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 ――午後八時少し前にパーティーはお開きとなり、源一会長は「疲れたから先に休む」とおっしゃって、加奈子さんに車いすを押されて寝室にお戻りになった。
 そして加奈子さんがリビングに戻ってこられると、お手伝いさん(お名前は(やす)()(ふみ)()さんとおっしゃるそうだ)も含めた僕たち五人で後片付けをし(「男手があって助かる」と絢乃さんや加奈子さんからものすごく感謝された)、それがすっかり済んだ八時半ごろ、里歩さんが帰られた。外は粉雪が舞っていて、ミニスカート姿だった里歩さんはちょっと寒そうに見えた。

 加奈子さんは会長の様子を見に寝室へ行かれており、安田さんも何やら別の用でリビングからいなくなっていて、気がつくとそこには僕と絢乃さんの二人きり。――秘書室に異動したことを彼女に打ち明けるなら今しかない! 僕は腹を括った。

「――あの、絢乃さん。僕もそろそろ失礼しようかと思ってるんですが、よかったら今から僕の新車、ご覧になりますか?」

「えっ?」

 僕は明らかに、この話題の導入部分をミスった。これじゃ口説こうとして言ったみたいじゃないか!

「先ほど、『お見せしたいものがある』と言ったでしょう?」

「あ……」

 絢乃さんは戸惑っておられたが、プレゼント交換の時に僕が言ったことを口実に使うとすぐにピンときたようだった。やっぱり、絢乃さんは頭の回転が速い人なのだ。

「やっと納車されたので、今日乗ってきたんです。絢乃さんに真っ先にお披露目するとお約束していたもので」

「そういえば……、そうだったね。じゃあちょっと待ってて。部屋からコート取ってくるから」

 確かに、絢乃さんの服装では寒そうだったので、彼女がリビングを出ようとしているところへタイミングよく、彼女のダッフルコートを手にした安田さんがやってきた。……もしや、僕と絢乃さんの会話をどこかに隠れて聞いていたのだろうか?

「ありがとう、史子さん。じゃあ、ちょっと出てきます」

「今日はお世話になりました。楽しかったです。それじゃ、僕はこれで失礼致します」

 絢乃さんがお手伝いさんに手を振ると、僕も彼女に丁寧なお礼を述べ、バッグと新車のキーを掴んで絢乃さんをカーポートまでお連れした。絢乃さんは、茶色のロングブーツ――これも多分、安田さんがシューズクローゼットから出しておいて下さっていたのだろう――を履いて。

 玄関からカーポートまではそれほど離れていない。歩幅は明らかに僕の方が広いが、絢乃さんの歩幅に合わせてゆっくりめに歩いた。彼女がちゃんとついてこられるように。