桜の花びらが刹那にみせる可憐な踊り。最後の力を振り絞って宙を舞い地面に落ちていく。
行き先を間違えた花びらが自分の肩に落ちた。
それを指先でつまんで地面に落とせば、そこら辺に転がっているなんてことない石ころの上に乗った。
俺は、散り際まで美しい主人公のような桜には絶対になれない、そう思った。せいぜいなれたとしても今、桜の花びらを汚い地面に落とさまいと偶発的に支えることになったその辺の石ころだ。
別にそれでもいいと思っている。自分は、特別な人間ではない。
「新入生の皆さん、高校生になったからと浮かれずきちんと規則を守り、制服の着こなしも規則通りにお願いします」
俺は、特別どころの話ではなくなっていた。風紀委員という腕章を掲げ高校1年生を登校初日から取り締まるという鬼畜なことをやっていた。風紀委員長として、である。個人的にこんなことやっていたら頭のおかしいやつだろう。
今俺は全先輩の中で1番新入生に嫌われている自信があった。
今、職員室でふんぞり返っている先生に頼まれてというか押し付けられて嫌々仕事をしているということは分かってほしい。
「そこの君、第一ボタンは閉めるように」
「…うざ」
きこえてんだけど。
まあ、学年も違うし部活も入っていないし後輩と関わる機会なんてそんなにないだろう。うざい?いいもん別に2度と話さないし。
仁王立ちになり腕を組んだ。
女子高生2人組が文字通り浮かれた様子で門をくぐっていく。スカートが短いような気もするがまあ許容範囲だ。というか、指摘したらセクハラだなんだと言われそうで純粋にこわい。
「ねね、さっきのみた?やばかったね」
「ね、てか一緒の方向だったけどまさかここじゃないよね」
「いやないっしょ、さすがに」
「あれなんて言うんだっけ、うちのママがドラマとか漫画でみてたんだよね、ほらなんて言うんだっけ…」
「あー、私もここまで出てんだけど、あれだよね昔のヤンキーの名前」
喉を片手で数回叩きながら顔を顰める女子。
俺は聞き耳を立てながら再び門の方へ目を向けた。
風が少し強くなって、地面の花びらごと持ち上げていく。
校門をくぐっていく女子高生たちが軽くスカートを抑えてキャッキャと歩いていく中、1人の女が颯爽と門をくぐった。
そいつのスカートは巻き上がることはない、なぜかってなんかよく分からんがめっちゃ長いから。
「分かった!トクバンじゃね!」
後ろの方でそんな声がした。
いやちげえ。
「スケバンだろ」
正面からくる夢と思いたい光景をみながらそう呟いた。茶髪で前髪がトサカのように上がり、下に向かって伸びる髪は細かく波うっている。
そして制服は規定どころではない、セーラー服だ。うちブレザーなんだが。
その女はでかいサングラスをかけていた。
そして早歩きで俺の横を通り過ぎていく。
「いやまてまてまてまて」