「響先輩。こだわりを捨てたらどうですか?」
「こだわり?」
「年上とか年下とか関係ないですよ。成人している女の人すべてが高校生をガキ扱いしているわけではないです」
どんなに響への愛情を叫んでも、響からの愛情は一欠片ほども自分へは向けてもらえないのかと、常識枠は越えさせてもらえないのかと、己の本音に蓋をしてもがき苦しむのはもうたくさんだ。
見えない鎖が見えてくる。いや、その鎖は最初から見えていたのかもしれない。
卓登が響の座るブランコの前に立つ。
そしてブランコを吊るす二本の鎖で響を挟み込み、縛りつけて、敏腕に調教できないものかと、なんとしてでも響を説得できないものかと、卓登の漆黒の瞳がネックレスの宝石以上に闇夜で不気味に光りだす。
「響先輩だって今は未成年でも、いつかは成人するんです。俺だっていつかは成人します」
それを聞いた響は納得したように頷き、自分自身にも言い聞かせる。
「そうだな。そうだよな。今はガキでもいつかは自立できるよな。ていうか自立しないとだよな」
「ついでに、性別のこだわりも捨ててみませんか?」
「性別?」
卓登から意味不明なことを言われた響は頭の中に疑問符を浮かべると、卓登の顔を不思議そうに見つめた。
卓登の口調は穏やかではあるが、どことなく冷酷な雰囲気も醸し出していた。
「俺、響先輩と同じ高校を受験して合格しました。春から響先輩と同じ高校に通うんです」
「そうなのか!? 早く言えよ! お祝いしよーぜ!」
どうやら響は喜びを体全体で表現したい性質らしい。
卓登に再会したときと同じようにブランコから立ち上がろうとした響だが、今回は卓登が目の前に立ちはだかっているためにその表現は不可能だ。
この後に、卓登が発言する愛情表現だけが突き進んでいく。
「響先輩。好きです」
あれは、いつだっただろうか?
「響先輩、さっき言いましたよね。愛がある行為は格別で、その人の愛を自分だけに向けたいと思うって。だからその人を抱いてみたいと思うんだって。そう言いましたよね」
今の今まで、すっかり忘れていた。
「俺が抱きたいと思う相手は響先輩です。もちろん体だけの欲ではなく、心も満たされる行為を響先輩としたいです」
学校帰りに一度だけ、
卓登は響に雪の降るなか、
この公園で──、
「それでも、俺が響先輩と同じ高校に入学することをお祝いしてくれますか?」
──愛の告白をしていた。
あの時は、そういう意味だとは思わなかった。
あの時も、そういう意味で言いました。
『響先輩。高校受験お疲れ様でした。合格おめでとうございます』
『サンキュ』
『響先輩が卒業すると寂しくなります』
『なんだあ? 卓登はオレのことが大好きなのか?』
『はい。大好きです』
『うん。オレも卓登のことが大好きだ』
本気にするなよ。
いいえ、本気にします。
冗談の「大好き」だとは思わないのか?
いいえ、思いません。
本当にオレと同じ高校に入学してくるのか?
はい。貴方の傍にいたいから、貴方をどこまでも追い求めます。
恋を失い、新しい恋が忍び寄る影のようにやって来る。
公園の片隅には、飲み捨てられた名前のわからない砕けた空き瓶の破片が発狂したかのように散乱している。
その散りばめられた硝子の破片が、卓登と響の姿を鏡のように映し出して鋭く睨んでいた。
「こだわり?」
「年上とか年下とか関係ないですよ。成人している女の人すべてが高校生をガキ扱いしているわけではないです」
どんなに響への愛情を叫んでも、響からの愛情は一欠片ほども自分へは向けてもらえないのかと、常識枠は越えさせてもらえないのかと、己の本音に蓋をしてもがき苦しむのはもうたくさんだ。
見えない鎖が見えてくる。いや、その鎖は最初から見えていたのかもしれない。
卓登が響の座るブランコの前に立つ。
そしてブランコを吊るす二本の鎖で響を挟み込み、縛りつけて、敏腕に調教できないものかと、なんとしてでも響を説得できないものかと、卓登の漆黒の瞳がネックレスの宝石以上に闇夜で不気味に光りだす。
「響先輩だって今は未成年でも、いつかは成人するんです。俺だっていつかは成人します」
それを聞いた響は納得したように頷き、自分自身にも言い聞かせる。
「そうだな。そうだよな。今はガキでもいつかは自立できるよな。ていうか自立しないとだよな」
「ついでに、性別のこだわりも捨ててみませんか?」
「性別?」
卓登から意味不明なことを言われた響は頭の中に疑問符を浮かべると、卓登の顔を不思議そうに見つめた。
卓登の口調は穏やかではあるが、どことなく冷酷な雰囲気も醸し出していた。
「俺、響先輩と同じ高校を受験して合格しました。春から響先輩と同じ高校に通うんです」
「そうなのか!? 早く言えよ! お祝いしよーぜ!」
どうやら響は喜びを体全体で表現したい性質らしい。
卓登に再会したときと同じようにブランコから立ち上がろうとした響だが、今回は卓登が目の前に立ちはだかっているためにその表現は不可能だ。
この後に、卓登が発言する愛情表現だけが突き進んでいく。
「響先輩。好きです」
あれは、いつだっただろうか?
「響先輩、さっき言いましたよね。愛がある行為は格別で、その人の愛を自分だけに向けたいと思うって。だからその人を抱いてみたいと思うんだって。そう言いましたよね」
今の今まで、すっかり忘れていた。
「俺が抱きたいと思う相手は響先輩です。もちろん体だけの欲ではなく、心も満たされる行為を響先輩としたいです」
学校帰りに一度だけ、
卓登は響に雪の降るなか、
この公園で──、
「それでも、俺が響先輩と同じ高校に入学することをお祝いしてくれますか?」
──愛の告白をしていた。
あの時は、そういう意味だとは思わなかった。
あの時も、そういう意味で言いました。
『響先輩。高校受験お疲れ様でした。合格おめでとうございます』
『サンキュ』
『響先輩が卒業すると寂しくなります』
『なんだあ? 卓登はオレのことが大好きなのか?』
『はい。大好きです』
『うん。オレも卓登のことが大好きだ』
本気にするなよ。
いいえ、本気にします。
冗談の「大好き」だとは思わないのか?
いいえ、思いません。
本当にオレと同じ高校に入学してくるのか?
はい。貴方の傍にいたいから、貴方をどこまでも追い求めます。
恋を失い、新しい恋が忍び寄る影のようにやって来る。
公園の片隅には、飲み捨てられた名前のわからない砕けた空き瓶の破片が発狂したかのように散乱している。
その散りばめられた硝子の破片が、卓登と響の姿を鏡のように映し出して鋭く睨んでいた。