手元のカウンターも、『十五』という寂しい数字を指したまま止まっていた。
すでに時刻は十八時を回っているというのに、僕らの他に十三人しかこの屋敷を利用していないのか……。
「じゃ、行こう」
「う、うん」
目の前にぶら下がる幽霊らしき人形を邪険に手でかき分ける僕とは打って変わって、ひどく怯えた表情でさりげなく僕の後ろに隠れるようについてくる紬。
「……」
「……っ!」
入り口にある暗幕を開けてすぐ、ヌウっと浮かび上がってきた生首に、彼女は瞬時に後退りながらも両手で口を押さえていた。
(怖いのか……)
挑発的に勝負を煽ってきた割に、どうやら彼女は幽霊系が苦手のようである。
心臓、止まらないだろうな……と不安に駆られつつも、彼女は健気に前に進もうとしているので、そのまま先を急ぐことにする。
係員の案内通り、屋敷の中は真っ暗だった。
足元の誘導灯を頼りに、そろりそろりと歩みを進める。
ところどころに仕掛けが施されており、突然ひんやりした風がうなじの辺りを掠めて恐怖心を煽られたかと思えば、お経らしきBGMが流れ出して右手側にあった井戸の中から髪の長い幽霊――巧妙に作られたマネキンである――がすうっと現れ、不気味な顔でニヤアと微笑まれたり。
時には仕掛け扉の開錠に挑戦させられ、その先に踏み込んだ途端、意表をつくように飛び出してきた血まみれの幼児――のマネキン――に肝を冷やされる、なんていう場面もあった。
「……」
「〜〜っ、……!」
それらの光景を死んだ魚のような目で見送る僕とは大違いに、紬はお化けが出てくるたびに涙目になりながら必死に悲鳴をこらえていた。
苦手なら無理に肝試しで勝負を挑んでこなければよかったのに、と思う反面、なんだかちょっと不憫に思えてきて、ここらで悲鳴の一つでもこぼして早めに勝負を終わらせてあげようかという同情も湧いたが、やはりその考えはすぐに打ち消した。
本人がここまで必死に頑張っているのに、そんなことをしたら逆に誠意に欠けるってものだろう。
余計なことを考えているうちに、今までほんのり灯っていた足元の誘導灯がふっと消え、一層あたりが薄暗くなった。もう見せ場は越えたように感じていたし、そろそろ出口の案内が見えてくる頃合いかもしれない。
「大丈夫?」
「う、うん。へいき」
僕の問いかけに、背後から返ってきた声はわずかに震えていた。
後ろを振り返ると、彼女は僕の洋服の裾を僅かに掴み、泣きそうな顔で目を瞑っている。
まるで平気には見えず、意地っ張りな彼女の強がりに思わず口元を緩めていると、ふいに彼女が足元の装置に躓いて転びかけた。
「……!」
あっと声をあげるより早く、反射的に彼女の腕を掴んで引き寄せる。
二人の距離がぐんと縮み、思いもよらず彼女を抱き止めたような形になっていて、心拍数が一気に跳ね上がった。
「ご、ごめん」
「いや……」
甘く、優しい香りが鼻先をふわりと掠める。
彼女の柔らかい吐息や体温を間近に感じ、全身に緊張が走った。
(ち、近い……)
自分から引き寄せておいてなんだが、近すぎるし目のやり場にも困る。
このままだと気恥ずかしさと緊張で僕の心臓が破裂しかねない状態だったので、一旦彼女から離れつつ、少し迷ったが、僕は思い切って彼女の手を取ることにした。
「気づかなくてごめん」
「……っ」
「転んだら危ないし、色、見えないと余計に危ないだろうから。いこ」
手を繋ぐとわかる。彼女の細っこい手はかなり震えていた。
気恥ずかしさは拭えないままだけれど、彼女がこんなに無理をしてまで恐怖を堪えていたのなら、もっと早くにこうしてあげればよかったとも思う。
そうして暗闇の中、僕たちは一度も声を発することなく手を繋いで前進する。
仕掛けのお化けが飛び出してくるたびに彼女は強く僕の手を握ってきたし、僕もつられるようにその手を握り返した。
緊張で汗ばむ中、左右が障子という長い廊下の先にようやく出口と思しき扉が見えてきて、僕はホッと胸を撫で下ろす。
たった十分程度の順路が、二十分にも三十分にも長く感じた。
「出口だ」
結局、紬の根性勝ちでどちらの口からも悲鳴は上がらず、勝負はつかないままだったなあなどとぼんやり考えながら僕がドアノブに触れた……その時のことだった。
「よか……ひっ」
一刻も早く外に出ようと、横から手を出してドアを押すのを手伝おうとしていた紬が、鼻から抜けるような小さな声をあげ、ものすごい勢いで僕に飛びついてきた。
「⁉︎」
僕は一瞬、何が起きたのか理解ができず固まる。
紬は僕の胸元にぎゅうっとしがみつき、華奢な肩を小刻みに震わせていた。
「え、いや、あの」
お化けや仕掛けには一切ノーリアクションだった僕だが、このハニートラップには狼狽えざるを得ない。
いったい何事だろうと思って、彼女が触れようとしていたドア部分に視線を向けると、そこにはカメムシのような少し大きめの虫が、ぺとりとこびりついていた。
「む、むし……」
「うん、虫だね」
「こっち見てる……」
「いや、暗いしどこに目があるのかわからないよ」
「襲ってくるかも」
「そこまで凶暴には見えないんだけど」
「逃げよう千隼くん」
「そっちに逃げたら入り口に逆戻りだよ」
「戦うしかないの……?」
「話し合いが通じる相手とも思えないんだけど……っていうか紬、虫、苦手なの?」
「……」
「苦手なんだね」
屈辱そうに僕の懐に顔を埋める紬。あれだけ必死に恐怖心と闘って悲鳴を我慢してきたというのに、まさかこんなところでボロを出してしまうだなんて、彼女らしいというかなんというか。
突然のハプニングに当惑しつつも、意地っ張りな彼女の隠しきれていない女子らしさに思わず吹き出してしまった。
「ただの虫だし、大丈夫だよ」
宥めるように震える彼女の背を撫でてあげると、紬は次第に落ち着きを取り戻すよう小さく頷いた。
僕はポケットから園内マップの紙を取り出し、くるくると丸めたそれで虫を追い払う。
虫が飛んでいく一瞬、紬は体を強張らせて僕にしがみつき、さりげなく僕を盾にしていた。
「……」
遠のいていく虫の羽音。音が聞こえなくなっても紬はしばらく、僕の上半身に抱きついたまま離れなかった。
かくいう僕も硬直したまま動けずにいて、高鳴る心音が聞こえてしまわないか、手にかいている冷や汗がバレてしまわないか。そんなことを考えながら、口の中がカラッカラになるほどドキドキしていた。
しばらくそのまま、無言で互いの体を抱きしめ合う僕たち。
なんだかこうしていると、何もかも――ここがお化け屋敷の中だという現実すら――忘れて、世界が二人きりになったような錯覚に陥る。
「……大丈夫?」
彼女があまりにも身動ぎしないものだから、疑問に思って彼女の顔を覗き込むと、紬はわずかに潤んだ瞳で僕を見上げた。
(え。ちょっと待て。こ、これは……)
ごくりと喉を鳴らす僕。どう見ても彼女は、何かを訴えるような眼差しで僕を見つめている。
視界に入る彼女の艶やかな唇。
いいのか? いいのだろうか? いやでも彼女の気持ちを確認したわけじゃないし……と、若干パニくりながらも思考停止して数秒。
やがて紬が、この甘い空気に身を委ねるようそっと瞳を閉ざした。
僕の全身に、煮えたぎるような熱い血が駆け巡っていく。
引き寄せられるように僕も瞳を閉じ、少しずつ、少しずつ、傾けた顔を彼女の方に近づけ……――。
『ゴ来場アリガトウゴザイマシタ。マタノオコシヲオ待チシテオリマス!!』
「う、うおあああああッッ」
――……ようとしたその瞬間、両側の障子がスパーンと勢いよく開き、中から機械的な笑い声を発するろくろ首が飛び出してきたため、不覚にも僕は、飛び退いて絶叫を上げるという人生最大級の大失態をぶちかましたのであった。