露草は別に、絵が好きってわけでもなければ芸術がどうこうというタイプではない。


 それでも彼の思考はまったく読めず振り回される。


「知ってる? マレビトの秘密」


「知らないよ。マレビトは六月の梅雨――雨の日に現れるとか見た目が美しいとか」


 誰もが知っている、この学園では常識の類だ。

 
 でも何故今、それを。



 
 「――――」


 
 彼がなんて、言ったか思い出せない。


 雨音と夜の底に沈んだ月のような微笑。

 あの日の彼は、どこまでも昏く遠かった。――本当に何を想っていたのだろうか。