「本当は、話すべきかどうか、ここに来るまで迷ってたんです。でも、絢乃さんが『もう覚悟はできている』とおっしゃったので、僕も打ち明ける決心がつきました」
こう言った時、僕の声が少し震えていたことに絢乃さんは気づかれていたようだ。優しく、そして落ち着いた声で僕にこう言って下さった。
「うん、大丈夫。パパのことはもう覚悟できてるし、貴方がパパの死を望んでたなんて思うわけないよ。だってわたし、貴方がそんな人じゃないってちゃんと知ってるから」
やっぱり、この人はただ者ではないと思った。どっしり構えているというか、肝が据わっているというか、女子高生にしてこの落ち着きはさすがとしか言いようがなかった。ご両親どちらに似てもきっとこうなるだろう。
「だから桐島さん、これから先、わたしに力を貸して下さい。わたしのことを全力で支えて下さい。よろしくお願いします」
彼女は真剣な眼差しとともにそう言い、僕と同じくらい冷えた右手を僕に差し出した。
「はい。誠心誠意、あなたの支えになります。こちらこそよろしくお願いします!」
その生半可ではない覚悟を受け止めた僕は、両手で彼女の右手を包み込むようにして握り返した。
指先が冷たい人は、温かい心の持ち主なのだと聞いたことがある。僕はそんなところからも、彼女のお父さまに対しての優しさや深い愛情を感じ取ることができた。
「ご存じですか? 手が冷たい人は温かい心の持ち主なんですよ。僕はよく知っています。絢乃さんがお父さま思いの心優しいお嬢さんだということを。そんなあなただからこそ、僕もあなたのお力になりたいと思ったんです」
僕がそう言った時、彼女は少し俯いた。が、その時少し涙ぐんでいるように見えたのはきっと僕の気のせいではないだろう。
だって、僕は知っていたから。お父さまが倒れられた時にも、余命宣告を受けた時にも、絢乃さんがどれほど心を痛めておられたかを。どれほどお父さまのことを心配され、残された親子の時間を大切に過ごしてこられていたかを。どれだけ前向きでいようとしても、彼女の小さな胸(※物理的にではない)には抱えきれないほど大きな悲しみがすぐ間近に迫ってきていたのだから――。
「――絢乃さん、僕はそろそろ失礼します。明日も出勤なので。また何かあったら連絡下さいね」
そんな彼女に別れを告げるのは後ろ髪を引かれる思いだったが、僕は断腸の思いで自分の現実と向き合った。
「うん。そっか、明日もお仕事じゃ、風邪ひいたら大変だもんね。気をつけて帰ってね。また連絡します」
「はい。――それじゃ、また」
僕がそう言って、クルマに乗り込む前に健気な彼女をチラリと振り返ってみると、彼女は人知れず涙を流していた。
こう言った時、僕の声が少し震えていたことに絢乃さんは気づかれていたようだ。優しく、そして落ち着いた声で僕にこう言って下さった。
「うん、大丈夫。パパのことはもう覚悟できてるし、貴方がパパの死を望んでたなんて思うわけないよ。だってわたし、貴方がそんな人じゃないってちゃんと知ってるから」
やっぱり、この人はただ者ではないと思った。どっしり構えているというか、肝が据わっているというか、女子高生にしてこの落ち着きはさすがとしか言いようがなかった。ご両親どちらに似てもきっとこうなるだろう。
「だから桐島さん、これから先、わたしに力を貸して下さい。わたしのことを全力で支えて下さい。よろしくお願いします」
彼女は真剣な眼差しとともにそう言い、僕と同じくらい冷えた右手を僕に差し出した。
「はい。誠心誠意、あなたの支えになります。こちらこそよろしくお願いします!」
その生半可ではない覚悟を受け止めた僕は、両手で彼女の右手を包み込むようにして握り返した。
指先が冷たい人は、温かい心の持ち主なのだと聞いたことがある。僕はそんなところからも、彼女のお父さまに対しての優しさや深い愛情を感じ取ることができた。
「ご存じですか? 手が冷たい人は温かい心の持ち主なんですよ。僕はよく知っています。絢乃さんがお父さま思いの心優しいお嬢さんだということを。そんなあなただからこそ、僕もあなたのお力になりたいと思ったんです」
僕がそう言った時、彼女は少し俯いた。が、その時少し涙ぐんでいるように見えたのはきっと僕の気のせいではないだろう。
だって、僕は知っていたから。お父さまが倒れられた時にも、余命宣告を受けた時にも、絢乃さんがどれほど心を痛めておられたかを。どれほどお父さまのことを心配され、残された親子の時間を大切に過ごしてこられていたかを。どれだけ前向きでいようとしても、彼女の小さな胸(※物理的にではない)には抱えきれないほど大きな悲しみがすぐ間近に迫ってきていたのだから――。
「――絢乃さん、僕はそろそろ失礼します。明日も出勤なので。また何かあったら連絡下さいね」
そんな彼女に別れを告げるのは後ろ髪を引かれる思いだったが、僕は断腸の思いで自分の現実と向き合った。
「うん。そっか、明日もお仕事じゃ、風邪ひいたら大変だもんね。気をつけて帰ってね。また連絡します」
「はい。――それじゃ、また」
僕がそう言って、クルマに乗り込む前に健気な彼女をチラリと振り返ってみると、彼女は人知れず涙を流していた。