「なんだ?」
 隆史がドアの方を見て、主水が飛び掛かろうとしたときだ。
 ドアが開き三四郎が主水にタックルした。
 主水が転がる。
「いででででで」
 のたうちまわる主水に、三四郎が向かっていく。
「まだ刺しちゃいねえよ」
 手には荷塗られたナイフがあった。
「お前」
 隆史が言うと、三四郎が振り向いた。
「まだやってねえのかよ。まさかお前、こいつの洗脳にかかってたんじゃねえだろうな」
 三四郎が笑いかけた。
 よく見ると、シャツに血飛沫の柄が新たに重ねられていた。
「なんだお前は」 
 主水が腹を抱えながら見上げた。
「こういうのはさ、勢いなんだよ……」
 三四郎は主水を無視して隆史に言った。
「お前、なにやったんだよ……」
「栗林稔……、あいつだけはぜってえに許さねえ。荒川昭二もと思ったけどさ、お前の妹がかわいそうだから、サービスしてやったわ。恩に着ろよ。さっき情が移っちゃったからさあ……」
 三四郎がへらへらと笑った。「このときを待っていたんだよ」
「なにやってんだよ……もういいじゃないかよ……高校の頃のことなんて……」
 隆史はわけがわからなかった。この状況を理解するのを頭が拒否してた。
「お前がいうか、それ。なあ、いちおうこの場を収めるいい方法があるんだけどさ」
 三四郎、隆史の銃を奪い、ズボンに差し込んだ。
「ヤフー知恵袋で調べたから、死なないとこ狙っとくから」
 三四郎が隆史の脇腹を隆史を刺した。
「え」
 隆史ががくりと膝を落とした。
「いててててっ!」
 それを見て、主水のほうが刺されてもないのに声をあげた
「主水、神は死んだんだろ? 授業でそういってたよな」
 三四郎が言った。
 主水が首を振った。なぜか頭からしたが動かない……。
「お前が聞いた声はさ、神じゃない」
 三四郎が主水に近づく。「あんたの世界にのっとっていわせてもらえば、ここは、地獄だ。そして地獄から逃げれたって、新しい地獄にいくだけだ。ざまあみろだ」
「なんなんだお前は……」
 主水が呻いた。
「隆史、お前は主役の器じゃない。でも、人間生きてる限り、お前の世界でお前は主役だ。それ以外は脇役だ。脇役の役目はな、主役を引き立たせることだ。面倒なことはその他大勢に任せておけ。だから、お前は、会いにいってこい」
 三四郎は言った。
 会う?
 誰に?
「美保に」
 三四郎が言った。
 三四郎は、俺の内面を読み取っている?
「ごめん、ダダ漏れだったわ。俺の入る隙間なんてないくらいに、お前は美保のことを考えていたよな」
「三四郎……ごめんな……本当に、ごめんな……」
 なんで謝っているのか、なぜこの言葉が口に出るのかわからず、隆史は言った。
「一緒に観たエヴァンゲリオンで一番好きな言葉なんだけど、言っていい? 身を捨ててこそ、浮かぶ瀬もあれ」
 三四郎は主水の首をつかんだ。
「先生? これ、使い方まちがってる?」
 三四郎の言葉を聞いているうちに、隆史はなにもみえなくなっていった。
「いてえよ、やめろ、やめろ、おい!」
 ばたん、とドアの閉まる音。三四郎が主水の首根っこをつかんで出ていったらしい。
 三四郎、やめろ、やめろ、やめろ。
 銃声がして、さまざまな悲鳴が聞こえた。