外装からも異様な雰囲気を醸し出していたが、内装はさらに奇怪なものだった。
壁紙も売られている商品も、どれもこれもチカチカしていて瞳に優しくないものばかりだ。
こんなお店に立ち寄る人なんているのかと疑問に思った響は首をかしげたが、意外と繁盛しているのか店内はそれなりに混雑していた。
響は浮気調査を依頼された探偵みたいになって卓登を探したが、店内のどこにも卓登の姿が見当たらない。
冷静になってよくよく考えてみると、卓登が自ら進んでこんな派手なお店に出向くとは思えない。
卓登がこのお店に入ったのは何かの見間違いだったのだと、響は無理矢理、自分自身に言い聞かせて、どう考えても場違いなこの場所からそそくさと退散しようとする。
「響先輩?」
突然、声をかけられて響は硬直した。
ここで振り向いたとして、卓登とどんな顔をして向き合えばいいのかわからない。
しかしそれは卓登も同じらしく、響がこの場所にいることに大層驚いている様子だ。
「どうしたんですか? こんな所で何をしているんですか?」
それはこっちの台詞だ。という言葉を響は卓登に言いたかったのだが、いざこうして卓登を目の前にすると喉を詰まらせてしまい何も言えなくなってしまった。
「あっれえ~。たっくんの知り合い?」
卓登の背後から邑夢が姿を現した。
明るい笑顔を振り撒きながら響に挨拶をする邑夢に対して、響は嫌悪感しか持てず愛想良く会釈する気分にもなれない。
そしてそんな邑夢から卓登は『たっくん』なんて呼ばれているのかと響は唖然とした。
たとえば幼児が『たっくん』と呼んだり呼ばれたりするのはまだ理解できるしほほ笑ましいと思えるが、高校生相手に『たっくん』だなんて痛々しいだけだろと、響は嘲笑する反面どこか悔しさを滲ませた渋い表情になる。
やはり、ここは何も見なかったことにして素通りしておけば良かったのかもしれないと響は思ったが、あのまま家に帰宅したとしても、結局は卓登と邑夢のことを延々と気にしてしまうであろうことは明確だ。
「芹澤さん、ちょっとごめん。少し外に出ても良いかな。すぐに戻るから。詳しい話はまた後で」
卓登が邑夢にそう言うと、邑夢は両手をブンブン大きく振るだけではなく卓登に投げキッスまでしてきた。
それを見た響は胸中だけで嫌味を連発した。
お店の外に出るなり、響は卓登に突っかかるようにして問いつめた。
「たっくんって、なんだよ?」
「え?」
なるべく落ち着いた態度で話したいと思ってはいても、怒りを押し殺すことができそうにはない響の声が低くふるえる。
面白くない。そんな感情が響の心の中で暴れまわっており、それは今すぐにでも噴火してしまいそうだった。
卓登は響からの質問を頭の中で反芻し、響の真意を探ろうとする。
「あの子から、たっくんって呼ばれてんのかよ」
卓登に本音を読み取られそうで、響は極力、卓登の顔を見ないようにしている。
そして無意識のうちに早口になる。
「たっくんって呼ぶくらいだから、卓登のことを昔から知っている幼馴染みとか? そうじゃないなら、たっくんとか呼ぶのおかしいだろ」
響は自分でもなんて身勝手なことを言っているんだろうという自覚はあった。
だけど止まらない。止められない。
卓登と邑夢の関係を疑いの目で見ていたことはまぎれもない事実であり、響の心の中に慟哭と焦燥感が住み着いて拭いきれないのだ。
「卓登、もしかして、あの女のことが好きなのか?」
これだけは絶対に訊いてはいけないことだと思っていたのに、実際、響が一番気にしていることを卓登に訊いてしまった。
言ってしまった直後、響はあわてて自分自身の口を掌で押さえたが、一度発してしまった言葉を取り消すなんてことは不可能なので、そんな行動は無意味ですでに手遅れだ。
「それ以上、詮索されると色々と勘違いしてしまうんですけど」
卓登の真横を十代の女子数名がはしゃぎながら通る。
そして卓登と目が合うと頬を赤く染めて、なにやらヒソヒソと囁きあっている。
卓登はそんな女子たちを興味無さそうに一瞥するだけだが、響には冷徹な視線を送る。
「期待はするな。と言ったのは響先輩です。それを取り消してくれるんですか?」
卓登の顔が響の顔のすぐ間近にまで迫ってくる。
この美しい男は近づいてはいけない危険な生き物なのだから、絶対に隙を見せてはならない。
今すぐ逃げなくてはと響の頭の中では何度もうるさく警報が鳴っているのに、足が鉛のように重く感じてここから一歩も動けない。
「それに今のは聞き流すことができません。響先輩は俺の好きな人を知っているはずです。それなのにそんな質問を俺にぶつけてくるなんて、案外、平気な顔をして残酷なことをするんですね」
穏やかな口調ではあるが卓登の瞳は恐ろしく凍てついており、響を睨みつけるようにして鋭く光る。
響の背筋に冷や汗が流れ落ち、おまけに鳥肌までも浮き出てくる。呼吸は乱れて整えようにもコントロールがきかない。
「響先輩のほうこそ俺からの誘いを断ったくせに、こうして俺に会いにきてくれたんですか?」
「ちがっ……ッ! 偶然、卓登を見かけたから、それで……」
「それで? 俺のことなんかそのまま無視してくれても構わないのに、わざわざご親切にお店の中にまで入ってきてくれたんですか?」
咄嗟に否定してみたところで、どれもこれも卓登に言いくるめられてしまう。
なぜ、ここにいる理由を卓登に伝えられないのだろうかと響は下手な言い訳ばかりしている卑怯で弱虫な自分にうんざりしていた。
壁紙も売られている商品も、どれもこれもチカチカしていて瞳に優しくないものばかりだ。
こんなお店に立ち寄る人なんているのかと疑問に思った響は首をかしげたが、意外と繁盛しているのか店内はそれなりに混雑していた。
響は浮気調査を依頼された探偵みたいになって卓登を探したが、店内のどこにも卓登の姿が見当たらない。
冷静になってよくよく考えてみると、卓登が自ら進んでこんな派手なお店に出向くとは思えない。
卓登がこのお店に入ったのは何かの見間違いだったのだと、響は無理矢理、自分自身に言い聞かせて、どう考えても場違いなこの場所からそそくさと退散しようとする。
「響先輩?」
突然、声をかけられて響は硬直した。
ここで振り向いたとして、卓登とどんな顔をして向き合えばいいのかわからない。
しかしそれは卓登も同じらしく、響がこの場所にいることに大層驚いている様子だ。
「どうしたんですか? こんな所で何をしているんですか?」
それはこっちの台詞だ。という言葉を響は卓登に言いたかったのだが、いざこうして卓登を目の前にすると喉を詰まらせてしまい何も言えなくなってしまった。
「あっれえ~。たっくんの知り合い?」
卓登の背後から邑夢が姿を現した。
明るい笑顔を振り撒きながら響に挨拶をする邑夢に対して、響は嫌悪感しか持てず愛想良く会釈する気分にもなれない。
そしてそんな邑夢から卓登は『たっくん』なんて呼ばれているのかと響は唖然とした。
たとえば幼児が『たっくん』と呼んだり呼ばれたりするのはまだ理解できるしほほ笑ましいと思えるが、高校生相手に『たっくん』だなんて痛々しいだけだろと、響は嘲笑する反面どこか悔しさを滲ませた渋い表情になる。
やはり、ここは何も見なかったことにして素通りしておけば良かったのかもしれないと響は思ったが、あのまま家に帰宅したとしても、結局は卓登と邑夢のことを延々と気にしてしまうであろうことは明確だ。
「芹澤さん、ちょっとごめん。少し外に出ても良いかな。すぐに戻るから。詳しい話はまた後で」
卓登が邑夢にそう言うと、邑夢は両手をブンブン大きく振るだけではなく卓登に投げキッスまでしてきた。
それを見た響は胸中だけで嫌味を連発した。
お店の外に出るなり、響は卓登に突っかかるようにして問いつめた。
「たっくんって、なんだよ?」
「え?」
なるべく落ち着いた態度で話したいと思ってはいても、怒りを押し殺すことができそうにはない響の声が低くふるえる。
面白くない。そんな感情が響の心の中で暴れまわっており、それは今すぐにでも噴火してしまいそうだった。
卓登は響からの質問を頭の中で反芻し、響の真意を探ろうとする。
「あの子から、たっくんって呼ばれてんのかよ」
卓登に本音を読み取られそうで、響は極力、卓登の顔を見ないようにしている。
そして無意識のうちに早口になる。
「たっくんって呼ぶくらいだから、卓登のことを昔から知っている幼馴染みとか? そうじゃないなら、たっくんとか呼ぶのおかしいだろ」
響は自分でもなんて身勝手なことを言っているんだろうという自覚はあった。
だけど止まらない。止められない。
卓登と邑夢の関係を疑いの目で見ていたことはまぎれもない事実であり、響の心の中に慟哭と焦燥感が住み着いて拭いきれないのだ。
「卓登、もしかして、あの女のことが好きなのか?」
これだけは絶対に訊いてはいけないことだと思っていたのに、実際、響が一番気にしていることを卓登に訊いてしまった。
言ってしまった直後、響はあわてて自分自身の口を掌で押さえたが、一度発してしまった言葉を取り消すなんてことは不可能なので、そんな行動は無意味ですでに手遅れだ。
「それ以上、詮索されると色々と勘違いしてしまうんですけど」
卓登の真横を十代の女子数名がはしゃぎながら通る。
そして卓登と目が合うと頬を赤く染めて、なにやらヒソヒソと囁きあっている。
卓登はそんな女子たちを興味無さそうに一瞥するだけだが、響には冷徹な視線を送る。
「期待はするな。と言ったのは響先輩です。それを取り消してくれるんですか?」
卓登の顔が響の顔のすぐ間近にまで迫ってくる。
この美しい男は近づいてはいけない危険な生き物なのだから、絶対に隙を見せてはならない。
今すぐ逃げなくてはと響の頭の中では何度もうるさく警報が鳴っているのに、足が鉛のように重く感じてここから一歩も動けない。
「それに今のは聞き流すことができません。響先輩は俺の好きな人を知っているはずです。それなのにそんな質問を俺にぶつけてくるなんて、案外、平気な顔をして残酷なことをするんですね」
穏やかな口調ではあるが卓登の瞳は恐ろしく凍てついており、響を睨みつけるようにして鋭く光る。
響の背筋に冷や汗が流れ落ち、おまけに鳥肌までも浮き出てくる。呼吸は乱れて整えようにもコントロールがきかない。
「響先輩のほうこそ俺からの誘いを断ったくせに、こうして俺に会いにきてくれたんですか?」
「ちがっ……ッ! 偶然、卓登を見かけたから、それで……」
「それで? 俺のことなんかそのまま無視してくれても構わないのに、わざわざご親切にお店の中にまで入ってきてくれたんですか?」
咄嗟に否定してみたところで、どれもこれも卓登に言いくるめられてしまう。
なぜ、ここにいる理由を卓登に伝えられないのだろうかと響は下手な言い訳ばかりしている卑怯で弱虫な自分にうんざりしていた。