「――これが僕の新車です」

「わぁ、カッコいい! これってけっこう高いヤツだよね?」

 僕の新車を紹介すると、絢乃さんはそれがすぐにお父さまの愛車と同じメーカーのものだと分かって下さった。それと同時に、「これなら四百万くらいかかっても当然だ」と理解して下さっただろうか。

 僕が新車として購入し、今も愛車となっている〈L〉はいわば高級車の部類に入る。絢乃さんに乗って頂くならせめてこれくらいのグレードでないと、と選んだのだが、かえって気を遣わせてしまっただろうか?

「はい。内装も、絢乃さんに乗って頂くことを考えてこの色を選びました。どうですか?」

「うん、すごくステキだし、乗り心地もよさそう。でも、どうしてわたしのためにそこまで?」

 彼女はすぐに、僕の言葉の裏にある事情を汲んで下さったらしい。――僕がこのクルマを購入したのがご自身のためである、と。だとしたら、そういう決断をした理由を僕もキチンと打ち明けなくては。

「実は……ですね、こうしたのは僕の異動先にも関係があって……。もう、絢乃さんには申し上げた方がいいかもしれませんね。僕の異動先というのは、人事部・秘書室なんです」

「秘書……?」

 絢乃さんは僕の言葉に瞬いた。ご自身がお父さまの正式な後継者となっていること――ひいては次期会長候補であることを、彼女はまだご存じないはずだった。が、首を傾げずに瞬いたということは、きっとそのことにも気づかれているはずだと僕は思った。
 ただ、やっぱりこのタイミングまで引っ張ったのは失敗だったかな、と僕は内心自分に舌打ちした。もしかしたら、彼女は僕が意図的にこのタイミングを狙っていたと気を悪くされたかもしれないのだ。

「はい。こういう言い方は誤解を招きそうですが、お父さまの跡を継がれるのは十中八九あなたでしょう。僕は万が一そうなってしまった時のために、異動や新車購入を考えていたんです。あなたを支えるため、あなたのお力になるために」

 僕は少々言い訳がましくなったが、慎重に言葉を選んでその経緯を彼女に打ち明けた。彼女を傷付けてしまったらどうしよう、という思いで指先が冷えていくのを自分でも感じていた。