白のモーニングにブルーのアスコットタイを結んだ僕は、式の前に新婦控室で真っ白なベアトップのウェディングドレスに身を包んだ絢乃さんと向き合っている。僕たちの出会いから今日に至るまでのあれこれを二人で思い出しながら話していたのだ。

 ちなみに、ブルーのタイを選んだのは僕が婿入りする立場だからで、一応「サムシング・ブルー」になぞらえてみたのだ。絢乃さんも少し呆れていたのものの、「今は多様性の時代だし、いいんじゃない?」と受け入れて下さった。これが僕たちの結婚の形だと思えば、これもアリなのだろう。

 僕たち二人の出会いが運命だったのだと嬉しそうに語った絢乃さんに、僕も同意した。僕を変えて下さったのは紛れもなく彼女だったのだから、本当に感謝の気持ちでいっぱいだ。

「僕も、絢乃さんに出会えてよかったです。もう二度と恋愛なんてゴメンだと思ってましたけど、そんな僕をあなたが変えて下さったんです。ありがとうございます」

 万感の思いを込めてそう言うと、彼女は静かに、でも大きく頷いて下さった。

「絢乃さん、こんな僕ですが、末永くよろしくお願いします」

「……何かそれ、もう完全に花嫁さんのセリフだよね」

 一般的なカップルとは立場が逆転したセリフのやり取りに、二人で笑い合う。でもこれでいい。


 そうこうしているうちに、加奈子さんが僕を呼びに来た。フォトスタジオで撮影の準備が整ったらしい。

「はい、今行きます! ――絢乃さん、では僕は先に行っていますね。フォトスタジオでお待ちしています」

 絢乃さんに「じゃあまた後で」と送り出され、控室を後にした僕は、入れ違いに加奈子さんと一緒に控室へ入っていった紳士のことが気になった。亡くなった源一会長によく似た顔の彼は、もしかしてアメリカにお住まいだという絢乃さんの伯父(おじ)さんだろうか。


 そして今、僕はスタジオで絢乃さんが来られるのを、これまでに感じたことのない大きな喜びの中で待っている。生まれて初めて心から本気で愛した女性と、今日人生で最良の日を迎えられた喜びを噛みしめながら。
 
 ――源一会長、僕はあなたとの約束をようやく果たせます。僕はこれから、絢乃さんと二人で絶対に幸せになりますよ。
 僕はこの先もずっと、彼女のことを大切に守っていきます。
 だって彼女は、僕の人生において最愛の人だから――。

               E N D