「どうして?」

 僕が呈した苦言に、絢乃さんは首を傾げられた。が、それにはちゃんと理由があったのだ。
 彼女はこの頃まだSNSをやっておられなかったが、僕はバリバリやっていた。就任会見の動画はSNSでも拡散されていたようで、そこに書き込まれていたコメントは好意的なものが多かったが、中には攻撃的なコメントもいくつか書き込まれていた。


『女子高生が会長とか、お嬢さまの道楽かよww』

『どうせ「可愛い」って言われてチヤホヤされたいだけだろ』


 ――僕はこれらのコメントのことを、彼女にはお伝えしていなかった。秘書として、また彼女に想いを寄せる男として彼女の笑顔を奪うようなことはしたくなかったのだ。

「TVに出て悪目立ちするのは、会長の本望ではないでしょう? 僕は反対です。雑誌の誌面などはともかく、TVは多くの人の目に留まりやすいんですよ? それだけ悪意に晒される可能性が高いということです」

「……貴方がわたしのことを心配して言ってくれてるのは分かるよ。でも全国ネットだよ? ウチのグループのこと、全国の人に知ってもらえるチャンスでもあるんだよ? だったら、多少のリスクを抱えてもわたしは受けたい。だからお願い、受けさせて」

「……………………分かりました。 会長がそこまでおっしゃるなら、お受けしましょう」

 加奈子さんがおっしゃっていたが、絢乃さんにはお父さまに似て頑固なところがおありらしい。一度言い出したら聞かないというか、なかなか引っ込めないらしいのだと。
 わがままな上司というのは迷惑このうえない存在だし、僕ももう()()りだと思っていたが、絢乃会長の場合は可愛いからまだ許容できる。

「えっ、ホントにいいの? よかった! 桐島さん、ありがとね!」

 ――こうして彼女が笑顔を花を咲かせるたび、僕は彼女に対して抑えきれない恋心を募らせていく。ただの同僚となら何ということもないオフィスラブも、上司――それも雲の上の人が相手だと後ろめたくなる。ましてや相手はまだ未成年で、おいそれと手を出せない。
 それプラス、僕は心に〝女性不信〟という厄介な爆弾を抱えていたので、彼女が僕に想いを寄せているような素振りを見せられても果たしてそれが本物なのかと、どうしても穿(うが)った見方しかできなかった。

 ――この想いを自分の中でどう消化していけばいいのか、この頃の僕は悶々とした毎日を送っていたのだった。