「えっ、ケーキを手作りされたんですか? スゴいですねー」

 僕は正直驚きを隠せなかった。まさか絢乃さんがお菓子作りの趣味をお持ちだったなんて。……まぁ、ものすごく女の子らしくて彼女らしいといえばらしいのだが。

「うん。お菓子作りだけじゃなくて、お料理全般得意なの。今日は里歩からのリクエストと、パパと一緒に過ごす最後のクリスマスだから久しぶりに作ってみたんだよ。桐島さんのお口にも合うといいんだけど」

「そうなんですね……、それは楽しみです」

 僕は彼女の話に相槌を打ちながらも、気がそぞろだった。もちろん僕はれっきとした招待客だったのだから、堂々としていればよかったのだ。が、絢乃さんと親しげにしていることを源一会長に怪しく思われはしないかと不安に思っていたのだ。そもそも、会長が何を思って僕を招かれたのかもよく分からなかったし。

「――ねえ桐島さん。わたしとちょくちょく会ってること、パパに後ろめたいと思ってるなら大丈夫だよ? パパも知ってるもん」

 そんな僕の様子に気がつかれた絢乃さんが、僕の機先を制した。

「え…………、そう……なんですか?」

「うん」

 そうだったのか……。源一会長は、どうやら絢乃さんに対する僕の想いをとっくにご存じだったようだ。

「ああ、そうだったんですか。よかった……」

 僕はそう呟きながら、その数日前に会長と交わした会話のことを思い出していた。だからあの人は、あの時僕にあんなことをおっしゃったのか――。


『――桐島君、わざわざ来てもらってすまないね。まぁ座りなさい』

 その日、会社に顔を出されていた会長から会長室に呼ばれた僕は、入室するなり応接スペースのソファーを勧められた。いかつい革張りではなく、温かなグリーンのベルベット地が張られた、会長お気に入りのソファーだ。――ちなみにこのソファーはその後、絢乃さんのお気に入りにもなっている。

『はい。――それで、会長。僕に何のご用でしょうか?』

 秘書室は会長室と同じフロアーにあるので、呼ばれたからと馳せ参じるのは苦にならないが、一体どんな用件で呼ばれたのか不思議で仕方がなかった。

『小川君から聞いたんだが、君が秘書室に異動したのは絢乃のためらしいね』

「……えっ!? はぁ、そうです……」

 もしや、僕の絢乃さんに対する下心に(そんなもの、実際はなかったのだが)お気づきになられたのかと、僕は縮こまった。……が。

『いやいや、別にそのことを咎めようと呼んだわけじゃないんだ。それを確かめたうえで、君にぜひとも頼みたいことがあるのだが』