2.

 その日、彼女が『気分転換』兼『ネタ出し』として僕を案内した先は、病院のすぐ隣にある大きな図書館だった。
 普段は担当医の許可がないと自由に外出ができない彼女だが、この図書館だけは病院の真横ということもあり、看護師へ外出の申告さえしておけば特別に行き来しても良いことになっているのだとか。
 彼女いわく入院歴の長さと自分の本好きが高じた結果、ということらしいけれども、だいぶ手慣れた感じで病棟を出、患者しか知らないような裏道を通って図書館の入り口まで迷わずに歩みを進めていたので、割と頻繁に通っているんだろうなと、そんなことが手に取るように伝わってきた。
 ただ、道順はともかく、先ほどから彼女が妙に自分の身形を気にしてソワソワしている感じがして、僕は首を傾げる。
「何か気になる?」
「へっ? あ、いや。その……服、変じゃないかなって」
「服?」
「うん。急だったからこんな洋服しかなくて……」
 そう呟いて恥ずかしそうに俯く彼女は今、ダボついた緩めのロングカーディガンにすらっとしたデニムを穿いている。今時の女の子って感じのお洒落なコーディネイト。いつも病院着だから倍増しで可愛く見えるんだけど、もちろん僕にはそんな軽率なことが言えるはずもないので、先ほどからあえて私服姿については言及せず無言を貫いていた。
 だが、万一、それが相手にとっての不安要素となっていたのならば、早急に打ち消すしかない。
「いや、別に変じゃない」
「そっか。ならいいけど……」
「カーディガン、ダボダボだからサイズ合ってないのかなとは思ってるけど」
「これはこういう大きめのデザインなの」
 むすっとした彼女の顔、やっぱり可愛いしちょっと癖になる。
 少し頬が赤い彼女は、隣を歩く僕をどこかはにかんだような表情で見上げつつ、サラサラな髪の毛を靡かせて図書館の受付に入っていく。
 なんだかデートみたいだ――なんて、そんな都合の良いことを考えてしまう彼女いない歴十六年目の自分。浮かれた顔をしないよう必死に表情を引き締めながら彼女の後を追い、僕も遅れて図書館の中へ入った。