「――絢乃さん、これが僕のクルマです。さ、どうぞお乗り下さい」
僕はリモコンキーでドアロックを解除すると、彼女のために後部座席のドアを開けた。
「ありがとう、桐島さん。でも……助手席でもいいかなぁ?」
彼女はそう言いながら、助手席のドアに手をかけた。
「えっ、助手席……ですか?」
「うん。ダメ、かな? お願い」
その懇願するような眼差しがこれまた可愛くて、僕のハートはまた射抜かれてしまった。
「いえ、あの……。いいですよ、絢乃さんがどうしてもとおっしゃるなら」
「やったぁ♪ ありがとう!」
子供みたいに諸手をあげて無邪気に喜ぶ絢乃さん。こんな何でもない仕草まで破壊級に可愛すぎるなんて反則だ。これにやられない男はいないだろう。彼女はある意味、小悪魔ちゃんかもしれない。
「では、助手席へどうぞ。ちょっと狭いかもしれませんけど」
「うん。じゃあ失礼しまーす」
彼女はクラッチバッグを傍らに置き、お行儀よくシートに収まるとキチンとシートベルトを締めた。
初めて出会った日に、狭い車内で至近距離に想いを寄せる女性がいるというこのシチュエーションは、男にとってちょっとした拷問だ。オプションとしていい香りがしていればなおさら。
「――絢乃さん、何だかいい香りがしますね。何の香りですか?」
「ん、これ? わたしのお気に入りのコロンなの。柑橘系の爽やかな香りでしょ? 今のご時世、香りがキツいとスメハラだ何だってうるさいからね」
「そうですね」
スメハラ=スメルハラスメントの略。つまり、香りによる嫌がらせということだが、今の時代は柔軟剤の香りが強いだけで嫌がらせと言われてしまうのだ。イヤな時代になったものである。
僕も職場でハラスメント被害に遭っているだけに、この言葉にはちょっとばかり敏感なのだ。
「セクシー系の香りって、あまり強いと相手に悪い印象を与えちゃうでしょ? だからわたしも香りには気を遣ってるの。元々シトラス系の香りは好きだったし」
「なるほど。確かに、こういう爽やかな香りなら品があっていいですよね。僕も好きです」
逆に、どキツいセクシー系の香水は清楚な絢乃さんに似合わない気がする。お嬢さまだから、というわけでもないだろうが。
「――ところで、このクルマってお家の人から借りてるの? それともレンタカー?」
無邪気に問うてきた絢乃さんに、僕は「いえ、自前ですよ」と答えた。というか、こんなボロいクルマを貸し出しているレンタカー店なんてあるだろうか。
「……えっ、このクルマって桐島さんの自前なの?」
彼女は僕の返事を聞いて、目を丸くした。その眼差しは「サラリーマンの分際で背伸びしちゃって」というバカにしたものではなく、「自前なんだ、スゴいなぁ」という尊敬の念がこもっているように僕には感じられた。
僕はリモコンキーでドアロックを解除すると、彼女のために後部座席のドアを開けた。
「ありがとう、桐島さん。でも……助手席でもいいかなぁ?」
彼女はそう言いながら、助手席のドアに手をかけた。
「えっ、助手席……ですか?」
「うん。ダメ、かな? お願い」
その懇願するような眼差しがこれまた可愛くて、僕のハートはまた射抜かれてしまった。
「いえ、あの……。いいですよ、絢乃さんがどうしてもとおっしゃるなら」
「やったぁ♪ ありがとう!」
子供みたいに諸手をあげて無邪気に喜ぶ絢乃さん。こんな何でもない仕草まで破壊級に可愛すぎるなんて反則だ。これにやられない男はいないだろう。彼女はある意味、小悪魔ちゃんかもしれない。
「では、助手席へどうぞ。ちょっと狭いかもしれませんけど」
「うん。じゃあ失礼しまーす」
彼女はクラッチバッグを傍らに置き、お行儀よくシートに収まるとキチンとシートベルトを締めた。
初めて出会った日に、狭い車内で至近距離に想いを寄せる女性がいるというこのシチュエーションは、男にとってちょっとした拷問だ。オプションとしていい香りがしていればなおさら。
「――絢乃さん、何だかいい香りがしますね。何の香りですか?」
「ん、これ? わたしのお気に入りのコロンなの。柑橘系の爽やかな香りでしょ? 今のご時世、香りがキツいとスメハラだ何だってうるさいからね」
「そうですね」
スメハラ=スメルハラスメントの略。つまり、香りによる嫌がらせということだが、今の時代は柔軟剤の香りが強いだけで嫌がらせと言われてしまうのだ。イヤな時代になったものである。
僕も職場でハラスメント被害に遭っているだけに、この言葉にはちょっとばかり敏感なのだ。
「セクシー系の香りって、あまり強いと相手に悪い印象を与えちゃうでしょ? だからわたしも香りには気を遣ってるの。元々シトラス系の香りは好きだったし」
「なるほど。確かに、こういう爽やかな香りなら品があっていいですよね。僕も好きです」
逆に、どキツいセクシー系の香水は清楚な絢乃さんに似合わない気がする。お嬢さまだから、というわけでもないだろうが。
「――ところで、このクルマってお家の人から借りてるの? それともレンタカー?」
無邪気に問うてきた絢乃さんに、僕は「いえ、自前ですよ」と答えた。というか、こんなボロいクルマを貸し出しているレンタカー店なんてあるだろうか。
「……えっ、このクルマって桐島さんの自前なの?」
彼女は僕の返事を聞いて、目を丸くした。その眼差しは「サラリーマンの分際で背伸びしちゃって」というバカにしたものではなく、「自前なんだ、スゴいなぁ」という尊敬の念がこもっているように僕には感じられた。