それにしても、この人は月々のお小遣いをいくらもらっているんだろう? ――僕はそんな疑問に頭をもたげた。チケットを購入している時に彼女の長財布の中がチラッと見えたが、千円札や五千円札の他に一万円札が何枚も入っているように見えた。多分、十万円に少し欠けるくらいでサラリーマンの僕の所持金より多い。一般的な女子高生が持ち歩く金額ではないよな……。
 そんな()(さい)なことからも自分と彼女との格差を感じ、僕は落ち込むのだった。

「――わぁ……、スゴくいい眺め!」

 地上三百五十メートル地点にある天望デッキのガラス窓にへばりついた絢乃さんは、女子高生らしく無邪気に歓声を上げた。彼女はどうやら高いところも苦手ではないらしい。
 ちなみに、源一会長には高所恐怖症の気があったらしいと絢乃さんがおっしゃっていた。そんなお父さまに遠慮して、生まれて十七年以上このタワーに上ったことがなかったのだと。
 窓の外に広がる、まるでジオラマ模型のような東京の街並みを見下ろす彼女の姿を見て、やっぱりこの人は生まれながらにして大きな組織のトップに立つべき人なんだと僕には思えた。

「気分転換できました?」

「うん! 来てよかった。桐島さん、連れてきてくれてありがとね!」

 僕が訊ねると、満足そうに頷く彼女の表情は明るかった。普段とは違う景色をご覧になれば気分も変わるし、息が詰まりそうな過酷な現実から、彼女をひとときの間だけでも解放して差し上げられる。彼女はきっと、本当は日ごとに近づくお父さまとの別れに心を痛められ、泣きたいのを(こら)えて必死に明るくふるまっておられたのだろう。だからせめて、僕の前だけでも等身大の女の子でいてほしいと願っていた。僕はそのために、秘書になろうと決めたのだ。

 そこでそれとなく、絢乃さんに毎月のお小遣いの額を訊ねてみると、彼女は「毎月五万円」と屈託なく答えて下さった。でもブランドものは好きではないし、高校生の交際費なんて限られているから多すぎるくらいだとおっしゃった。だから財布の中があんなにパンパンになっていたのだ。
「お嬢さまは金使いが荒い」というイメージしか持っていなかった僕は正直驚いたが、絢乃さんは人並みの金銭感覚を持ち合わせているらしく、なかなかの節約家であるらしい。お嬢さま育ちとはいっても、婿養子だったお父さまは元々一般社員だったし、お母さまも教師だった頃にはご自身で給料を管理していたそうなので、その堅実なご両親のDNAを立派に受け継がれているからだろう。