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 その日の夜――。自室にて、僕はとある一通のメールを開いた。
それは、かつて未読のまま放置し、中身を確認してからもずっと目を背け続けていた、某イラストコンテストの主催編集部からの案内メールだ。
 そこには、すでに締切が締まっている次期コンテストの概要や、現在も募集中の定期イラストコンテストへの参加を促す熱い文面が綴られていて、中身を確認した当初は単なる営業的なメールだと思って返信することなく放置を続けていた。
 しかし後になってよく読めば、入選作への選評などもさりげなく併記されていて、定型文なんかではなく純粋に僕個人に対して、新たな挑戦を促すような内容となっていたことを知らされた。
 まあ、それを把握したところで、結局リアクションできないまま今日に至ってしまったわけなのだけれど。
(もう、遅いよな……)
 機会損失だと認識しつつも、僕は担当者に向け、返信が遅くなったことへの謝罪と、トラウマから色を失っている現状を正直に綴り、それでも、イラストを描くことを諦めたくないと思ってる旨と、定期開催されているコンテストへ、しばらくはモノクロ絵での挑戦を考えているので、もし何かアドバイス等をして貰えるのであればお願いしたい旨を添えて、送信ボタンを押した。
(今さら都合良すぎるかもしれないし、このコンテストはデジタル画が必須条件だから、今の僕にきちんとした応募作品が用意できるかはわからないけれど……)
 どんな形でもいい。厚かましいやつと思われてもいい。
 頼れるものは頼って、やれるだけはやってみよう。
 紬との夢を叶えるためには、絶対に諦めるわけにはいかない。
 僕は呼吸を整えると、引き出しの奥からペンタブレットを取り出し、意を決してペイントアプリを起動した。