「お疲れ様です、結葵様」
「初さん、本日からよろしくお願いいたします」
ひらひら舞う。
蝶が、雪が。
「もっと愛想良く、初」
「うっ……」
蝶が舞うのは、夜の時間。
蝶が踊るのは、暗闇の中。
蝶が力を使うのは、良い子が眠りに就いた時刻。
紫純琥珀蝶を狩る力を持つ、字見初さんと来栖和奏さんのお仕事に同行させてもらえることになった。
「あの、結葵様……」
申し訳なさそうな表情を浮かべながら私に近づいてくる初さんだけれど、この場にいる来栖さんは筒路森が犯している罪を知らない。
私は謝罪の言葉を向けたいはずの初さんを制止させ、来栖さんに違和感を与えないように配慮しなければいけない。
「調査の結果、不備が見当たらなくて良かったですね」
「…………はい」
私の目を見ずに俯いてしまった初さんのことを気にかけてしまう。
でも、初さんは私よりも多くの経験を積まれているのだから、自分の心の整え方を熟知しているはず。
初さんがお一人で立ち直られることを信じて、私は置いてきぼりになってしまっている来栖さんとの会話を試みる。
「狩り人のみなさんが無事で何よりです」
大人の振る舞いというのは、まだまだとても難しい。
悠真様の年齢に近しい方なら、もっと上手く筒路森家に嫁ぐ人間として上手くやれるかもしれないのに。
その経験差を埋めるだけの年齢が私にはないから、悠真様の婚約者を装うのは何よりも難しいこと。
「結葵様、ごめんなさい」
来栖さんは私よりも遥か年下の女の子に見えるのに、とてもしっかりとしたところは見習いたい。
「何も起きていないのに、謝る必要はないですよ」
「初は、いつも結葵様に対して失礼だから」
「ちょっ、和奏! その言い方は酷くない!?」
「本当のこと」
お二人は兄妹ではないのに、初さんが来栖さんの明るいところすべてを持っていってしまったのではないかと思うほど。初さんの賑やかさに、悠真様は何度も救われているのだと思う。
「結葵様がいてくれるおかげで、少しは休みが取れやすくなる」
「うん、本当に感謝してます」
紫純琥珀蝶を狩る力を持つ方々は、この場にいるお二人だけではないと伺っている。
それなのに、私はほかの狩り人のみなさんに挨拶できない。
でも、それは仲間外れにされているという話ではなく、悠真様なりの気遣いなのかもしれない。
(私が、少しずつ世界に馴染んでいけるように……)
筒路森家が影で行っていることを考えると、信頼できる人の数が限られてしまうのもなんとなく分かる。
華族の婚約者になるための教育をほとんど受けることができなかった私でも、蝶の実験は多くの危険を持ったものだと勘づいてしまう。
「初は、ちょっと休み過ぎだから」
「わ~か~な~? 少しは敬ってほしいんだけど! こっちは、不眠不休で蝶の脅威を退いてるんだから!」
狩り人は、紫純琥珀蝶を狩る力を持つという繋がりを持つ同士。
そして私は、紫純琥珀蝶と言葉を交わす力を持つ。
共通に介するものがなければ、私たちは出会うことがなかった。
妹が筒路森家に嫁ぐという、両親が望んだ当初の計画が実現していたことになる。
「初にも、感謝してる」
「なっ! 棒読み! 結葵様、この狩り人に、何か言ってやってください!」
「あ、えっと……今日からよろしくお願いします?」
お堅い自分も、真面目な自分も、それなりに認めてくれる人はいると思う。
けれど、私たちは仲間でもあるから、会話を流すという高等な意思疎通も覚えていかないといけないと思った。
「結葵様、顔を上げて。私たちは対等。仲間」
「ま、和奏の言う通りかなー。結葵様は悠真くんの婚約者でもあるけど、狩り人の仲間に加わってくれたわけだから」
深々と下げた頭を、ゆっくりと上げる。
そこには、お二人が柔らかな笑みを浮かべながら私のことを受け入れてくれた。
「初さん、本日からよろしくお願いいたします」
ひらひら舞う。
蝶が、雪が。
「もっと愛想良く、初」
「うっ……」
蝶が舞うのは、夜の時間。
蝶が踊るのは、暗闇の中。
蝶が力を使うのは、良い子が眠りに就いた時刻。
紫純琥珀蝶を狩る力を持つ、字見初さんと来栖和奏さんのお仕事に同行させてもらえることになった。
「あの、結葵様……」
申し訳なさそうな表情を浮かべながら私に近づいてくる初さんだけれど、この場にいる来栖さんは筒路森が犯している罪を知らない。
私は謝罪の言葉を向けたいはずの初さんを制止させ、来栖さんに違和感を与えないように配慮しなければいけない。
「調査の結果、不備が見当たらなくて良かったですね」
「…………はい」
私の目を見ずに俯いてしまった初さんのことを気にかけてしまう。
でも、初さんは私よりも多くの経験を積まれているのだから、自分の心の整え方を熟知しているはず。
初さんがお一人で立ち直られることを信じて、私は置いてきぼりになってしまっている来栖さんとの会話を試みる。
「狩り人のみなさんが無事で何よりです」
大人の振る舞いというのは、まだまだとても難しい。
悠真様の年齢に近しい方なら、もっと上手く筒路森家に嫁ぐ人間として上手くやれるかもしれないのに。
その経験差を埋めるだけの年齢が私にはないから、悠真様の婚約者を装うのは何よりも難しいこと。
「結葵様、ごめんなさい」
来栖さんは私よりも遥か年下の女の子に見えるのに、とてもしっかりとしたところは見習いたい。
「何も起きていないのに、謝る必要はないですよ」
「初は、いつも結葵様に対して失礼だから」
「ちょっ、和奏! その言い方は酷くない!?」
「本当のこと」
お二人は兄妹ではないのに、初さんが来栖さんの明るいところすべてを持っていってしまったのではないかと思うほど。初さんの賑やかさに、悠真様は何度も救われているのだと思う。
「結葵様がいてくれるおかげで、少しは休みが取れやすくなる」
「うん、本当に感謝してます」
紫純琥珀蝶を狩る力を持つ方々は、この場にいるお二人だけではないと伺っている。
それなのに、私はほかの狩り人のみなさんに挨拶できない。
でも、それは仲間外れにされているという話ではなく、悠真様なりの気遣いなのかもしれない。
(私が、少しずつ世界に馴染んでいけるように……)
筒路森家が影で行っていることを考えると、信頼できる人の数が限られてしまうのもなんとなく分かる。
華族の婚約者になるための教育をほとんど受けることができなかった私でも、蝶の実験は多くの危険を持ったものだと勘づいてしまう。
「初は、ちょっと休み過ぎだから」
「わ~か~な~? 少しは敬ってほしいんだけど! こっちは、不眠不休で蝶の脅威を退いてるんだから!」
狩り人は、紫純琥珀蝶を狩る力を持つという繋がりを持つ同士。
そして私は、紫純琥珀蝶と言葉を交わす力を持つ。
共通に介するものがなければ、私たちは出会うことがなかった。
妹が筒路森家に嫁ぐという、両親が望んだ当初の計画が実現していたことになる。
「初にも、感謝してる」
「なっ! 棒読み! 結葵様、この狩り人に、何か言ってやってください!」
「あ、えっと……今日からよろしくお願いします?」
お堅い自分も、真面目な自分も、それなりに認めてくれる人はいると思う。
けれど、私たちは仲間でもあるから、会話を流すという高等な意思疎通も覚えていかないといけないと思った。
「結葵様、顔を上げて。私たちは対等。仲間」
「ま、和奏の言う通りかなー。結葵様は悠真くんの婚約者でもあるけど、狩り人の仲間に加わってくれたわけだから」
深々と下げた頭を、ゆっくりと上げる。
そこには、お二人が柔らかな笑みを浮かべながら私のことを受け入れてくれた。