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 優しい子守歌が聞こえてくる。さっきまで揺りかごで泣いていた赤ん坊の目が、とろんと細くなっていく。四歳ほどの瑠衣は、母の膝の上に乗って、その様子を眺めていた。
「お母ちゃま。舞衣はかわいいねぇ」
「ふふふ。この可愛い舞衣を、お前がお姉ちゃんとして守ってあげるんだよ。でもね、瑠衣も可愛さでは負けていないから、安心をし」
 背後から母の腕に抱かれて、とても暖かい。瑠衣は母の顔を仰ぎ見た。
「本当に?」
「本当だとも。お前は成長したら美人になる。きりっ、とした目元で、女の子にも好かれる、かっこいい美人になるはずだよ」
「ふぅん……」
 母が香に火を点けて、美しい青磁の香炉へと置く。
 その姿を見ながら、幼い瑠衣は一生懸命に考える。かっこいいと美人は別物ではないのだろうか。
 しばらく頭を捻っているうちに、春の陽光のような香の匂いが部屋に行き渡り、瑠衣も眠くなってきてしまった。
「ねぇ、お母ちゃま」
 ふぁあ、と欠伸をしながら瑠衣はせがむ。
「わたしにも歌って」
「おやおや。眠たいのが瑠衣にうつってしまったかい?」
 うん、と瑠衣は柔らかな母の胸に頬を寄せて頷く。舞衣が眠るまでお利口にしていたのだ。今度は自分の番だ。
「お姉ちゃんになったというのに、瑠衣は甘えん坊さんだねぇ」
 くすくすと笑いながらも、母は瑠衣を布団の上に寝かし、自分もその隣に横になった。別の香を足しながら、子守歌を歌ってくれる。
 何度も何度も子守歌は繰り返され、そのうちに瑠衣は眠りにつき――