春の最果ては、マレビトの噂を運んでくる。


 静まり返った教室に響いたのは、美しい響きを孕んだ異質な言葉だった。


 この学園では、誰もが一度は耳にした事のある言葉でもある。前者は全く興味関心がないか、後者は《マレビト》に惹かれてしまった、《マレビト》か――どちらにせよ、春の最果ては、祭りのようなにぎやかしさがある。


 露草は机に頬杖をしたまま窓の外を見遣る。雨が降っているただそれだけの、いつもの日常風景。


 数少ない友人である唯一の、異性の友達。周りから“ふつうのイケメンだね”とよく言われている。本人は人の物差しなんて、どうでもいいようだが。


「今年の梅雨は“奇跡の梅雨”らしいな。天気予報のお姉さんも興奮気味に言ってたけどさ、本当かね――」


「……マレビトのこと?」


「この目で見たこともなければ、会ったことすらない相手の事なんて、俺は信じられないけどな。そういうお前はどうなの?」


 いつになく真剣な露草の紺碧の夜空のような美しい瞳に、吸い込まれそうになる。