「これは……な、ぜ……」
ぐらりと視界が傾ぐ。
焼けつくような痛みが、胸の真ん中から全身へ向かって広がる。
熱い塊が喉にせり上がってきて、ごぽりと吐き出したものは、真っ赤な鮮血。
「どう……して……」
視界に映る景色が屋敷の塀から空へと変わり、どう、と大きな音を立てて、瑠衣は背中から地面に倒れた。
――この傷は致命傷だ。
漠然と考えるうちにも、身体からは大量の血が失われていき、命の灯火が消えていく。
「妖は人を騙す」
ぶん、と刀が振るわれ、飛んだ血が瑠衣の頬にかかった。
瞳だけを動かした瑠衣が認識できたのは、妖狩りであり、瑠衣の育ての親でもある政重が抜き身の刀を握っていること。
そして、己が斬られたこと。
瀕死の瑠衣を冷酷な表情で見下ろしながら、政重が告げる。
「瑠衣よ。そんな単純なことも忘れたのか?」
「それは……ちが……」
ごぽりと、再び吐き出した血が、瑠衣の反論の声を奪う。
「妖に魅入られおって。やはり、呪力のない者に果たせる役目ではなかったか」
とどめを刺さんと、切っ先が心の臓に突き付けられるのを見て、瑠衣は無言で両の瞳を閉じた。
(違う。彼は本当に……)
甘かった。説得できるなんて最初から無理だったのだ。
けれど、もうどうしようもない。身体がどんどん冷たくなっていくのを実感する。もう、指一本動かすこともできない。
せめてもの救いは、自分が原因で彼を殺さなくてすんだことか。
もはやこれまで。
静かにその時を待っていると、突如として屋敷の門が破られたような轟音が響いた。
「――瑠衣ーっ!」
「なに、貴様はっ!」
自分の名を呼ぶ声と、政重の驚いたような声。
(……え?)
力の入らない身体が乱暴に持ち上げられた。そんな馬鹿なと思いながらも、瑠衣は重い瞼を開ける。
「死ぬな! しっかりしろ!」
そこにいたのは、白い髪を持つ美しい青年の姿。自らが血に染まるのに構わず、瑠衣の身体を抱きかかえている。
(これは、夢?)
この屋敷は、彼にとっては危険な場所。
せっかく離れたというのに、どうして追いかけてきたのだろう。一緒に殺されてしまったら、自分の努力が無駄になってしまうではないか。
憤慨するも、助けにきてくれたという事実が嬉しくて、つい微笑んでしまう。
(もしも、生まれ変わることがあるのなら)
生贄でも何でもいい。己の全てを彼へ捧げるのだ。
もちろん、それは毒ではない。魂すら喰らえる極上の自分自身だ。
そして――彼の腕の中で、瑠衣はその短い生涯を閉じた。
ぐらりと視界が傾ぐ。
焼けつくような痛みが、胸の真ん中から全身へ向かって広がる。
熱い塊が喉にせり上がってきて、ごぽりと吐き出したものは、真っ赤な鮮血。
「どう……して……」
視界に映る景色が屋敷の塀から空へと変わり、どう、と大きな音を立てて、瑠衣は背中から地面に倒れた。
――この傷は致命傷だ。
漠然と考えるうちにも、身体からは大量の血が失われていき、命の灯火が消えていく。
「妖は人を騙す」
ぶん、と刀が振るわれ、飛んだ血が瑠衣の頬にかかった。
瞳だけを動かした瑠衣が認識できたのは、妖狩りであり、瑠衣の育ての親でもある政重が抜き身の刀を握っていること。
そして、己が斬られたこと。
瀕死の瑠衣を冷酷な表情で見下ろしながら、政重が告げる。
「瑠衣よ。そんな単純なことも忘れたのか?」
「それは……ちが……」
ごぽりと、再び吐き出した血が、瑠衣の反論の声を奪う。
「妖に魅入られおって。やはり、呪力のない者に果たせる役目ではなかったか」
とどめを刺さんと、切っ先が心の臓に突き付けられるのを見て、瑠衣は無言で両の瞳を閉じた。
(違う。彼は本当に……)
甘かった。説得できるなんて最初から無理だったのだ。
けれど、もうどうしようもない。身体がどんどん冷たくなっていくのを実感する。もう、指一本動かすこともできない。
せめてもの救いは、自分が原因で彼を殺さなくてすんだことか。
もはやこれまで。
静かにその時を待っていると、突如として屋敷の門が破られたような轟音が響いた。
「――瑠衣ーっ!」
「なに、貴様はっ!」
自分の名を呼ぶ声と、政重の驚いたような声。
(……え?)
力の入らない身体が乱暴に持ち上げられた。そんな馬鹿なと思いながらも、瑠衣は重い瞼を開ける。
「死ぬな! しっかりしろ!」
そこにいたのは、白い髪を持つ美しい青年の姿。自らが血に染まるのに構わず、瑠衣の身体を抱きかかえている。
(これは、夢?)
この屋敷は、彼にとっては危険な場所。
せっかく離れたというのに、どうして追いかけてきたのだろう。一緒に殺されてしまったら、自分の努力が無駄になってしまうではないか。
憤慨するも、助けにきてくれたという事実が嬉しくて、つい微笑んでしまう。
(もしも、生まれ変わることがあるのなら)
生贄でも何でもいい。己の全てを彼へ捧げるのだ。
もちろん、それは毒ではない。魂すら喰らえる極上の自分自身だ。
そして――彼の腕の中で、瑠衣はその短い生涯を閉じた。