「筒路森の婚約者の座だけでなく、美怜の記憶まで奪って……あなたはどれだけ私たちを苦しめたら気が済むの!」
血が上るように怒りをまき散らすのが辛かったのか、母は頭の痛みを抑えるように手を当てた。
もう、私のことは視界にすら入れてもらえない。
母の頭痛を気遣いたくても、それすらも拒まれてしまう。
「北白川様、それ以上の言葉は慎んでいただけますか」
「言わせてください! この子は、この子は、呪われた子なのです!」
母の罵声が続く。
お前がいなければ、もっと幸せだったのにと言われているような言葉に、心が痛むのを感じる。
自分がどれだけ努力をしても、自分がどれだけ筒路森からお金を得たとしても、私が愛されることは決してないのかもしれない。
「これはこれは、筒路森様!」
一瞬だけ、父の温かみある声が響いた。
また冷ややかな目を向けられるのだと思って振り向くと、父は私を視界にすら入れてくれなかった。
私の存在なんて始めからなかったと言わんばかりの態度を受け、冷たさが一気に屋敷の中へ広がるのを感じる。
「早く、早く、美怜を見ていただけますか」
悠真様や狩り人のみなさんと過ごす日々から、あまりにも多くの幸福を受け取りすぎた。
紫純琥珀蝶と言葉を交わすことができるというのは異様であるということを、すっかり忘れてしまいそうになっていた。
(蝶の言葉を聞けば、二人の役に立てるかも……)
悠真様は私を背後に据えてくれていたけど、私は敢えて一歩を踏み出した。
私は悠真様に守ってもらうことなく、両親の怒りを鎮めるために自ら動いた。
「お父様」
「私の娘は美怜だけだ。おまえは育ててやっただけに過ぎない」
無表情で語る父に恐怖を感じて唇をぎゅっと結んだけれど、このまま言葉を閉じ込めてしまったら私たちの関係は何も変わらない。
「聞いてください」
「そのときの恩を仇で返すつもりか!」
やけに、頬を叩く鋭い音が響き渡った。
「結葵っ」
音が響くような環境下ではないのに、耳を割くような不快さの音は異様に響き渡る。
「平気です、痛みには慣れていますから……」
「あなたが仕向けたの……?」
悠真様に手を引かれ、私は再び彼の後ろへと身を隠すようなかたちになる。
自分が出しゃばったせいで父に殴られることになってしまったけれど、私は後悔していないと悠真様にお伝えしたい。
(でも、今は、そのときではない)
伝えたい言葉あるのに伝えることができない、もどかしさを心にしまい込んだ。
「北白川様、これ以上は……」
「この子を躾けるのは、筒路森様のためでもあるのですよ!」
母の顔を窺うと、ああ、妹が記憶を失ってしまったのは現実なのだと察する。
母の絶望に満ちた表情に、心が痛む。
「この子が仕向けた以外に考えられないのです」
「北白川様、彼女を侮辱するような言い方はやめてもらいたい」
私を守るための言葉を強調するために、悠真様はゆっくりと私の両親に語りかける。
「筒路森様だって、気づいておられるでしょう!? この子がいなくなれば、世界は蝶の脅威に怯えることなく生きていけるのです!」
私が心を痛めている場合ではないと分かっているけれど、両親の悲痛な顔を見ているのは辛い。
「悠真様、私なら平気ですから……」
悠真様に守られてばかりの自分ではいられないと思い、私を庇うのはやめてほしいと伝えようとしたときのことだった。
「第二令嬢は、狩り人の保護下にありました」
妹を守ることができなかった私が罰を受けるのは当然のことなのに、私は悠真様の優しさに守られていく。
血が上るように怒りをまき散らすのが辛かったのか、母は頭の痛みを抑えるように手を当てた。
もう、私のことは視界にすら入れてもらえない。
母の頭痛を気遣いたくても、それすらも拒まれてしまう。
「北白川様、それ以上の言葉は慎んでいただけますか」
「言わせてください! この子は、この子は、呪われた子なのです!」
母の罵声が続く。
お前がいなければ、もっと幸せだったのにと言われているような言葉に、心が痛むのを感じる。
自分がどれだけ努力をしても、自分がどれだけ筒路森からお金を得たとしても、私が愛されることは決してないのかもしれない。
「これはこれは、筒路森様!」
一瞬だけ、父の温かみある声が響いた。
また冷ややかな目を向けられるのだと思って振り向くと、父は私を視界にすら入れてくれなかった。
私の存在なんて始めからなかったと言わんばかりの態度を受け、冷たさが一気に屋敷の中へ広がるのを感じる。
「早く、早く、美怜を見ていただけますか」
悠真様や狩り人のみなさんと過ごす日々から、あまりにも多くの幸福を受け取りすぎた。
紫純琥珀蝶と言葉を交わすことができるというのは異様であるということを、すっかり忘れてしまいそうになっていた。
(蝶の言葉を聞けば、二人の役に立てるかも……)
悠真様は私を背後に据えてくれていたけど、私は敢えて一歩を踏み出した。
私は悠真様に守ってもらうことなく、両親の怒りを鎮めるために自ら動いた。
「お父様」
「私の娘は美怜だけだ。おまえは育ててやっただけに過ぎない」
無表情で語る父に恐怖を感じて唇をぎゅっと結んだけれど、このまま言葉を閉じ込めてしまったら私たちの関係は何も変わらない。
「聞いてください」
「そのときの恩を仇で返すつもりか!」
やけに、頬を叩く鋭い音が響き渡った。
「結葵っ」
音が響くような環境下ではないのに、耳を割くような不快さの音は異様に響き渡る。
「平気です、痛みには慣れていますから……」
「あなたが仕向けたの……?」
悠真様に手を引かれ、私は再び彼の後ろへと身を隠すようなかたちになる。
自分が出しゃばったせいで父に殴られることになってしまったけれど、私は後悔していないと悠真様にお伝えしたい。
(でも、今は、そのときではない)
伝えたい言葉あるのに伝えることができない、もどかしさを心にしまい込んだ。
「北白川様、これ以上は……」
「この子を躾けるのは、筒路森様のためでもあるのですよ!」
母の顔を窺うと、ああ、妹が記憶を失ってしまったのは現実なのだと察する。
母の絶望に満ちた表情に、心が痛む。
「この子が仕向けた以外に考えられないのです」
「北白川様、彼女を侮辱するような言い方はやめてもらいたい」
私を守るための言葉を強調するために、悠真様はゆっくりと私の両親に語りかける。
「筒路森様だって、気づいておられるでしょう!? この子がいなくなれば、世界は蝶の脅威に怯えることなく生きていけるのです!」
私が心を痛めている場合ではないと分かっているけれど、両親の悲痛な顔を見ているのは辛い。
「悠真様、私なら平気ですから……」
悠真様に守られてばかりの自分ではいられないと思い、私を庇うのはやめてほしいと伝えようとしたときのことだった。
「第二令嬢は、狩り人の保護下にありました」
妹を守ることができなかった私が罰を受けるのは当然のことなのに、私は悠真様の優しさに守られていく。