とりあえず、彼女には僕のクルマの後部座席に乗って頂き、僕も同じく後部座席へ移動した。 
 僕へ謝罪する彼女も、やっぱり何かあった時にはあのお二人に守ってもらうつもりでおられたらしい。僕はそれが面白くなく、「あなたが他の人に守られるなんて、僕はイヤなんです。あなたを守るのは僕じゃないとダメなんです」とダダっ子みたいなことを言ってしまった。
 だって、そのせいで(原因はそれだけではなかったのだが)せっかくキックボクシングを習ったのにその苦労がムダになってしまったのだ。
 それはともかく、僕を守るためというなら、あえて僕と距離を置いて中傷の目を遠ざけるという方法もあったはずだが。彼女はそれがイヤだったとおっしゃった。多少危険があったとしても、お金がかかっても僕の側にいて守る方がいいと思ったと。それだけ、彼女の僕への愛は深かったということだ。

「…………まぁ、絢乃さんに何もなかったからもういいです。その代わり、僕に心配をかけるのはこれで最後にして下さいね? 約束ですよ?」

「うん、分かった。もう二度と、こんなことはしないって約束するから」

 僕たちは指切りをして微笑み合った。彼女はウソをつけない人なので、信じて大丈夫だ。こう思えるようになったのも、もちろん彼女のおかげだった。僕もずいぶん変わったなと思う。

 そして、僕はちゃんと言葉にして彼女からのプロポーズの返事を――プロポーズ返しをした。

「――絢乃さん、僕、覚悟を決めました。あなたのお婿さんになりたいです。僕と結婚して下さい。お父さまの一周忌が済んで、絢乃さんが無事に高校を卒業して、そうしたら。……で、どうでしょうか」

「はい。喜んでお受けします!」

 彼女は万感の思いで頷いて下さり、僕たちは晴れて婚約関係となった。指輪はクリスマスイブに改めて贈ることになった。


   * * * *


 ――そして迎えた、絢乃さんと二人きりで過ごす初めてのクリスマスイブ。
 僕たちは会社帰りにお台場のツリーを見に行き、オシャレなレストランで夕食を摂った。ちなみに絢乃さんはすでに学校が冬休みに入っていたので、朝から冬物のスーツで出社されていた。

「――絢乃さん、クリスマスプレゼントも兼ねてこれを。まだ渡せてませんでしたけど、エンゲージリングです。サイズは加奈子さんから伺ったので、多分ピッタリだと思うんですけど」

「わぁ、ありがとう! ……うん、ホントにピッタリだわ。さすがはママ」