卓登と響は同じ高校に通ってはいるが、クラスメイトではないため一緒にいられる時間が少ない。
 それで響は週に二、三回ほど同年代の友達ではなく、恋人である卓登と一緒にお昼休みを過ごすようにしてくれた。
 これは卓登から響にお願いしたわけではなく、響から卓登に持ちかけた提案であり、それを聞いた卓登は感激して即座に賛同した。
 卓登のアルバイト先であるお店は、実は埜亜のお気に入りのお店であることがわかり、響は埜亜と一緒によく来店してきた。
 響は卓登の前では埜亜の付き添いと言ってはいるが、実は卓登と頻繁に会える口実が作れたことに内心大喜びしていた。
 卓登の執事のようなタキシード姿に響はうっとりと見惚れてしまい、思わず腰砕け状態となるが、なんとか卒倒しまいと踏ん張った。
 学校でも職場でも、卓登に好意を寄せる女の人はたくさんいた。
 そのほとんどの女子が卓登とプライベートでも親しくなりたいといった個人的な恋情を含めたもので、響は仕事であると頭ではわかっていても、卓登が女性客と笑顔で会話している光景を見るたびに不愉快になった。
 もちろん、常にそんな嫉妬心丸出しでいることを卓登には絶対に悟られまいとして、響は平静な態度を装いながらも日に日に膨らみ続ける独占欲の塊を押し殺し、醜い己の姿を必死に押し隠した。

「響先輩がご迷惑でなければ、俺も響先輩のバイト先にお邪魔しても良いですか?」
 お昼休み、学食で響と一緒に昼食をとっているとき、卓登は響にそう訊いた。
 響がそうであるように、卓登もバイトしている響の姿に興味津々なのだ。
「ああ、良いよ。そんときはサービスするよ」
 満面の笑顔で即答する響を見て卓登は嬉しくなった。
 学年が違うことから、卓登と響の教室の場所は離れている。
 昼食後、教室に戻る前に卓登は一つの約束事を響と交わしたくなった。
「響先輩、今日も両親は仕事で家に帰ってきません。豪と祭鶴もいません。もし良かったら家に泊まりに来ませんか?」
 卓登が響の顔色をうかがいながら遠慮がちにたずねてくる。
 この卓登からの誘いの本当の意味は「この間の続きをしませんか?」と言っているのだと瞬時に理解した響は、迷うことなく頷くと同時にあの夜と同じく火傷したかのように全身を熱くさせた。

「じゃあ、また放課後な」と笑いながら言って卓登に軽く手を振り、卓登と別方向へと歩き出した響の顔は朱色に染まり火照っていた。
 卓登に背中を向けて歩いていても、響の心は離れていく卓登のことをどこまでも強く追い求めていた。
 お昼休みだけでは全然足りない。もっと卓登と一緒にいたい。四六時中、卓登には自分のことだけを考えていてほしいと望む響は寂しい心を埋めたいとばかりに、卓登とキスしたときの唇の感触や、抱き合ったときの温もりを鮮明に思い出そうとする。
 響はここまで卓登中心の生活になってきている現状に呆れ果てる反面、そんな自分自身がどことなく誇らしく思えてもいた。