カラオケに入り、最初は各々マイクを手に持ち順番に歌を歌っていたのだが、次第に歌うことをやめて談笑に花を咲かせはじめる。
響と埜亜が注文したジャンボパフェは胃もたれを起こしそうなほどのかなりのボリュームで、半分は食べたがもう半分は残したままの状態だ。
惺嗣は埜亜とじゃれあい、梢はその光景を静かにほほ笑みながら見守っている。
響は一人、部屋を出て階段の所に立っていた。
何度か響の目の前を同年代らしき人が通る。
それは大勢の友達で来ていたり、恋人同士で来ていたりと様々だ。
響は今、なんとなく部屋に戻る気分にはなれないでいた。
惺嗣、埜亜、梢と一緒にいる時間はもちろんとても楽しいのだが、今の響は卓登のことを気にしてばかりいる。
卓登のことが頭から離れない。
響は最近、〝もしも〟といった例え話をよく考えるようになっていた。
先輩後輩ではなく〝もしも〟卓登と恋人として付き合うことになったとしたならば。
〝もしも〟卓登と手を繋いで歩き、卓登とキスをしたならば。
〝もしも〟卓登の両腕に抱かれて、卓登と体を一つに繋げたとしたならば。
そこまで考えて、響は頭を左右に振ると声を出さずに苦笑する。
自分はいったい何を想像しているんだ。
卓登を恋愛対象として見るなんてことは絶対にありえない。
だけど卓登が誰か自分の知らないほかの女と関係を持つところも想像したくないと、響はどこか複雑な心境だった。
そして、まだ見たこともない見知らぬ女の存在に激しい嫉妬心を向けている己を認めてしまうのも怖かった。
響は何気なくスマートフォンの画面を見た。
響は卓登からの誘いを断ったことに、どこかしら後悔に似たようなものを感じていた。
今からでも卓登に連絡をして、一緒にご飯を食べようかと誘ってみようか。
しかし期待はするなと言った手前、響からは卓登にそこまで積極的になれないでいた。
それでも響は埋め合わせをしたいと思っていた。
これまで、響と卓登は個人的な約束をして、計画をたててどこかに遊びに行くということが一度もなかった。
学校帰りに公園で他愛のないお喋りをしたり、コンビニに立ち寄り、歩きながら飲み食いするといった、即席な談話の空間を作っていただけだった。
そういえば、卓登は同年代の友達らしき人物と話しているところを見たことがないなと、響はふいにそんなことが気になった。
もしかしたら、孤独感をまぎらわしたいがために年上の先輩である響に懐いているだけで、それを恋愛感情だと錯覚しているだけなのでは──?
響はそうだったら良いなと思う反面、もし本当にそうだったとしたのなら無性に悲しく、虚しいような気もした。
足元に視線を落として、自分は卓登とどんな関係を望んでいるのだろうかと響は考えた。
二年間、疎遠になっていたときは平気だったのに、今、再び同じ二年間という歳月を卓登と疎遠になったらと思うと、響は非常に寂しくもある。おそらくは激しい虚無感に押し潰されてしまうであろう。
卓登との微妙な関係が壊れてしまうことを響は望んでおらず、卓登を失いたくはないと強く思っていた。
響は出口の見えない心の回廊をまるで迷路のようにさ迷っていた。
自分自身の感情が段々とわからなくなってくる。
卓登と恋人同士になったとして、到達する場所はいったいどこにあるのだろうかと響は考える。
探ってみようとしても、濃く深い靄に覆われていて、どれも頭の中でぼやけては消えていく。
響はもう恋愛をするのは懲り懲りだと思っているわけではない。
今はしばらく恋愛をする気力が湧いてこないだけであり、この先、日々の生活の中で人間が当然のように睡眠や食欲を欲求するのと同じで、自然に誰かに惹かれる日が訪れるであろう。
その相手が卓登になる可能性はあるのか? と問われたら、響は頷くことも否定することもできないでいる。
カラオケから出ると、若者であふれ返っていた繁華街は仕事帰りらしき社会人も増えて昼間よりも賑わっていた。
その顔触れは疲れきっていたり、飲みに行こうと陽気だったりと多種多様だ。
「この後どうする?」
惺嗣がスマートフォンで現在時刻を確認する。
夕方の六時はまだまだ遊べる時間帯だ。
帰ろうか、それともファーストフードやファミレスで軽食でもしようかと思案していたところ、響は卓登と見知らぬ少女が道路の反対側を歩いているところを目撃した。
遠くからでははっきりとわかりにくいが、卓登と一緒に並んで歩いている少女は奇抜的な髪型とファッションではあるものの、どこか垢抜けていてかなりの美少女だ。
当然、これだけ離れていれば何を話しているのかはまったく聞き取れないが、何やら非常に親しそうだ。
想像していたことが現実となって響の心に重たくのしかかってくる。心臓が締めつけられているみたいにズキズキと痛む。
極力、響はみんなから怪しまれないようにして平静を装うも、先程から鼓動は不規則なリズムを奏でている。
響の胃の底からは不愉快な感情が容赦なく込み上げてくる。
急に地面がグラリと揺れたような気がして、地震かなと思った響は周囲を見回したが、ほかのみんなは揺れを感じている素振りなどまったくなかった。
これは地震ではなく、響が立ちくらみを起こしたからだった。
響の頭の中では得体の知れない何者かがうるさく吠え続けており、それは今にも爆発しそうな勢いだった。
誰も動揺しているであろう響の様子には気がつかない。
卓登と美少女が入って行ったお店に響は釘付けになった。
「みんな悪い。オレ、ちょっと急用を思い出した」
あきらかに嘘だとわかる言葉を言った後、響はその場所に友人たちを残して走り去る。
響の姿はあっという間に雑踏の中にまぎれ込んでしまい、そのまま隠されてしまった。
響は卓登と美少女が入って行ったお店の外装に面食らった。
卓登の性格からして、こんなメルヘンチックなお店と卓登はどう考えても似つかわしくはない。
響は入店することに躊躇してしまい、何食わぬ顔でお店の前を素通りした。
しかし卓登とその美少女の関係をどうしても知りたいという感情のほうがはるかに勝っている。
響は急いで方向転換して、再びお店の前まで足を運んだ。
そして一つ深呼吸をすると、響は思い切って店内へと踏み込んだ。
響と埜亜が注文したジャンボパフェは胃もたれを起こしそうなほどのかなりのボリュームで、半分は食べたがもう半分は残したままの状態だ。
惺嗣は埜亜とじゃれあい、梢はその光景を静かにほほ笑みながら見守っている。
響は一人、部屋を出て階段の所に立っていた。
何度か響の目の前を同年代らしき人が通る。
それは大勢の友達で来ていたり、恋人同士で来ていたりと様々だ。
響は今、なんとなく部屋に戻る気分にはなれないでいた。
惺嗣、埜亜、梢と一緒にいる時間はもちろんとても楽しいのだが、今の響は卓登のことを気にしてばかりいる。
卓登のことが頭から離れない。
響は最近、〝もしも〟といった例え話をよく考えるようになっていた。
先輩後輩ではなく〝もしも〟卓登と恋人として付き合うことになったとしたならば。
〝もしも〟卓登と手を繋いで歩き、卓登とキスをしたならば。
〝もしも〟卓登の両腕に抱かれて、卓登と体を一つに繋げたとしたならば。
そこまで考えて、響は頭を左右に振ると声を出さずに苦笑する。
自分はいったい何を想像しているんだ。
卓登を恋愛対象として見るなんてことは絶対にありえない。
だけど卓登が誰か自分の知らないほかの女と関係を持つところも想像したくないと、響はどこか複雑な心境だった。
そして、まだ見たこともない見知らぬ女の存在に激しい嫉妬心を向けている己を認めてしまうのも怖かった。
響は何気なくスマートフォンの画面を見た。
響は卓登からの誘いを断ったことに、どこかしら後悔に似たようなものを感じていた。
今からでも卓登に連絡をして、一緒にご飯を食べようかと誘ってみようか。
しかし期待はするなと言った手前、響からは卓登にそこまで積極的になれないでいた。
それでも響は埋め合わせをしたいと思っていた。
これまで、響と卓登は個人的な約束をして、計画をたててどこかに遊びに行くということが一度もなかった。
学校帰りに公園で他愛のないお喋りをしたり、コンビニに立ち寄り、歩きながら飲み食いするといった、即席な談話の空間を作っていただけだった。
そういえば、卓登は同年代の友達らしき人物と話しているところを見たことがないなと、響はふいにそんなことが気になった。
もしかしたら、孤独感をまぎらわしたいがために年上の先輩である響に懐いているだけで、それを恋愛感情だと錯覚しているだけなのでは──?
響はそうだったら良いなと思う反面、もし本当にそうだったとしたのなら無性に悲しく、虚しいような気もした。
足元に視線を落として、自分は卓登とどんな関係を望んでいるのだろうかと響は考えた。
二年間、疎遠になっていたときは平気だったのに、今、再び同じ二年間という歳月を卓登と疎遠になったらと思うと、響は非常に寂しくもある。おそらくは激しい虚無感に押し潰されてしまうであろう。
卓登との微妙な関係が壊れてしまうことを響は望んでおらず、卓登を失いたくはないと強く思っていた。
響は出口の見えない心の回廊をまるで迷路のようにさ迷っていた。
自分自身の感情が段々とわからなくなってくる。
卓登と恋人同士になったとして、到達する場所はいったいどこにあるのだろうかと響は考える。
探ってみようとしても、濃く深い靄に覆われていて、どれも頭の中でぼやけては消えていく。
響はもう恋愛をするのは懲り懲りだと思っているわけではない。
今はしばらく恋愛をする気力が湧いてこないだけであり、この先、日々の生活の中で人間が当然のように睡眠や食欲を欲求するのと同じで、自然に誰かに惹かれる日が訪れるであろう。
その相手が卓登になる可能性はあるのか? と問われたら、響は頷くことも否定することもできないでいる。
カラオケから出ると、若者であふれ返っていた繁華街は仕事帰りらしき社会人も増えて昼間よりも賑わっていた。
その顔触れは疲れきっていたり、飲みに行こうと陽気だったりと多種多様だ。
「この後どうする?」
惺嗣がスマートフォンで現在時刻を確認する。
夕方の六時はまだまだ遊べる時間帯だ。
帰ろうか、それともファーストフードやファミレスで軽食でもしようかと思案していたところ、響は卓登と見知らぬ少女が道路の反対側を歩いているところを目撃した。
遠くからでははっきりとわかりにくいが、卓登と一緒に並んで歩いている少女は奇抜的な髪型とファッションではあるものの、どこか垢抜けていてかなりの美少女だ。
当然、これだけ離れていれば何を話しているのかはまったく聞き取れないが、何やら非常に親しそうだ。
想像していたことが現実となって響の心に重たくのしかかってくる。心臓が締めつけられているみたいにズキズキと痛む。
極力、響はみんなから怪しまれないようにして平静を装うも、先程から鼓動は不規則なリズムを奏でている。
響の胃の底からは不愉快な感情が容赦なく込み上げてくる。
急に地面がグラリと揺れたような気がして、地震かなと思った響は周囲を見回したが、ほかのみんなは揺れを感じている素振りなどまったくなかった。
これは地震ではなく、響が立ちくらみを起こしたからだった。
響の頭の中では得体の知れない何者かがうるさく吠え続けており、それは今にも爆発しそうな勢いだった。
誰も動揺しているであろう響の様子には気がつかない。
卓登と美少女が入って行ったお店に響は釘付けになった。
「みんな悪い。オレ、ちょっと急用を思い出した」
あきらかに嘘だとわかる言葉を言った後、響はその場所に友人たちを残して走り去る。
響の姿はあっという間に雑踏の中にまぎれ込んでしまい、そのまま隠されてしまった。
響は卓登と美少女が入って行ったお店の外装に面食らった。
卓登の性格からして、こんなメルヘンチックなお店と卓登はどう考えても似つかわしくはない。
響は入店することに躊躇してしまい、何食わぬ顔でお店の前を素通りした。
しかし卓登とその美少女の関係をどうしても知りたいという感情のほうがはるかに勝っている。
響は急いで方向転換して、再びお店の前まで足を運んだ。
そして一つ深呼吸をすると、響は思い切って店内へと踏み込んだ。