「はい、お約束します」

 僕は力強く頷いた。きっとこれは、源一会長から僕への遺言だと思ったからだ。

「――ん? なになに、何の約束?」

 そこへ、真っ白なデコレーションケーキの載ったワゴンを押した絢乃さんが戻ってきた。後からたくさんの料理や食器の載ったワゴンを押す加奈子さんとお手伝いさんと思しき五十代くらいの女性、そしてなぜかフライドチキンがどっさり盛られたバスケットを抱えた里歩さんも続いた。

「いやなに、男と男の約束をな。……なぁ、桐島君?」

「ええまぁ、そんなところです。――ところで里歩さん、そのフライドチキンは何ですか?」

 僕は源一会長に頷いてから、里歩さんに訊ねた。

「ああ、コレですか? あたしからの差し入れです。っていっても手作りじゃなくて、ファストフードのお店で買ってきたパーティーパックのを温めただけなんですけどねー」

 あたし料理あんまり得意じゃないんでー、と彼女は笑いながら答えて下さった。……いや、いくら料理が得意な人でも、フライドチキンまで手作りできる人は少ないんじゃないだろうか。
 兄の場合はどうだろうか……って、ここでは関係なかった。

「里歩のお家では、クリスマスは毎年コレが欠かせないんだよね。ウチも助かったよー。今日は人数も多いし、コレのおかげで食卓が賑やかになるから。ありがとね」

 どういたしまして、とドヤ顔で言った里歩さんに、絢乃さんも笑っていた。こうして見ると、自然体の絢乃さんはやっぱりごく普通の高校生のお嬢さんで、里歩さんとは本当に仲がよろしいんだなと僕も微笑ましく思った。


   * * * *


 ――こうして、篠沢家のクリスマスパーティーが始まった。クリスマスソングをBGMにしてごちそうを囲み、楽しい時間が流れていった。

「――絢乃さん、けっこうワイルドなんですね」

 彼女が豪快にフライドチキンを頬張る姿に、僕は正直驚いた。お嬢さまだから、もっと上品に召し上がるのかと思っていたのだ(まぁ、フライドチキンの食べ方に上品な食べ方なんてあるのか、とツッコまれそうだが)。

「え、そう? でもわたし、普段からこんな感じだよ?」

「そうそう。ハンバーガーとか平気でかぶりついてるよね」

「……そうですか。ちょっと意外だな、と思って。でも、おかげで自然体の絢乃さんが見られて親近感が湧きました」

 自然体な絢乃さんは気取りがなくて、本当に可愛い人だ。そんな彼女を見られて僕は嬉しかった。