卓登の手が響の手に触れたいとしつこく訴えてきて騒いでいる。
響はその騒がしい訴えに応じて卓登の指を三本ほど軽く掴んだ。ただそれだけ。響の手はそれ以上は動かずに停止した。もちろんこんなのを『手を繋ぐ』とは表現しない。
ここで手を繋ぐのはそんなに無理難題なことなのだろうかと、まだキスすらもしたことのないような響の純情な態度に卓登はポーカーフェイスを装いながらも激しくイラだつ。
今すぐその迷いを完全に捨て去って、その恥じらう純心など跡形もなく取っ払って、指三本だけそっと触れるのではなく、常識の枠に囚われずに、もっともっと大胆不敵に近づいてきてほしい。
「俺はこういう繋ぎ方が良いです」
「卓登……ッ!」
響の五本の指の間すべてに卓登の五本の指が素早く通る。
一本一本交互に絡まれた十本の指に動揺した響は瞳に穴が空くほど大きく見開いた。
学食では響自ら卓登に触れたいと要望してきた。
だから卓登も響のお望みどおり自ら行動してそのままの気持ちを正直に言葉と態度で示した。
卓登と響は世間的に顔が広く知れ渡っている有名な芸能人というわけではない。ただの一般人にすぎないのだから、自分が思うほど世間の人たちはそこまで他人に興味を持ってはいないと、注目してなどはいないということを教えてあげましょう。
「響先輩、そんなに心配しなくても大丈夫ですよ。こうやって上手く隠しますので」
卓登が響の手を強引に引っ張って自分自身の腰と響の腰をくっつける。
その後ろに回されたのは、ほぼ強制的に強く繋がれた男二人の手の存在。
けれども微妙な隙間から見えてしまっているのと、前からはともかく後ろからは丸見えで完璧に隠しきれていないことくらい卓登にも充分すぎるほどわかっている。わかりたくなくても、今、響の手が怯えているのもわかっている。
それでも卓登は響と繋がれたこの手を死んでも離したくはないと、家に到着するまで待てないと切望する。
だから卓登は今だけ年下である特権を最大限に利用して、わざと子供っぽく拗ねながら涙声で「響先輩、お願いします……」と、おねだりするようにして言ってみる。
そんな穢れのない純真無垢な言葉とは裏腹に、卓登は響の手が己の手に従うように荒っぽく躾をする。
そうすれば、ほら、
「……バスが来るまでだからな」
と言って、どこまでも卓登に弱くて甘い、卓登に飼い慣らされた響は心の中いっぱいに不安感を詰め込みながらも卓登の計算通りに動いてしまう素直で可愛い人なのだ。
「はい。ありがとうございます」
だから卓登も可愛く返事をする。
響と同じで自分も純情なんだよと思わせる。永遠に思わせとくために精一杯に演技をする。
バスが来るまでの三十分間、こうして響と手を繋いでいられることに卓登は歓喜する。
卓登にまんまと騙されてくれた響の手は汗ばみ、ふるえている。
バスが来るのを待っている間、卓登と響の目の前を何台もの自動車、何人もの通行人たちが行き交った。そのたびに響は挙動不審になりながら雨で濡れた地面に視線を落とす。
雨粒に吸収されたアスファルトから「この意気地なしが!」と、罵倒されているような気がして響は悔しく思った。
それはおそらく、卓登が目を伏せたりはせずに堂々とした立ち振る舞いで顔を上げているからであろう。
卓登はただ真正面だけをじっと見つめている。
その視線の先にいるのが自分ではないことに突然悲しく思えた響は目を伏せるのをやめて顔を上げると、隣に立つ卓登の横顔をおそるおそる見つめた。
卓登の頬全体に響の儚げで繊細な視線がぶつかる。
響は卓登も自分のほうを向いてくれるのを待っていたが、無情にもその瞬間が訪れることはなかった。
卓登の瞳は響の瞳を捕らえてはくれなかったけれど、繋がれた手だけは響を捕らえ続けていた。響と卓登の血液が混ざり合うほどに、骨が粉々に砕けてしまうほどに強く握られた卓登の指は響の指が離れることを、響がこの場所から逃げ出そうとすることをけっして許さなかった。
卓登は響の視線に気がついていたが、あえて気がついていない素振りをしていた。
それは卓登の視線と響の視線が合わさった瞬間、卓登は響にキスするつもりでいたからだ。
それでも構わないと響が言うのであれば、卓登は響と瞳を合わせると決めている。
そんな情熱的な視線を送る響が悪いのだと、卓登は響を調教し、無言に脅し続ける。
響の心を威圧的に操りながらも、指と指の口づけだけで我慢してあげた卓登の心にはわずかながらではあるが理性が残されていた。
響はその騒がしい訴えに応じて卓登の指を三本ほど軽く掴んだ。ただそれだけ。響の手はそれ以上は動かずに停止した。もちろんこんなのを『手を繋ぐ』とは表現しない。
ここで手を繋ぐのはそんなに無理難題なことなのだろうかと、まだキスすらもしたことのないような響の純情な態度に卓登はポーカーフェイスを装いながらも激しくイラだつ。
今すぐその迷いを完全に捨て去って、その恥じらう純心など跡形もなく取っ払って、指三本だけそっと触れるのではなく、常識の枠に囚われずに、もっともっと大胆不敵に近づいてきてほしい。
「俺はこういう繋ぎ方が良いです」
「卓登……ッ!」
響の五本の指の間すべてに卓登の五本の指が素早く通る。
一本一本交互に絡まれた十本の指に動揺した響は瞳に穴が空くほど大きく見開いた。
学食では響自ら卓登に触れたいと要望してきた。
だから卓登も響のお望みどおり自ら行動してそのままの気持ちを正直に言葉と態度で示した。
卓登と響は世間的に顔が広く知れ渡っている有名な芸能人というわけではない。ただの一般人にすぎないのだから、自分が思うほど世間の人たちはそこまで他人に興味を持ってはいないと、注目してなどはいないということを教えてあげましょう。
「響先輩、そんなに心配しなくても大丈夫ですよ。こうやって上手く隠しますので」
卓登が響の手を強引に引っ張って自分自身の腰と響の腰をくっつける。
その後ろに回されたのは、ほぼ強制的に強く繋がれた男二人の手の存在。
けれども微妙な隙間から見えてしまっているのと、前からはともかく後ろからは丸見えで完璧に隠しきれていないことくらい卓登にも充分すぎるほどわかっている。わかりたくなくても、今、響の手が怯えているのもわかっている。
それでも卓登は響と繋がれたこの手を死んでも離したくはないと、家に到着するまで待てないと切望する。
だから卓登は今だけ年下である特権を最大限に利用して、わざと子供っぽく拗ねながら涙声で「響先輩、お願いします……」と、おねだりするようにして言ってみる。
そんな穢れのない純真無垢な言葉とは裏腹に、卓登は響の手が己の手に従うように荒っぽく躾をする。
そうすれば、ほら、
「……バスが来るまでだからな」
と言って、どこまでも卓登に弱くて甘い、卓登に飼い慣らされた響は心の中いっぱいに不安感を詰め込みながらも卓登の計算通りに動いてしまう素直で可愛い人なのだ。
「はい。ありがとうございます」
だから卓登も可愛く返事をする。
響と同じで自分も純情なんだよと思わせる。永遠に思わせとくために精一杯に演技をする。
バスが来るまでの三十分間、こうして響と手を繋いでいられることに卓登は歓喜する。
卓登にまんまと騙されてくれた響の手は汗ばみ、ふるえている。
バスが来るのを待っている間、卓登と響の目の前を何台もの自動車、何人もの通行人たちが行き交った。そのたびに響は挙動不審になりながら雨で濡れた地面に視線を落とす。
雨粒に吸収されたアスファルトから「この意気地なしが!」と、罵倒されているような気がして響は悔しく思った。
それはおそらく、卓登が目を伏せたりはせずに堂々とした立ち振る舞いで顔を上げているからであろう。
卓登はただ真正面だけをじっと見つめている。
その視線の先にいるのが自分ではないことに突然悲しく思えた響は目を伏せるのをやめて顔を上げると、隣に立つ卓登の横顔をおそるおそる見つめた。
卓登の頬全体に響の儚げで繊細な視線がぶつかる。
響は卓登も自分のほうを向いてくれるのを待っていたが、無情にもその瞬間が訪れることはなかった。
卓登の瞳は響の瞳を捕らえてはくれなかったけれど、繋がれた手だけは響を捕らえ続けていた。響と卓登の血液が混ざり合うほどに、骨が粉々に砕けてしまうほどに強く握られた卓登の指は響の指が離れることを、響がこの場所から逃げ出そうとすることをけっして許さなかった。
卓登は響の視線に気がついていたが、あえて気がついていない素振りをしていた。
それは卓登の視線と響の視線が合わさった瞬間、卓登は響にキスするつもりでいたからだ。
それでも構わないと響が言うのであれば、卓登は響と瞳を合わせると決めている。
そんな情熱的な視線を送る響が悪いのだと、卓登は響を調教し、無言に脅し続ける。
響の心を威圧的に操りながらも、指と指の口づけだけで我慢してあげた卓登の心にはわずかながらではあるが理性が残されていた。