――その街に着いたのは、朝の八時頃でした。

 これまで訪れたどの街とも違う、コンクリート製の四角い建物が建ち並ぶ、無機質な雰囲気の街でした。

 駅を降りたリリアとポックルは目いっぱい首を反らし、そびえ立つ高い建物を見上げます。

「すっごい大きいね……これ、家なの?」
「たぶん仕事場なんじゃないかな。居住区はもう少し奥にあるみたいだから」

 リリアの問いに、クロルがガイドブックを開きながらそう答えます。物珍しそうに辺りを見回すリリアに対し、ポックルは目を細めながら、

「これのどこが『おれの気に入る街』ニャんだ? スズメの一匹もいニャいじゃニャいか」

 と、不満そうに言います。

 ちょうどその時、駅の前にある二階建ての建物から、一人の男性が出てきました。
 黒い短髪にバンダナ、重厚感のあるブーツ。長身の身体は分厚い筋肉で覆われています。
 そして、その肩に……黒く光る銃器を背負っていました。

 彼は建物のドアの鍵を閉めると、こちらに気付いた様子で近付いてきます。

「やぁ、お客さん! 有翼人がこの街へ来るなんて珍しいなぁ。ようこそ。見学かい?」

 物々しい出で立ちとは対照的に、親しげな雰囲気で声をかけてくれました。
 その笑顔に、リリアは少しほっとして、

「こんにちは。クレイダーに乗ってきました。ここはどんな街なの?」

 すると男性は、「よくぞ聞いてくれた」と言わんばかりにニカッと笑い、言いました。

「ここは――"サバイバーの街"だよ」



 男性はこれから街の重要施設に行くと言うので、一緒に連れて行ってもらうことにしました。
 歩きながら男性は、この街の決まりについて話します。
 
 この街では、月・火・木・金曜日は仕事をしたり学校に行ったりと、普通の生活を送ります。
 しかし、水・土・日曜日はお店も会社も学校も全てお休み。
 代わりに、街の四分の一程の面積を占めるゲームエリアで、サバイバルトーナメントをおこなうのだそうです。
 男性の言うトーナメントのルールは、次のようなものでした。

・参加資格は十一歳以上であるということのみ。基本的には個人で戦う。
・開催時間は朝九時から夕方五時まで(十二時から十三時のお昼休憩を除く)。
・フィールドは三種類あり、曜日ごとに決められたエリアでバトルをする。
・勝敗はポイント制で決める。毎月初めに参加者一人ひとりに百ポイントが付与される。他の参加者を倒すと、相手の保有ポイントの五割を奪うことができる(小数点以下切り捨て)。
・武器は銃かナイフ(但し本物ではなく、弾はプラスチック製でナイフもゴム製)。撃たれたり切られたりして一度でも命中の判定が出ると、その日のゲームからは退場。保有ポイントが十以下になると、その月のトーナメントに参加できなくなる。
・その月の最終保有ポイントが最も高かった者が優勝。賞金などは特になし。但し、年内に三回以上優勝をすると、トーナメントに任意の新ルールを一つ追加できる。
 

「――つまり、よりポイントの高い強い相手を倒せば高得点が狙える、ということですね」

 男性の説明を聞き、クロルが言います。

「お、察しがいいな少年! そうなんだよ。だから月末になるにつれ、高得点の猛者ばかりが残っていくんだ」

 今日は第四水曜日。まさに猛者たちが集う月末のゲームがおこなわれる日です。
 男性も今から参加するとのことで、一街の南側に位置するゲームエリアに向かっていました。

「申し遅れたな。俺はイサカ。いちおう先月のMVP選手だ」
「僕はクロルです。こっちはリリアと猫のポックル……って、イサカさんMVPなんですか?」

 クロルは驚いて聞き返しますが、リリアはMVPの意味がわからず、首を傾げます。
 クロルがすかさず「優勝者ってこと」と説明すると、途端にリリアも「すごーっ!」と目を輝かせました。

「ハッハッハ! まぁ、先月勝てたのはマグレだ。この街には"絶対王者"がいてな。そいつは今年既に二回優勝していて、新ルール追加の特権にリーチをかけている。今月は今の所、アイツに点数で負けているんだが……今日のバトルで一発キメられたらなぁ」

 と、イサカさんが腕を組んで唸ります。
 それにクロルが、珍しく興味有り気な様子で、

「その人、そんなに強いんですか? イサカさんが背負っているのはマシンガンだけど、その人はどんな武器を使ってくるんですか? 戦略は?」

 と、矢継ぎ早に質問します。
 彼が何かに強い興味を示す姿を初めて見たので、リリアは少し驚きました。
 イサカさんはまた「ハッハ!」と笑って、

「アイツが好んで使うのは、スナイパーライフルだ。音もなく背後を取られて、いつの間にか撃たれている。空に目がついてるんじゃねぇかってくらい、敵がどこにいるか把握しているんだ。そして、一発心中の腕前……百メートル離れた距離からも確実に仕留めてくる。奴の射程に入ったが最後、気が付いたらやられているってワケだ」
「なるほど……ということは、その人は高台に陣取ることが多いのですか?」
「それがそうとも限らないんだ。アイツはモッサモサのギリースーツに身を包んで、草むらに身を潜めてじっと獲物を待つこともある。つまり、環境に合わせて身を潜めながら狙ってくるんだ。曜日によってフィールドが変わるから、山林エリアの時はより注意だな。ちなみに今日は廃村エリア。擬態はあまりできない場所だし、勝負するとしたら今日なんだ」

 リリアには何が何だかさっぱりでしたが、クロルは納得したように頷いています。
 そしてふと、リリアは思ったのです。

「クロル……ひょっとして、参加したいの?」