のどかな教室の風景だけれど、なにかが足りない気がする。
 なにひとつ問題なんてなかったはずだ。
 でも、欠けたピースがひとつあるような。
 隆史と稔、そしてあとから昭二が続いて教室に戻ってきた。
 よく、女はやたらつるむ、なんて言うけれど、男どもだってそうだ。一人でトイレに行けよ、って話。
「あれ、どうしたんだよ」
 隆史が紗江を見つけて言った。
「先輩、おはようございます」
 紗江が答える前に、森村が恐縮して挨拶した。まあ、彼女のお兄ちゃん、なわけだからそりゃそうか。
「ども」
 隆史のほうはとくに気にも留めていないみたいだ。なんというか、いつもと同じようにおっとりとしている。自分を主張しないタイプ。なんとなく個性というものがないように見えてしまう。もったいない、と思う。
 わりかし見た目だっていいほうなんだけれど、ガツガツしていない、というか。若者らしくない、というか。こういうタイプは十代の頃にはあんまりモテない。やっぱりどこか勢いのある感じの人がモテるのだ。
 小学校の頃によモテた、かけっこの早い子、とか中学のときにモテたサッカーのうまい子。みたいに、みなぎる自信を、隆史は表現していない。
「今日、おうちに伺わせていただきます」
 森村が言った。「あ、一緒にレポートするだけなんで」
「そうなんだ」
 隆史が頷いた。とくに興味もないらしい。
「お邪魔します」
「べつにいつもきてるじゃん」
 紗江が言った。
「だって、家でいきなりでくわすのもさ」
「そういうの気にするタイプじゃないから、ね」
 紗江が隆史を見た。
「おう」
 隆史も頷く。「それに清子ちゃんと弥生ちゃん、森村くると楽しそうだから、逆にあんがと」
「いえいえ、そんな」
 森村がぶんぶんと首を振ると、
「そうだよ。女ばっかりだし、森村くんくると安心じゃん」
 紗江が言った。
「俺……」
 隆史が自分を指さしても、紗江はまったく意に介さず、
「お兄ちゃん、辞書貸して」
 と言った。
「ああ、ロッカーに入ってるから……」
「休憩終わっちゃう、ダッシュ!」
 紗江が隆史の背中を押して急かした。
 隆史と紗江、森村去っていき、ドアのところで森村が残った面々に礼をした。
「すごいな」
 愛子が惚れ惚れとしながら呟いた。
「うん」
 かなみもまた、この光景にやられていた。
「少女漫画の実写化っていうか……」
 美保が冷静に言った。
 ガチで素敵すぎるカップル。
 なんか羨ましいとかっていう次元を超えて、天然記念物とか希少種を見ているみたいだ。