卓登と響はどこにも立ち寄らずに、再会したあの馴染み深い公園にいた。
響はすべり台の天辺まで上り、すっかり辺り一面が暗くなってしまった星空を背景にして、そこから卓登をまっすぐに見下ろしている。
「卓登って本当にオレのことが大好きなんだなあ」
卓登を茶化しながらも、響は卓登があの場所に来てくれたことに歓喜している。
「そうですよ。大好きですよ。だから響先輩がいつも俺だけに夢中になってくれないと不安になります」
それは響も同じだった。
卓登の気持ちが常に自分のほうに向いていないと不安感と嫉妬心でどうしようもなくなって、胸の奥が激しく痛み、そのまま鉛のような重たい物で押し潰されそうになるのだ。
卓登がなんの迷いもなく、臆面もなくそう告げてきてくれたことに響は有頂天になった。自然と響の目尻がたるみ、口角はだらしなくゆるむ。
「響先輩、あの日のことを説明します。あの日は……」
「いや良いよ。何か理由があったんだろ」
懸命に誤解を解こうとする卓登に響は首をゆっくりと左右に振った。
「つーかさ、なんで卓登はオレが合コンに参加しているって知ってたわけ?」
すべり台から下りて、響は興味津々とばかりに卓登に詰め寄った。
響はあの洒落た飲食店で合コンに参加することは誰にも話してはいない。
「芹澤さんからの情報です」
卓登の表情が段々と無垢な幼い子供みたいになる。
響が卓登の住むマンションを飛び出して行った日、卓登は響の後は追わずに嶺邇から指定された場所まで出向くと、邑夢と嶺邇が邑夢をイジメていた女子生徒数名と喧嘩している真っ最中だった。
それも口喧嘩ではなく、お互いを汚い言葉で罵りあいながらの取っ組み合う大喧嘩だ。
卓登が到着すると、女同士で繰り広げられる陰湿な揉め事の間に割って入り喧嘩を止めた。
邑夢をイジメていた女子生徒数名は卓登の顔を見た途端、瞬時に顔面蒼白させた。
『今度、芹澤さんをイジメたりしたら許さない。もう二度と芹澤さんに近づくな』
卓登の冷酷な鋭い睨みと、物怖じしないに威圧的な口振りに怯んだ女子生徒数名は一目散に逃げ出した。
卓登は響に洗いざらい話した。
「芹澤さんは俺のクラスメイトで、バイト仲間で、友達です。篠塚さんも大切な友達です。困っている芹澤さんと篠塚さんをほっとくことができませんでした」
響はうつむいて自分の唇を噛み締めた。
疑心暗鬼になり、卓登の優しさを責めることしか頭になかった己の不甲斐なさに嫌気が差しているのだ。
邑夢をイジメていた女子生徒数名を追い払い、悲痛な表情を浮かべる卓登に邑夢は、
『やられっぱなしじゃ悔しいからね』
と強がりを言って、朗らかに笑った。
『たっくん、来てくれてありがとね。レニーもありがと』
感謝の言葉を述べる邑夢に対して、嶺邇の顔はみるみるうちに険しくなり、憤りの感情を露わにして邑夢へとぶつける。
『邑夢のバカッ! なんでも一人で抱え込んで無茶苦茶なんだから! もっとあたしを頼ってよ!』
泣きじゃくりながら怒鳴る嶺邇を見て、邑夢の瞳が戸惑いで揺れ動く。
『篠塚さんの言うとおりだよ。つらい時はいつでも俺や篠塚さんに相談して良いからね。芹澤さんは一人じゃないよ』
卓登からも優しく励まされると、感激した邑夢はか細い声で『うん』と言って小さく頷いた。
ずっと我慢していた感情が堰を切ったようにあふれでてきて、安心した邑夢は卓登と嶺邇の目の前で大粒の涙を滝のように流しながらワンワンと泣いた。
邑夢のことは解決したが、その代償として響との仲がこじれてしまい卓登は苦悩していた。
しかし苦悩しているのは卓登だけではなかった。
卓登は普段と同じように振る舞っているつもりらしいが、邑夢は卓登がいつもと様子が違うことに勘づいており、どことなく寂しそうにしている卓登のことを心配していた。
卓登本人から直接聞いたわけではないので、その原因が響であるのかどうかはわからないのだが、早くいつもの卓登に戻ってほしいと思っていたそんな矢先、邑夢が街中をブラブラと歩いていると合コンに参加している響を目撃したのだ。
邑夢から、
「さっき、たっくんがとーっても慕っている先輩を見かけたよお。あれはどう見ても合コンじゃないのかなあ?」
という、卓登の心を深くえぐるような内容を伝えられたとき、卓登は一瞬、頭の中が真っ白になり何も考えられなくなってしまった。
もちろん邑夢は悪意があって卓登にそんなふうに伝えたわけではなくて、自分が偶然見た光景をちょっとした世間話のつもりで、そのまま正直に卓登に伝えただけのことだ。
「それを芹澤さんから聞いたときはパニックになってしまって、居てもたってもいられなくなってしまい、絶対に響先輩のことを失いたくはなくて、何がなんでも響先輩を取り戻したくて、みっともなく足掻くことしかできなくて……。響先輩を困らせてしまい、すみませんでした……」
自嘲気味に話す卓登に反して、響の心は幸福感に満たされていくのと同時に卓登からの熱烈な愛情を少しでも疑ってしまった浅はかな己を叱咤した。
何気なく夜空を仰ぎ見ると、卓登と響が無事に仲直りしたことを祝福してくれているのか、暗雲の隙間から明るい満月と星が顔を覗かせる。それはまるで楽しく遊戯しているかのようにきらめいていた。
響はすべり台の天辺まで上り、すっかり辺り一面が暗くなってしまった星空を背景にして、そこから卓登をまっすぐに見下ろしている。
「卓登って本当にオレのことが大好きなんだなあ」
卓登を茶化しながらも、響は卓登があの場所に来てくれたことに歓喜している。
「そうですよ。大好きですよ。だから響先輩がいつも俺だけに夢中になってくれないと不安になります」
それは響も同じだった。
卓登の気持ちが常に自分のほうに向いていないと不安感と嫉妬心でどうしようもなくなって、胸の奥が激しく痛み、そのまま鉛のような重たい物で押し潰されそうになるのだ。
卓登がなんの迷いもなく、臆面もなくそう告げてきてくれたことに響は有頂天になった。自然と響の目尻がたるみ、口角はだらしなくゆるむ。
「響先輩、あの日のことを説明します。あの日は……」
「いや良いよ。何か理由があったんだろ」
懸命に誤解を解こうとする卓登に響は首をゆっくりと左右に振った。
「つーかさ、なんで卓登はオレが合コンに参加しているって知ってたわけ?」
すべり台から下りて、響は興味津々とばかりに卓登に詰め寄った。
響はあの洒落た飲食店で合コンに参加することは誰にも話してはいない。
「芹澤さんからの情報です」
卓登の表情が段々と無垢な幼い子供みたいになる。
響が卓登の住むマンションを飛び出して行った日、卓登は響の後は追わずに嶺邇から指定された場所まで出向くと、邑夢と嶺邇が邑夢をイジメていた女子生徒数名と喧嘩している真っ最中だった。
それも口喧嘩ではなく、お互いを汚い言葉で罵りあいながらの取っ組み合う大喧嘩だ。
卓登が到着すると、女同士で繰り広げられる陰湿な揉め事の間に割って入り喧嘩を止めた。
邑夢をイジメていた女子生徒数名は卓登の顔を見た途端、瞬時に顔面蒼白させた。
『今度、芹澤さんをイジメたりしたら許さない。もう二度と芹澤さんに近づくな』
卓登の冷酷な鋭い睨みと、物怖じしないに威圧的な口振りに怯んだ女子生徒数名は一目散に逃げ出した。
卓登は響に洗いざらい話した。
「芹澤さんは俺のクラスメイトで、バイト仲間で、友達です。篠塚さんも大切な友達です。困っている芹澤さんと篠塚さんをほっとくことができませんでした」
響はうつむいて自分の唇を噛み締めた。
疑心暗鬼になり、卓登の優しさを責めることしか頭になかった己の不甲斐なさに嫌気が差しているのだ。
邑夢をイジメていた女子生徒数名を追い払い、悲痛な表情を浮かべる卓登に邑夢は、
『やられっぱなしじゃ悔しいからね』
と強がりを言って、朗らかに笑った。
『たっくん、来てくれてありがとね。レニーもありがと』
感謝の言葉を述べる邑夢に対して、嶺邇の顔はみるみるうちに険しくなり、憤りの感情を露わにして邑夢へとぶつける。
『邑夢のバカッ! なんでも一人で抱え込んで無茶苦茶なんだから! もっとあたしを頼ってよ!』
泣きじゃくりながら怒鳴る嶺邇を見て、邑夢の瞳が戸惑いで揺れ動く。
『篠塚さんの言うとおりだよ。つらい時はいつでも俺や篠塚さんに相談して良いからね。芹澤さんは一人じゃないよ』
卓登からも優しく励まされると、感激した邑夢はか細い声で『うん』と言って小さく頷いた。
ずっと我慢していた感情が堰を切ったようにあふれでてきて、安心した邑夢は卓登と嶺邇の目の前で大粒の涙を滝のように流しながらワンワンと泣いた。
邑夢のことは解決したが、その代償として響との仲がこじれてしまい卓登は苦悩していた。
しかし苦悩しているのは卓登だけではなかった。
卓登は普段と同じように振る舞っているつもりらしいが、邑夢は卓登がいつもと様子が違うことに勘づいており、どことなく寂しそうにしている卓登のことを心配していた。
卓登本人から直接聞いたわけではないので、その原因が響であるのかどうかはわからないのだが、早くいつもの卓登に戻ってほしいと思っていたそんな矢先、邑夢が街中をブラブラと歩いていると合コンに参加している響を目撃したのだ。
邑夢から、
「さっき、たっくんがとーっても慕っている先輩を見かけたよお。あれはどう見ても合コンじゃないのかなあ?」
という、卓登の心を深くえぐるような内容を伝えられたとき、卓登は一瞬、頭の中が真っ白になり何も考えられなくなってしまった。
もちろん邑夢は悪意があって卓登にそんなふうに伝えたわけではなくて、自分が偶然見た光景をちょっとした世間話のつもりで、そのまま正直に卓登に伝えただけのことだ。
「それを芹澤さんから聞いたときはパニックになってしまって、居てもたってもいられなくなってしまい、絶対に響先輩のことを失いたくはなくて、何がなんでも響先輩を取り戻したくて、みっともなく足掻くことしかできなくて……。響先輩を困らせてしまい、すみませんでした……」
自嘲気味に話す卓登に反して、響の心は幸福感に満たされていくのと同時に卓登からの熱烈な愛情を少しでも疑ってしまった浅はかな己を叱咤した。
何気なく夜空を仰ぎ見ると、卓登と響が無事に仲直りしたことを祝福してくれているのか、暗雲の隙間から明るい満月と星が顔を覗かせる。それはまるで楽しく遊戯しているかのようにきらめいていた。