眠れない。
 今、何時だろうか?
 まあ、どうでもいいや。そんなことは。
 卓登のすぐ隣では愛する年上の恋人が卓登の肩に顔をすり寄せて、かすかに聞こえる寝息とメトロノームのように規則正しいリズムをとりながら熟睡している。
 響を腕枕している卓登は響の重なり合った右足と左足の間に自分自身の足をすべり込ませると、それを(つた)のようにして絡ませた。
 なんて幸せなんだろう。
 泣きたくなるほど幸福すぎて少しばかりお腹が空いてきた卓登は甘いクロカンブッシュを摘まみ食いしたくなったが、響が起きるまで我慢する。
 ほんの数時間前の一連の出来事に実感が湧かなすぎて、卓登が響の睫毛に軽く触れたら、くすぐったかったのか響は身動(みじろ)ぎをして卓登の体に腕を巻きつけてきた。
 それでも響の瞼は閉じられたままの状態で起きる気配がまったく感じられず、響はそのまま卓登を抱き枕のようにして眠り続ける。
 卓登は響の耳朶を執拗に舐めまわし、とろけるような甘い吐息を吹きかけていく。
 響が頬ずりをしながら卓登へとすり寄ってきて、寝息から甘美な色香を漂わせて煽ってくる響に卓登はうっとりと見惚れてしまう。
 そして性欲を活性化させる卑猥な寝言を聞いてしまい、響はいったいどんな夢を見ているのだろうかと卓登の全身が熱く紅潮していく。
 夢の中ではなく、直接本人に言ってくれはしないのかと、卓登はこの後、寝起きの響に拗ねた態度をしてしまわないようにと心がける。
 布団を少しだけめくり、響の無防備になっている股間を見つめているだけでも卓登の情欲は抑制するのが困難極まりないものとなる。
 目尻をたるませて口元をほころばし、響の柔らかい頭髪に鼻先を埋めると、卓登は淫らに煮えたぎる妄想と戦いながら穏やかな笑みをこぼす。
 そうして卓登は響が風邪をひいてしまわないように響に布団を被せると、自らも一緒になって布団を被った。

 今こそ叫ぼう。
 岸辺卓登の最愛の人は、笹沼響ただ一人なのだということを──。