その言葉に困惑されたらしい絢乃さんがすかさず「それは言い過ぎだ」と里歩さんを咎められたが、彼女の言葉は間違っていなかったし、僕には分かっていた。里歩さんはおそらく、僕の覚悟がどの程度なのかを問いたいのだと。絢乃さん思いの彼女らしいと僕は思った。

「いえ、いいんです。もちろん、僕もそのつもりでいますよ。絢乃さんのことは僕が全身全霊お守りすると決めましたから」

 なので、僕は里歩さんに気を悪くすることなく、真正面から自分の覚悟を言葉にして伝えた。これで納得してもらえるかどうか自信はなかったが、これが僕の精一杯の覚悟だったから。

「……それならいいんです。ごめんなさい、偉そうなこと言っちゃって。絢乃のこと、これからよろしくお願いします。――絢乃、ホントごめん」

 里歩さんは納得して下さったようで、僕に謝られた後、改めて絢乃さんのことを託された。

「ううん、いいよ。ありがと」

 親友に謝られた絢乃さんは、これにも笑顔で応じられていたが、彼女のメンタルはきっと壊れるか壊れないかギリギリのバランスを保っていたのだろう。彼女はそれほどタフではないから。というか、父親を亡くしたばかりの十七歳の女の子がそんなに強いわけがないのだ。
 だからこそ、僕が秘書として彼女を守らなければ――。平和主義者だし、格闘技なんかやったこともないし、頼りないヒーローで申し訳ないが。メンタルの強さにだけは自信がある。彼女が親族たちから集中砲火を浴びせられた時の盾くらいにはなれるだろう。


 ――会長の社葬は一般的な献花式で行われた。篠沢家は無宗教だからだそうだ。
 出棺前になって里歩さんがお帰りになり、僕は自分の愛車で加奈子さんと絢乃さんを斎場までお連れすることにした。

「うん。桐島さん、よろしくお願いします」

「桐島くん、ありがとう。安全運転でよろしくね」

 お二人を後部座席にお乗せすると、僕はハンドルを握って霊柩車のすぐ後ろをついていった。