――そして迎えた、クリスマスイブ当日。

 その日はたまたま日曜日だったため、僕は朝からソワソワとした気持ちで小川先輩と一緒に渋谷のデパートへ出かけた。
 デート、ではない。この日招待されていた篠沢家のクリスマスパーティーに着ていく服を、先輩に選んでもらうためだ。

『――先輩、俺、絢乃さんのお宅のクリスマスパーティーにどんな格好で行ったらいいか分かんないんで、選んでもらっていいっすか?』

 あの日、電話で先輩に頼んでみると、「あたしも忙しいから、土日なら一緒に選びに行ってあげられるけど。っていうか当日って日曜だよね」と言われ、当日になってやっとこういう状況になったというわけだ。

「っていうかさ、桐島くんの部屋にある服見せてもらったけど。ハッキリ言って地味だね。っていうかモノトーン好き?」

「……そんなにバッサリ斬り捨てなくても」

 僕は情け容赦のない先輩のコメントに呻きながら、紳士服売り場で手にしていた黒のニットを棚に戻した。

「あんまり色で冒険したくないんですよ。それで失敗したら大惨事でしょ。だから無難にモノトーンを選んじゃうんです」

「誰に対しての大惨事よ? ……でも、色はともかくセンスは悪くないと思うな。パーティーって言ってもホームパーティーなんだから、あんまり気張ってオシャレする必要もないし。あれくらいの感じで行けばいいんじゃないかな? まぁ、色はあたしがチョイスしてあげるとして」

「そうっすか。じゃあ色は先輩にお任せします」

 そう言って頭を下げると、彼女は張り切って僕のコーディネートを選んでくれた。
 アイテムこそ普段の僕が好んで着るようなものばかりだったが、さすがは女性というか、シャツの色なんかは僕が選ばなそうな明るい色をチョイスしてくれた。

「――先輩、今日は俺の頼みを聞いて下さってありがとうございました!」

「いやいや、いいよぉ。誰でもない可愛い後輩の頼みだからね。あたしも、桐島くんを着せ替え人形にできて楽しかったし。でも、このこと絢乃さんには言わないでね? 嫉妬されるのイヤだから」

 小川先輩は、何だかんだ言って学生時代からの後輩である僕に頼られたのが嬉しそうだった。が、頼むから僕で遊ぶのはやめてほしい。……頼んだ僕が言えた義理ではないかもしれないが。

「着せ替え人形……って。言いませんよ、俺だって」

 僕だって、絢乃さんにあらぬ誤解をされたくはなかったのだ。

「うん、そりゃよかった。――じゃあ、あたしはこれで。パーティー楽しんでおいで。あと、絢乃さんにちゃんと異動先のことも話しなよ? これが最後のチャンスかもしれないんだからね?」

「分かってますよ。――じゃあ、お疲れさまでした」