「――絢乃さん、寒くないですか?」

 帰りのクルマの中で、僕は何やら助手席で考え事にふけっていた彼女に声をかけた。

「ん? 大丈夫だよ。コート着てるし」

 そう答えながらも、両手の指先をこすり合わせていた彼女は少し寒そうに見えた。ああ、でもコートの萌え袖、可愛い……。
 この日は朝から寒く、僕は寒さに強い方なので大丈夫だが寒さに弱そうな絢乃さんのために暖房を効かせて差し上げたかったのに、廃車寸前でバッテリーが上がりかけていた車内での暖房の効果はイマイチだった。新車に変われば、彼女にもっと快適なドライブを楽しんでもらえるのだが……。

「それならいいんですが……。すみません、このクルマ、ポンコツなんで。暖房の効きが悪くて」

「でも、もうすぐこのクルマとはお別れなんでしょう? だったらもうちょっとのガマンだね」

「……そうですね。ところで、先ほどから何を悩まれていたんですか?」

「うん……、クリスマス、どうしようかなーって。何もアイデアが浮かばないの。家族とも、親友とも、桐島さんとも一緒に楽しめる方法、何かないかなぁ……」

 ……あれ? 今、俺の名前出てこなかったか? 僕は一瞬、自分の耳を疑った。彼女はやっぱり、クリスマスを共に過ごす相手に僕もカウントして下さっていたらしい。

「僕のことはお気になさらず。今はお父さまのことを気にかけて差し上げて下さい。それにまだ時間はありますから、ゆっくり考えて下さって大丈夫ですよ」

「…………そう、だね。ありがと」
 
 その時点で、クリスマスイブまでは半月以上もあった。その間にご両親やお友だちと相談して頂ければ、何かいいアイデアが浮かぶかもしれない。そしてあわよくば、僕もその仲間に加えてもらえるかも……なんて思ったのだ。

 ――僕は僕で、運転しながら源一会長の病状について思いを()せていた。
 彼はその頃、すでに体力的にかなり衰弱されていて、車いすで出社されていた。
 その前には辛うじて歩くこともできたが、足腰がかなり弱っておられたので社内でフラついておられることも多かった。廊下で倒れそうになっていた源一氏を、僕が慌てて支えることもしょっちゅうで、「桐島君、いつもすまないね。ありがとう」と感謝されることもしばしばあった。

 そんな体になっても、源一会長は無理をおして出社し、PCに向かって一心不乱に何かをされていたと僕は小川先輩から聞いた。
 一体何をされているのか先輩が訊ねると、「あの子のために、これだけは死ぬ前にどうしてもやっておかなければいけないんだ」とお答えになったそうだ。