先輩にしつこいくらいに念を押され、僕は半ばウンザリしながら頷いた。とはいえ、これが最後の機会かも……と思っていたのは僕も同じだった。
 どうにか絢乃さんと二人きりになれるチャンスを作って、打ち明けなければ――。この際、彼女にどう思われるか、とか泣かせてしまったら、とか考えている場合ではなかった。


   * * * *


 そして、夕方――。僕は先輩にコーディネートしてもらった服に着替え、アパートの駐車場で新車のエンジンをかけた。
 

〈当日、パーティーが始まるのは夕方六時からだからね♪ 待ってます〉


 その数日前に絢乃さんからスマホに送られてきたメッセージを見返す(もちろん、車載ホルダーにセットして、である)。その一行に、僕にも参加してもらえるんだという彼女の喜びがダダ漏れだった。
 篠沢家の豪邸にお邪魔するのは緊張するし、会長のご存じないところで絢乃さんと親しくしているという後ろめたさから敷居が高いとも感じていた。といって、別に疚しいことをしていたわけでもないのだが。
 でも、そこで「行くのやーめた」ってなワケにもいかなかった。お義理で行くわけでもなかったが、絢乃さんをガッカリさせたくなかったし、僕には彼女に伝えておかなければならないことがあったのだ。

「――さて、絢乃さんはこの服を見てどう思われるかな……」

 思えば、彼女に僕の私服姿を披露するのはこの日が初めてだった。彼女にお会いする時はいつもスーツ姿だったからだ。初めてご覧になった語句の私服姿にどんな反応を示されるか、僕は不安と楽しみが半々だった。
 そういう僕も、彼女のドレス姿と制服姿は見ていたが、普段の姿は見たことがなかった。――果たして彼女の私服は一般的な女子高生と変わらないのか、それともいかにも「お嬢さまでござい」みたいな感じなのか?

「でも絢乃さん、『ブランドものは好きじゃない』って言ってたような……」

 ということは、私服もゴージャス系ではなく一般的な女子高生スタイルなのだろうか。どちらにしろ、恵まれたプロポーションをお持ちの絢乃さんは何を着ていてもお似合いだろう。

「……って、一体何の想像をしてるんだ、俺は」

 自分で自分にツッコミを入れつつ、僕は自由が丘へと真新しいセダンを走らせたのだった。